継母の心得

トール

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第二部 第2章

267.判明

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「お姉様、お久しぶりです」
「オリヴァー! 暫く見ないうちに背が伸びて!」

目元以外はお母様似の中性的な外見はそのままに、背が伸びてわたくしに追いついていた弟にびっくりする。
男子、三日会わざれば刮目して見よという言葉もありますけれど、14歳ですものね。成長期ですわ。

「もうすぐお姉様の背を追い越せますね」
「本当に、こんなにちっちゃかった子が……」

膝の辺りに手をやっていると、「そんなに小さくありません!」と怒られた。

シモンズ伯爵家の為に作らせた新型馬車でやって来た弟は、一年前とは違い、装いも伯爵家らしい上品なものに変わっている。

公爵邸の大きな玄関ホールでお出迎えしたわたくしは、元気そうな弟の姿にほっと息を吐いた。

「フフッ、長距離の移動に疲れたでしょう」
「それが、お姉様の開発した新型馬車の乗り心地が良くて、全然疲れませんでした! ベッドにもなるので、フローレンスもお気に入りなんですよ!」
「それは良かったですわ。ドニーズさんとフロちゃんはどこかしら?」
「ドニーズには今、荷降ろしを手伝ってもらっています。フローレンスは、サリーが抱っこして少し後ろを歩いていたはず……」

開いた玄関から外を見ると、お花が咲き乱れる庭で、サリーの腕の中、蝶々に手を伸ばしているフロちゃんの姿が見え、思わず顔がほころんだ。

「サリー、フロちゃん!」

呼べば、わたくしの顔を見た途端、「よーてーたん!」と嬉しそうに笑うフロちゃんに手を振る。
ドニーズさんも荷降ろしを終えたのか、使用人や御者たちと共に二人の後ろをこちらに向かって歩いてきている。

目が合って、ペコリと会釈をされるので、一応公爵夫人として、優雅に見えるよう微笑んでおいた。

「さぁ、皆お疲れでしょう。広間にお茶を用意しておりますわ。くつろいでちょうだい」

隣の領地から来たとはいえ、数日前に帝都から長距離を移動して、まだ疲れが残っているであろうオリヴァーたちを、お客様用のリビングへと案内する。
暫くして、テオ様とノアがやって来て挨拶を交わし、皆でお茶を飲んでいると、フロちゃんがよちよちと近寄って来たのだ。

ノアに赤ちゃんはすぐに成長するとは言ったものの、さすがに数ヶ月では、まだ可愛らしいよちよち歩きのままのようだ。

女の子はまた息子とは違う可愛さがありますのよね。いつまでもよちよちのままでいて欲しいと、一瞬思ってしまいましたわ。

ただ、前よりスムーズに歩けるようにはなっていて、フロちゃんの成長を感じたのだ。

「よーてーたん、らっこ!」
「こ、こらっ、フローレンス!」

ドニーズさんが慌てて止めようとするが、こんな可愛いお願いを聞かない訳にはいかない。

ドニーズさん、胃の辺りを押さえているけど大丈夫かしら……。

「まぁ、フロちゃんを久しぶりに抱っこ出来るのね!」

抱き上げ、膝の上に乗せると、前よりも少し重くなった気がして、成長しているのねぇとしみじみしてしまう。

「おかぁさま、わたしも! あとでだっこ、して?」

“わたち”から、“わたし”と発音出来るようになったノアが、フロちゃんを抱っこしているのを見て羨ましくなったらしい。最近あまり抱っこを強請ってこなくなっていたので、嬉しくて即頷いたわ。

「もちろんよ!」

前だったら泣いていたのだろうけど、わたくしの返事ににこにこと笑って、フロちゃんに譲ってあげるノアは、確実に成長している。

「よーてーたん、ポンポン、きえー!」
「え?」

フロちゃんが突然、わたくしのお腹を見て目を輝かせたのだ。

「まんまりゅ、きあきあ! よちよち」

その小さなおててで、わたくしのお腹をなでなでしだすと、触られた所がふわりと温かくなった気がした。

「フロちゃん……?」
「よーてーたん、ポンポン、まんまりゅ、きあきあ!!」

わたくしに何かを伝えようとしているが、いまいちよく分からない……。

『ベル! フローレンスが、ベルのお腹の中に丸くてキラキラしているものが居るって言ってる!!』
『フロ、スコシダケ、イヤシノチカラ、オナカニナガシタ!』
『フロスゴイ!! モウ、イヤシノチカラ、ツカエル!!』

妖精達が、周りに来て大騒ぎし始める。

「ベル……っ」

テオ様は何かに気付いたように立ち上がり、ウォルトは「医師を呼んで参ります」と言って部屋から出て行った。
わたくしとノア、オリヴァー、ドニーズさんは良く分かっておらず、首を傾げる。

「いいこ、いいこ。きあきあ」

いいこ……、え、フロちゃん、もしかして……っ


「……わたくしのお腹に、赤ちゃんがおりますの?」


「エェェ!? お姉様に、子供がァァァ!!?」

弟の絶叫が響き渡る中、暫くして到着したムーア先生に、診察してもらってから妊娠が確定し、テオ様に絶対安静を言い付けられたのだけど、過保護すぎませんか?



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



~ おまけ ~

【ノア、発音矯正の授業を受ける】


「ノア様、昨日の授業で『さ行』を使った文章を考えていただきましたが、本日はその文章を口に出して読んでみましょう。正しく発音出来るよう、ゆっくり声に出してみてください」

今日はノアの発音の授業だ。『さ行』が苦手なノアの為に、先生は色々考えてくださっている。

「はい!」

元気よくお返事をして、昨日の文字の授業で書いた文章を読み始めるノアに、うちのこ、単語どころか、文章が書けるようになっているのだわ! と成長を感じた。

「おみじゅ……ず、のなか、おさかなさん、が、しっぽ、ふりふりちて、して、およいでいま、し、た!」
「お上手ですよ。では、もう一度読んでみましょう」

か、可愛すぎる文章ですわ!
確か一昨日の晩餐のメインが魚料理だったからかしら。お魚さんが思い浮かんだのね。

「おみずの、なか、おさかなさんが、ち……しっぽ、ふりふり、して、およいでいました!」

ノア、とっても上手に読めましたわね! などと心の中で拍手を送っていましたのよ。すると先生が、

「先程よりもスムーズに読むことができましたね。では今度は、早口で短い言葉を三回言ってみましょう。そうですね……『わたし、おかあさまが、すき』なんてどうでしょうか」

まぁっ、わたくしが見学に来たから、サービスしてくれたのかしら。

ノアは嬉しそうにわたくしを見た後、「はい!」とさらに元気よくお返事をして、早口言葉に挑戦する。

「わたち、おかぁさま、しゅ、すき! わたち、おかぁさま、すき! わたし、おかぁさま、だいしゅき!」
「わたくしもノアが大好きですわ!」

ノアの早口言葉に、思わず返事をしてしまいましたわ。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



いつも【継母の心得】をお読みいただき、ありがとうございます。

今回の話を、あれ? 読んだ事あるぞ。と思われた皆様、申し訳ありません。第一部の『186.妊娠』をこちらに持ってきました。
本編の流れ上、ここで入れた方が良いと思い、少し手直ししております。

よろしくお願いいたします。


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