継母の心得

トール

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第二部 第2章

282.残痕 〜 公爵家の影A視点/ぺーちゃん視点 〜

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公爵家の影A視点


目の前に広がるのは、幻想的な氷の世界。
港の一部が荷馬車と共に凍りついているのだ。
馬車に使われている木や部品が、氷の圧力に負けたのか歪に曲がった状態で固まり、さらには二人の男の氷像がそばにある。頭だけは凍らされていないが、真っ青な顔でガチガチと歯を鳴らせていた。

「これは……っ」

我々影は、ディバイン公爵家の宝であるノア様が誘拐され、妖精様のお言葉を聞くことが出来る聖人、我らの主であるテオバルド公爵閣下の指示の下、ノア様が囚われていると思しき場所へ向かったのだ。しかし、一歩遅く、ノア様はすでに移動された後で、居場所を特定するのに時間がかかってしまった。
何しろ妖精様の声を聞こえる者は影にはいないのだ。
逃してしまえば、隅々まで痕跡を辿り、地道に探し出すしかない。

焦りは失敗を生む。冷静に。そう思えども、我らの宝を拐われたとあっては、心穏やかにはいられない。

やっと居場所を突き止め追いついたのは、早朝で……。

「なんという事だ……」

空が明るくなった頃、港の全貌が見え、愕然とする事になる。

「かげ……?」
「っ……の、ノア様!? ご無事ですか!?」

二つの氷像の前に、朝日に照らされた小さな影。そこから聞こえた小さな呟きに、我々は自然と身体が動き、駆け出した。

「お怪我はございませんか!?」

跪くと、ノア様に怪我がないか目視する。外傷はなさそうだが、内蔵の損傷があるかもしれない。痛い所はないか、違和感はないか、歩き方一つも見逃さず確認しなければならない。

「おけが、にゃ……ない、の。わたし、だいじょぶよ」

ノア様の落ち着いたお声を聞いた瞬間、全員が安堵した。

「ノア様を保護! 犯人は氷像の二人だと思われる!」

全員に聞こえるよう伝え、「ノア様、失礼いたします」と抱き上げる。

このように小さなお身体で、泣きもせず、犯人を討ち取るとは……、やはり閣下のご子息だ。

凄まじい氷魔法の痕跡に、ノア様の将来を思い笑みが漏れた。

「あっ、ぺーちゃん!」
「? ノア様、ぺえちゃんとは一体……?」
「あかちゃんよ! きのね、うちろ、かくれたの!」

木? ここは港だ。木などないはずだが……

「ノア様、木はこの辺りにはありませんが……」
「? きのうちろ、ぺーちゃんと、かくれたのよ……」

木か……、ここにあるのは、木の樽と……積み重ねられた木材の……

「ノア様、もしや、あちらの立てかけられた木の後ろではありませんか!?」

だとすれば、危険だ!

あの木材は長い間この港で潮風にさらされていたようで、朽ちる寸前。ノア様の仰るように赤ん坊が木材の影にいたとしたら……っ

「立て掛けてある、朽ちる寸前の木材の後ろに赤ん坊がいる!! 今すぐ救出しろ!!」

木材に一番近い場所に居た者が、駆け出す。

「にょあっ」

その時、ひょこっと赤ん坊が顔を出し、猫の鳴き声のような声を出して、こちらへやって来ようとしたのか、歩き出したのだ。しかし、タイミングの悪い事によろけてしまい、そのまま木材にぶつかって……

「く、崩れるぞ!!」
「ぺーちゃん!!」

ダメだ、間に合わない……っ



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



ぺーちゃん視点


ノアが、魔法で誘拐犯を倒した。

4歳とは思えない……いや、大人でもあんな威力の魔法を撃てないと思わせる残痕が、朝日に照らされ顕になる。

この惨状に私は、陽の光に照らされた氷がキラキラして、なんて綺麗なんだと場違いな事を思っていた。

いつの間にかノアの回りに、大人が沢山集まっていて、こんなに沢山の敵!? と不安になり鑑定すると、ディバイン公爵家の影と出たので安堵した。

「にょあ!」

助けが来た事に嬉しくなり、木の影から出てノアに駆け寄ろうとしたのだが、私は赤ん坊だった。
よろけて木にぶつかってしまったのだ。反動でぺちゃんと尻もちをついてしまう。

「ぃちゃちゃ……」

怪我はないが、ちょっと痛かった。

「崩れるぞ!!」

ぶつかった肩をさすっていると、誰かがそう叫んで……

「にゃ?」

パラパラと粉が落ちてきて、髪についた為頭を振る。
木の軋む音はもちろん聞こえたが、頭を振った時に目が回り、ふらふらした。

「ぺーちゃん!!」
「? にょあ、」

ノアに呼ばれたので顔を上げ……、あれ? 目の前に木が落ちてくる……。

事故にあった時、スローモーションになると聞いた事があるが、これ、事故……?

パキパキ……

飲み物の入ったグラスに氷を入れた時の、パキパキとした音が聞こえた気がした───


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