継母の心得

トール

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第二部 第2章

285.夫婦と赤ちゃん

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ノアがわたくしの腕の中で、泣きつかれて眠った頃だ。わたくしもやっと涙が収まり、リビングに移動してノアに膝枕をしたまま、鼻水を拭いて目の腫れを冷やしていた時である。

テオ様が赤ちゃんを抱っこして、わたくしの目の前までやって来たではないか。

「まぁっ、テオ様、その子供は一体……っ」

ノアとは反対側に腰掛けたテオ様は、腕の中で眠る赤ちゃんを見せてこう言った。

「どうやら、ノアと同じように誘拐された子供らしい」
「何ですって!? 誘拐犯は、赤ちゃんまで拐っていましたの!?」

何という非道……っ

「ノアが言うには、名をぺーというらしい……」
「ぺー? ノアが、この子の名前はぺーだと言いましたの?」
「ああ」
「……ぺーちゃん?」

そういえば、ノアったらブルちゃんやゲコリンと、お友だちを変な呼び方するのでしたわ。

「では、仮の名前でぺーちゃんと呼ぶ事にいたしましょう」
「……ああ」

テオ様は少し口の端を引きつらせたが、仕方ないと諦めたように頷いてくれた。

「それで、ぺーちゃんはどういった経緯でノアと出会いましたの?」
「それなのだが、ノアが連れて行かれた廃墟の一室にいたらしい。二人はそこに暫く閉じ込められていたが、影の追跡に気付いた誘拐犯が地下道から子供たちを連れ出したそうだ」

こんなに幼いノアと赤ちゃんを、廃墟に閉じ込めていましたの!?

「ワイン樽に入れられた後、荷馬車で港まで運ばれ、機を見て逃げ出したようだが、見つかったらしい」
「ワイン樽!?」

そんな危険な運び方をされたなんて……っ、しかも逃げ出しましたの!?

「何て事を……っ、ノアは、かなり恐ろしい目にあったのだわ……」

怪我はないと言うけれど、心には大きな傷を負ったかもしれませんわ。

わたくしの膝枕で、安心しきって眠るノアの頭を撫でる。

「ノアは私たちが思うよりもずっと強い。何しろこの赤ん坊を守りながら、誘拐犯を倒したのだからな」
「!? ノアが、誘拐犯を倒したのですか!?」
「私が港に着いた時にはすでに、誘拐犯は氷漬けになっていた」

氷漬け!? この可愛いノアが、人間を氷漬けにしましたの!?

天使が眠っているのかというほど、愛らしい寝顔の息子を二度見してしまいましたわ……。

「疲れ切って眠る直前まで、この赤子を気にしていた」
「まぁっ、ノアったら。赤ちゃんを見てお兄ちゃんの自覚が出てきたのかしら」
「ああ、そうかもしれん……」

父親の優しい眼差しをノアに向けるテオ様の姿に、涙がこみ上げてきましたわ。わたくし、いつの間にこんなに涙腺が弱くなっていましたの。

「テオ様、わたくしも赤ちゃんを抱っこしたいですわ」
「ああ」

赤ちゃんの抱っこの仕方や、お風呂の入り方を最近練習し始めたからか、とても堂に入っている夫に、何だか微笑ましいよりも羨ましさが勝ってしまいましたわ。

わたくしのお願いを、「もちろんだ」と、聞いてくれたテオ様は、そっと赤ちゃん……ぺーちゃんを抱っこさせてくれたのだ。

「赤ちゃん、小さいですわ……」

それにあったかい。

「ああ。やはり本物は、力を入れると簡単に骨が折れそうで怖い」
「テオ様、恐ろしい事を言わないでくださいまし」
「……すまない」

まったく、わたくしの旦那様はこんなに美しいのに、力が有り余っておりますのよね。

それにしても、赤ちゃんってふにゃっとして柔らかいですわ。

「テオ様、ぺーちゃんはどこの子か、まだわかっておりませんのよね」
「ああ。ウォルトに、騎士団へ捜索願いが出ている子供を調べてもらっているところだ」
「きっとご両親は、心配されていますわね……」

わたくしも、ノアが戻って来るまで心配で胸が張り裂けそうでしたわ。

「この子の両親を見つけると、ノアと約束した」
「それは、約束を守らないといけませんわね」
「ああ。そのつもりだ」

テオ様はわたくしの肩を抱くと、優しい手つきでお腹を撫で、微笑んだのだ。


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