継母の心得

トール

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第二部 第2章

299.フラグ立つ

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テオバルド視点


「その『エンプティ』とかいう犯罪組織が、今回ノアちゃん……いえ、ディバイン公爵家の公子を誘拐したというのね」
「エンプティは世界各国に拠点があり、巨大犯罪組織ではあるが、巧妙に擬態し、調査をかいくぐっている。公爵家の者でも実態の把握は難しく、現在も調査は続けているが進展はない」
「可愛らしい響きの巫山戯た名前の割には、腹が立つほど隠れんぼが上手なようね……っ」

皇城の一室で、皇后と皇帝に息子の誘拐事件の顛末を報告する。皇后はノアを可愛がっているからか、かなり立腹しているようだ。

「それと、息子が監禁された場所に赤ん坊が一人捕らえられていた」
「何ですって!?」
「その赤子はクレオ大司教の孫だ」
「はぁ!?」

耳が痛い……。無理もないが、少し声を抑えてもらいたいものだな。

「クレオ大司教というと、イーニアスの祝福の儀や、他の子の祝福の儀でも世話になったような……?」

皇帝陛下がそういえば……と首を傾げながら話に加わってくる。

「アンタは洗脳中だったからあまり記憶がないわよね」
「うむ。朕はイーニアスとレーテの事以外、ほとんど覚えておらぬのだ!」
「胸を張る所じゃないわよ?」

相変わらずすっとぼけた皇帝だ。

「だって仕方ないのだ。朕にとってレーテとイーニアスの事以外些末な事だったのだ」

陛下の言い分もわからなくはない。私も昔は、公爵家の事以外は些末だった。何のために自分がいるのかすらわからない、つまらない毎日だったが、今は大切なものが増え、生きている意味を見出だせている。

「まったく……。クレオ大司教といえば、庶民から大司教にまで上り詰めた有名人よ。確か若い頃は聖女の側付きだった方で、温厚篤実オンコウトクジツな人柄の庶民の人気が高い聖職者の鑑のような方なの」
「そうなのか?」
「イーニアスの祝福の儀でもお会いしたけれど、噂通りのお優しそうなおじい様だったわ」
「ほぅ、では良い人なのだな!」
「馬鹿朕。頂点にまで上り詰めた人間が良い人なわけないでしょ」

皇后の言う通りだ。上に立つ者は、人の良さだけでやっていけるほど世の中甘くはない。……いや、この皇帝だけは別かもしれんな。

「えぇ!? でも今、レーテは温厚篤実オンコウトクジツとかなんとか言っていたのだ」
「表向きの話よ。あれは相当な狸ね」
「た、狸!? 狸は可愛いのだぞ。朕は狸を見た事があるが、尻尾がふわっとして、目もくりくりで、大変可愛かったのだ」
「アンタねぇ……」

何だ、このくだらないやり取りは。

「……御二方とも、もうよろしいか」

深刻さの欠片もない二人に溜め息しか出てこない。
……不思議なものだ。昔なら苛々したかもしれんが、今はこんな巫山戯た話し合いも悪くはないと思えるのだから。

「すまぬのだ公爵! それで、えーっと、そう、クレオ大司教の孫も誘拐されていたとは本当か!?」
「はい。どうやら、エンプティと教会の一部の者が繋がっているようなのです」
「何だと!? 教会が、犯罪組織と繋がっているのか!?」

陛下は私と皇后の顔を見比べ、一人慌てている。

「まだ確認出来ておりませんが、エンプティの幹部は教会関係者なのではないかと考えております」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



イザベル視点


「ワンッ」
「ウォンッ」

雲一つない青空の下、ぺーちゃんとノアが、公爵邸のしっかり手入れされた芝生の上を、ナラとデューク、子猫と共に駆け回っている。正確には、ぺーちゃんはよちよちとわたくしのそばではしゃいでいるのだけれど、本人はノアと駆け回っているイメージでいるのかもしれない。

「ワンッ」
「にゃっ」
「あ~、じゅーく、めっ、よ」
「クゥン」

お茶目で子供好きなデュークが、ぺーちゃんの背中を鼻でちょんっと押し、少し離れてぴょんぴょん飛び跳ねながらワンッとひと吠えする。ぺーちゃんはそれに驚いて「にゃっ」と鳴いて、それに気づいたノアがデュークをたしなめているではないか。

「フフッ、可愛いですわね」
「はいっ、ノア様はすっかりお兄ちゃんです」

カミラがノアの様子を眺めながら、わたくしのつぶやきに応えてくれる。

カミラも一年前とは比べ物にならないほど、子供のお世話が上手になりましたわね。

「ぺーちゃん様も、初めはナラとデュークを怖がっていましたけど、仲良くなれたようで良かったですね!」
「そうね。やっぱり子供は順応が早いですわ」

きゃっきゃと遊ぶノアとぺーちゃんを見て、この平和な時がずっと続けば良いのに。と思っていたのだけれど、フラグが立つってこういう事を言うのかしらね。


「奥様、クレオ大司教の使いでぺーちゃん様を迎えに来たと言う、教会関係者が来ております」

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