継母の心得

トール

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第二部 第2章

271.アスレチック遊具

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「おかぁさま、おでかけ、ちま……、しま、しょ?」

妊娠が判明してから、心配性の夫と使用人によって、ずっと公爵邸から出られず鬱々としていたわたくしを見て、幼いながらもこれはダメだと思ったのか、なんと、ノアがお出かけに誘ってくれたのだ。

「もちろんですわ!」
「奥様!?」
「外出はおすすめできません。特に馬車の振動はお身体に負担がかかりますので、お止めさせていただきます」

ミランダやメイドの子たち、カミラまでもが止めに入るが、外出出来ずに鬱々している事も身体に、特に心の健康に悪いのではないか。

「馬車の揺れでしたら、道の整備と馬車の改良で問題ありませんわ。それに、街の外に出るわけではないのですもの。心配無用です」

道が整備された街中であれば、揺れも身体に負担がかかるほどではないはず。前世でも電車移動していた妊婦さんも多くいますものね。

「わたくし、ノアと街へ出かけてきますわ!」
「奥様!?」

けれど、この判断がノアを危険な目に合わせる事になるなんて、この時は知る由もなかったのだ───



久々のお出かけに、ノアもご機嫌で、馬車から窓の外を眺めている。ニコニコしている所も、大人しくおすまししている所も、全てが可愛らしい。

「久々に、おもちゃの宝箱本店に行けますわね」
「たのしみ、ね!」

キラキラ輝く息子の笑顔、眩しいわ。

最近整備されたばかりの道は凹凸も少なく、新型馬車でなくとも通りやすいのだろうと、少し離れた所を走る旧型馬車を眺めながら考えていれば、あっという間におもちゃの宝箱本店に到着したのだ。

「着きましたわね」

広い駐車場はすでに馬車で埋まっており、店の前でわたくしとノア、ミランダとカミラを降ろし、近くに借りている専用の駐車場へ行った公爵家の馬車を見送ると、駐車場側の入口から中へ入る。

「すべりだい、あるかしら?」
「あらあら、ノア、本店には帝都支店の滑り台は無い事は、知っているでしょう?」

まだ諦めていなかった息子に、笑いが漏れる。

「あのね、すべりだい、ちゅくってねっ、したら、ちゅぎくるとき、ちゅくってますよって、おやくそく、ち、したのよ」
「まぁ、いつの間にそんなお約束していましたの?」

前に来た時だと胸を張るノアは、巨大滑り台があるのだという期待が高まっているようだ。
しかし、わたくしは滑り台を作ったという報告を受けていないわけで……

泣いてしまったらどうしましょう。

と思っていたのだけど……

「嘘でしょう……!?」

店内中央にメルヘンなお菓子の家が堂々と建ち、そこから三方向に伸びる巨大な滑り台が……

「これはアスレチック遊具……っ」
「すべりだい、あるのよ!!」

もちろん帝都支店の滑り台の方が大きいのだけれど、室内の中央に堂々と建つアスレチック遊具は圧巻だ。

「こ、これ、どうしましたの!?」

「しゅごーい!」と大興奮で、遊具に駆けて行くノアを、カミラが慌てて追いかけるのを、わたくしは呆然と見送る。

これ、なんの報告も受けておりませんわよ……

「ククッ、驚いたかい、嬢ちゃん」

横から聞き覚えのある声が耳に届き、ハッとして顔をそちらへ向けると、そこにいたのは、

「イフ!」
「ハハッ、その顔は相当驚いたみたいだな」

おもちゃの宝箱の内装工事やおもちゃ作りなど、とてもお世話になっている、工務店の店主イフさんがニヤニヤした顔で立っていたのだ。

「あんたにサプライズってやつさ」
「サプライズ……」

イフの後ろにはお店のスタッフたちが集まってきて、やりきったというような表情しているではないか!

「まぁっ、まぁ! あなたち、やってくれましたわね!!」

わたくしのその言葉を聞いた瞬間、わっと店内が沸いた。

「公爵夫人、私たち、自分たちで考えて、アイデアを出してこれを作り上げたんです!」
「このお菓子の家は、夫人の絵本から、これが良いんじゃないかって、私が!」
「滑り台を三方向に付けるアイデアは自分が!」
「その滑り台の形は私が考えました!!」
「色はオレ、いえ、私が!!」

口々に報告してくれるその内容に、胸がいっぱいで、目が潤んできましたわよ!

「ふふっ、皆様素晴らしいですわ! 頑張りましたのね」
「おかぁさまっ、おかぁさま! わたし、おうちなか、はいったのよ!」

お菓子の家の中から手を振るノアに、わたくしも手を振る。

あんなにはしゃいじゃって、可愛いですわ。

カミラがお菓子の家の入口からノアを見上げ、はわはわと焦っているのを視界に捉えながら、スタッフやイフさんに、「息子もあんなに喜んでおります! 約束を守っていただき、ありがとう存じますわ」と伝えると、おもちゃの宝箱に笑顔が溢れたのだ。

素晴らしい仲間がこんなにもたくさん、わたくしのそばにおりましたのね。

今日は最高の日ですわ!



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



新年あけましておめでとうございます。

冬休みをいただきありがとうございました!
本年も【継母の心得】をよろしくお願いいたします。

本日より、また毎日更新を再開いたします。
楽しんでいただけますと幸いです。

震災で被災された方、お心を痛めていらっしゃる方、皆様が少しでも癒やされますように。
一刻も早い救援と復興をお祈り申し上げます。

そして、震災で亡くなられた方のご冥福をお祈りいたします。


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