継母の心得

トール

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第二部 第2章

270.巡り巡って 〜 テオバルド視点/イザベル視点 〜

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テオバルド視点


私の目の前で悠長にカップを傾けている老人は、自らが少し話さないか、と誘って来たと言うのに、なかなか口を開かない事に段々苛立ってくる。

しかも今は茶菓子に夢中ときたら、私の苛立ちもわかるだろう。

「これは可愛らしい菓子ですなぁ」

カラフルなマカロンの中から水色のものを摘み、顔を綻ばせる大司教は、「こちら、お土産にいただいてもよろしいかな?」と皇城の使用人に伺いを立てているではないか。

「私の孫に持って帰ってやりたいのですよ」
「孫?」
「一歳になったばかりの可愛い盛りなので、喜ぶのではないかと思いましてなぁ」

一歳だと?

「大司教、一歳ならばまだその菓子は止めたほうが良いだろう。糖分が多すぎるからな」
「そうなのですか?」
「赤ん坊は消化吸収力が弱い。油や糖分は毒になると妻が教えてくれた」
「それは博識な奥様ですなぁ。私は子育ての経験が無いもので……、ああ、孫は引き取った子なのですよ」

大司教は未婚だと記憶していたから、孫がいると聞いて驚いたが、そういう事か。

「それならば、卵や小麦、乳製品なども、合わない子供もいるようなので、与える時は注意した方が良い」
「ほぅほぅ、それも初耳ですな。いやぁ、為になりました。しかし、孫が甘いものを食べたいと言い出した時にはどうすれば良いのか……」
「ならば芋やかぼちゃ、果物などを与えるのが良いだろう。私の妻は、食パンにさつまいものペーストを塗ったものを、息子に与えている事もある」

ノアのおやつも、そういったものが出る事も多い。菓子は来客時を除いて、週に一度だけとベルが決めているからな。

「公爵はお子様がいらっしゃいますから、よくご存知なのでしょうなぁ」
「……」

全部ベルからの受け売りだ。

「そんな事よりも、話とは何だろうか」
「おおっ、そうでしたな! すっかり違う事に夢中になっておりましたぞ」

この爺……。

「本題に入りますが、公爵、あなたは『エンプティ』という組織をご存知でしょうか」
「!? 大司教が何故、犯罪組織の名前をご存知なのか」

警戒を強めるが、大司教は気に留める事無く話を続けたのだ。

「やはりご存知でしたか」
「……」
「実は、教会の一部の者が、どうやらその『エンプティ』と繋がっているようなのです」
「何だと……?」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



イザベル視点


妊娠が判明して、劇的に何かが変わるかといえばそんな事もない。と言いたいが、実は周りの気の使い方が……まるで病人のような扱いになっているのだ。

考えてみると、テオ様の周りの使用人は子育てノータッチ、仕事命な男性ばかりだし、わたくしの使用人は未婚者の若い女性。さらにこの世界の子育ての知識は命を危険にさらすレベルで遅れている。

そうなると……、

「奥様、妊娠初期はあまり動かない方が良いのだそうです」
「お子様の分まで召し上がらないといけませんから、お食事の量を増やしました!」
「お散歩ですか!? ダメですよ!? 何かあったらどうするんですか」

などなど、色々と頭をひねるような事を言われてしまいますのよね。

「心配してくれているのは有り難いのだけれどね……」

高度な義務教育と、情報過剰とまで言われていたネット社会の有り難みが、今になって痛いほどわかりましたわ。

「わたくし、無事に出産出来ますわよね?」

医療の遅れや自身の出産に対する知識の無さに、何だか急に不安になってくる。

「ムーア先生に相談すべきよね……」

あぁ……、妊婦さんって、こんなに不安な事がたくさんありますのね。

「これはますます、子育て支援センターを早く作らないとっていう気になってきますわね」

子供にとっても、親にとっても、より良い環境を作っていかなければ。それが巡り巡って、ノアの為にも、この子の為にもなるのだから。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



いつも【継母の心得】をお読みいただき、ありがとうございます。

突然で申し訳ないのですが、今年は明日の12/25~来年の1/5まで、更新をお休みさせていただこうと思います。

今年も一年、本当にありがとうございました。
皆様のお陰で幸せな一年を過ごす事ができました!
感謝の気持ちでいっぱいです。

皆様も良いお年をお迎えください。

来年もよろしくお願いいたします。


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