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第二部 第2章
297.ぺーちゃんの悪夢
しおりを挟むぺーちゃん視点
舞い上がる砂埃、上がる悲鳴、飛び散る人間の血。
他国からの侵略戦争が始まってそれほど月日は経っていないのに、崩れ落ちた家々や瓦礫の転がるひび割れた道、人の居なくなったぐちゃぐちゃに荒らされた街は、見るも無惨で……これが戦争? どうしてこんな事に……っ、常にそればかりが頭を支配する。
「タイラー子爵という悪魔も、その協力者のイーニアスも、イザベルも皆倒したのに、どうしてこんな事になったんだ……」
帝都ではいつ殺されるかもわからない。
そう思ってディバイン公爵領に逃げて来たけど、まさか戦争が始まるなんて。
「フェリクス、違うの。イーニアス殿下も、イザベル様も、殺してはいけなかった……」
「フローレンス? まさかノアが間違っていたと言ってるの?」
「そうじゃない! ノアの判断は仕方がなかった。けど……、私たちは間違えたの……」
わからない。フローレンスは間違えたというけど、イーニアスもイザベルも、私たちを殺そうとしていたじゃないか。
「悪魔は……、悪魔はタイラー子爵じゃなかった……」
「え、どういう事……」
「聖女様! お逃げくださいっ、皇室騎士団が、聖女様を捕らえにこちらへ向かっています!!」
フローレンスとの話を遮る大声と共に、司祭が部屋に飛び込んで来たから驚いて肩が跳ねた。
「なん、何だって!? フローレンス、ここに居てはダメだ。早くディバイン公爵家へ移動を……っ」
フローレンスを見ると彼女は首を振り、諦めたような顔をして呟いたんだ。
「ノアに迷惑はかけられない……」
「え……」
「私はノアの足枷になってるの。出会った頃からそう。あの人は優しいから……、優しすぎるから、私の事が放っておけなかった」
「何言って……」
「フェリクス、私……」
「そんなのいいから、早く逃げよう!」
手を引っ張り上げるが、フローレンスは立ち上がろうとしなかった。
「聖女フローレンス、皇太后陛下暗殺の容疑で捕縛する」
「!? やめ……」
「フェリクス、さようなら。ノアをお願いします」
「フローレンス!?」
私はこの時も何も出来なくて……、弱虫で意気地なしで、非力。鑑定なんて能力があっても、何一つ役に立たない……っ。だからクレオは、あの時私のせいで……っ
「───様、聖女フローレンス様が……処刑されました」
◆◆◆
「にゃ……!?」
夢……? ここはどこ……
「ぺーちゃん、おっきしたのかしら」
目が眩みそうなシャンデリアや、華やかで品のある壁紙、高級そうな家具が目に入る。
ここは、ディバイン公爵家だ。けど……優しい声。フローレンスじゃない女の人の……
「ぺーちゃん?」
イザベル・ドーラ・ディバイン!? そうだった。私はさっきドーベルマンに頭をぱっくんされて……っ
「にゃ!」
私の頭は無事か!?
「驚かせてごめんなさいね」
頭を触るとちゃんとあった。ぱっくんはされなかったようだ。ほっとしていると、私のおしゃぶりを咥えさせられる。
あ、いつものやつ……ちゅっちゅと吸えば落ち着いてくる……って、違うぞ! 私はおしゃぶりなんて、そんな赤ん坊のようなもの、必要ないんだからな!
「ぺーちゃん、怖い夢を見たの? 大丈夫よ。わたくしもノアも、そばにいますわ」
「ん、にゅ……にょあ」
ノア! ノアはどこにいるのだろう!?
「ふふっ、ノアは……ほら、ここでねんねしておりますのよ」
ソファでぐっすり眠るノアは、教会の絵画にある天使みたいで、「ぁう……」と見惚れて声が漏れてしまう。手を伸ばすが抱っこされているので届かない。
ハッ! そういえばドーベルマンにはもう会えないのだろうか。
「ぅ、わんわ……」
「もしかして、ワンちゃん?」
「にゃ」
「ぺーちゃんがねんねしたから、ワンちゃんもねんねしに、お家に戻ったのよ」
「にゃ……」
ドーベルマンは怖かったけど、一度は触ってみたいワンちゃんだ。思い出すとやっぱり怖いけど。
「ぺーちゃん、ワンちゃんはお部屋には入れないけど、猫ちゃんならほら、ノアの布団の中にいますわよ」
なに!? この家には猫もいるのか!?
「にゃー!」
「ええ。猫ちゃんよ。まだ子猫なの。ぺーちゃんと同じね」
本当だ、良く見たらノアと一緒に子猫が眠っている。触りたい! 小さくてもふもふだ!!
「にゃー!」
「触りたいの?」
触りたい!
「ぺぇちゃ、にゃん、ちゃーりゅ!」
「ぺーちゃんが猫ちゃんみたいですわね。静かに、優しく撫でてあげてくださいましね」
子猫を触らせてもらったが、極上の触り心地だった。
「ふぁ、ふぁ」
「ええ。ふわふわね。ぺーちゃんの髪の毛もふわふわで、子猫と同じ触り心地ですわよ」
イザベルはそう言って、私の頭を優しく撫でる。
さっきから彼女の腕に抱かれているが、安定感も抜群で、温かくて優しい匂いがする。まるで……
「……かぁちゃ」
お母さんだ。
「なぁに、ぺーちゃん」
「……にゃ……かぁちゃ」
「ここにいますわ。だから安心なさい」
怖い夢を見た。本当にあった事だ。情けなくて、苦しくて、辛い……。
でもここには、あたたかい居場所があるんだ───
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