継母の心得

トール

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第二部 第2章

273.誘拐 〜 ノア視点 〜

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── イザベルがおもちゃの宝箱入店した直後 ──


「さぁ、馬に水を飲ませてやらないとな!」

公爵家専用の駐車場に馬車を停車させた御者は、近くの井戸のポンプを動かす。ポンプを何度か上下させると、水が出てきて、併設された馬の水飲み場へと流れていくのだ。

ディバイン公爵領都の井戸には、すべてこのポンプが付けられている。

「ポンプっていうのは、何度使っても便利だなぁ」

ついでに、と出てくる水を手ですくい、喉を潤す。「美味い水だ」とひと息つき、「あんたも水を飲むと良い!」と馬車を手入れしているはずのフットマンへと声をかけると、もう一度水を飲み、馬のブラッシングでもしてやろうと振り返ったその時、頭に衝撃が走り、御者はそのまま意識を失ったのだ。

馬車の後部車輪の辺りには、フットマンも倒れており、ピクリとも動かない。

「よし……、上手くいった。こいつらは縛り上げて物陰にでも転がしておけ」
「はい。公爵家の影といっても大したことないですね」
「うちの国の影の方が、よほど優秀だというのは、わかりきっていた事だ」
「そうですね」

御者とフットマンと、似たりよったりの背恰好をした男が二人、手早く服を奪い着替えながら、まるで世間話でもするように会話している。その後あっという間に拘束し、建物の隙間に押し込むと、落ち着かないようにブルブルとなき動く馬を宥める。

「わかっているとは思うが、子供が馬車に乗ったらすぐ、馬を全速力で走らせろ」

フットマンの格好をした男が指示を出せば、御者の格好をした男が頷き、それぞれの位置につく。
暫くすると、何も知らないおもちゃの宝箱のスタッフが来て、「公爵夫人が戻られますので、馬車を回してください」と伝えると、男たちはゆっくりと、おもちゃの宝箱の駐車場へと馬車を移動させたのだ。

その口角が、微かに上がっているのに、気付く者はいなかった───



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



ノア視点


「チロ……おかぁさま、ばちゃのってないの……」
『ベル、イナイノニ、ウゴイテイルノ! タイヘンナノー!』
「しょう。わたし、ゆーかい、されたのよ」
『ユーカイ!?』

ぽっけのなかある、ハンカチだして、なみだゴシゴシよ。

『ノア、チロイルノ。ダイジョウブナノ』
「はい! チロいるから、だいじょぶ!」

わたし、まけない!!

おててぐぅにして、「ふんっ」てしてたら、ばちゃのドア、ガチャって、あいたのよ!

まだ、おうまさん、はしってるのに、どして?

「ん? てっきり泣いていると思ったが……」

ドアからね、しゅるん、しゅとんって、ひと、はいってきたの!!

にんじゃ! えほんの、にんじゃなのよ!!

『ノア! コノヒト、ワルイヒトナノー! チカヅイチャ、ダメー!!』
「わるい、ひと! こっち、きちゃめっ!!」

チロがおちえてくれたから、ばちゃの、はちっこよって、めっちたの。

「ふんっ、ガキでも自分が置かれた状況を理解しているようだな」

わたしみて、ふんっちて、わたしのまえ、ドスンッて、すわったの。

こわいのよ……。おかぁさま、おとぅさま……っ

『ノアニ、テヲダスナ、ナノー!!』

チロ、わたしのおかおのまえ、おててひりょげて、まもってくれてる……。

チロ、いる……っ、こわく、ない!!

「そんなに睨むな。氷のガキ。恨むなら、金になりそうな能力を持って生まれた自分を恨む事だ」

おかね、なりしょな、のうりょく?

「これから行く場所には、お前の他にもう一人いるからな。寂しくはないだろう」

ゆーかい、も、ひとりいるの?

「大人しくしていろ。そうすれば、殺しはしない」

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