継母の心得

トール

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第二部 第2章

284.お帰りなさい 〜 イザベル視点/ぺーちゃん視点 〜

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「ノア……!!」

アカから、影とテオ様がノアを保護し、怪我もないと伝えられ、いてもたってもいられず、部屋を飛び出した。

まだ馬車は邸に到着していないとわかっていたけれど、駆け出さずにはいられなかったのよ。外に出る前に、ミランダやカミラに止められたけれど。

それから玄関に一番近い客間で落ち着かない時間を過ごし、馬のいななきが耳に届いた瞬間、勢いよく外へと飛び出したのですわ。

馬車が到着して扉が開き、テオ様が姿を見せるまでの時間が、とても長く感じた。
ノアをその腕に抱いている姿を見たら……もう、涙腺が決壊して、頭で考える前に足が動いていたのだ。

「おかぁさま!!」
「ノア!!」

テオ様の腕から降りて、わたくしの所に駆けてくるノアの目にも涙が浮かんでいて、わたくしの腕の中に飛び込んで来た息子を強く、強く抱きしめる。

ノアの体温を感じ、無事だと思ったら、涙が止まるどころかどんどん溢れてきて、ノアの髪を濡らしてしまう。

「ノア……っ、怖い思いをさせてごめんなさい……っ」
「おが……っ、ぅぐ、おがぁさまぁ!」
「無事で良かった……っ」
「ぅぐ……っ、ふ、ぅ゛あ~ん!」

ノアはわたくしの腕の中で、堰を切ったように泣き出した。
恐怖と寂しさ、安堵、色んな感情がわたくしを見て爆発したのだろう。

こんな風に感情を剥き出しにして泣きじゃくるノアは、悪魔に引き離されたあの時以来ですわ。あの時はわたくしが、今回はノアが拐われて……っ

「ノア……っ」

こんなに幼い子が、たった一人で怖い思いをしたの……

「もう大丈夫よ。お母様がここにいますわ」
「ぅ゛あ゛~ん」
「ずーっとそばにいますわ」

もう離すものかと、必死で抱き寄せる。ノアも、その小さな手でぎゅうっとわたくしの首に抱きつき、二人でわんわん泣いていると、

「ベル、ノア、お前たちを危険な目に合わせてしまうとは……すまない」
「っ……て、テオ様のせい、では……っ、ありませんわ」

わたくしたちを包み込むように抱きしめてくれるテオ様。するとノアが鼻をすすった。

「ふふっ、お鼻がずびずびですわね」

ノアも、わたくしも。

「ずび……っ、おか、おかぁ、ざま……っ」
「なぁに、ノア」
「あぃた、ぐすっ……が、かっだのよ」
「わたくしもですわ。わたくしも、ノアに会いたかった……っ」

その言葉に、涙がとどまることを知らないように次から次へと溢れ出す。

「お゛、おどぅさま、ひっく、も……っ、あぃ、だか……っ」
「っ……ノア」

テオ様の、ノアを呼ぶ声が震えた。先ほどよりも、少し力の入った手が、夫の感情を伝えてくる。

ああ……、そうなのね。
この二人の間にあった氷の壁は、とっくに溶けて消えていましたのね。もう、何の心配もいらないのだわ。


「テオ様、ノア、お帰りなさい」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



ぺーちゃん視点


「……ちぁにゃ、ちぇんじょ、にゃ……」

デジャヴか。この口はまたしても、「知らない天井だ」と発音出来なかった。

じゃない! どこだ、ここは!?

細かい彫刻が施された天井には、相応の豪華なシャンデリアがぶら下がり、小さな明かりが灯されている。

あれは蝋燭ではなく魔石か……。

そしてこのふかふかの雲の上にいるような感覚……、私に掛けられているのは、触り心地がもふもふと気持ち良い布団! いつまでも触っていたい……。しかも何て軽いのだろう!

「ちゅっ、ちゅっ、ちゅ……」

ハッ! このふわふわに抗えず、吸ってしまった……。ど、どうしよう。こんな高級布団をよだれでベチョベチョにしてしまって……。

「ぁう……っ」
「まぁっ、おっきしましたのね!」

誰だ!?


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