118 / 387
第二部 第2章
267.判明
しおりを挟む「お姉様、お久しぶりです」
「オリヴァー! 暫く見ないうちに背が伸びて!」
目元以外はお母様似の中性的な外見はそのままに、背が伸びてわたくしに追いついていた弟にびっくりする。
男子、三日会わざれば刮目して見よという言葉もありますけれど、14歳ですものね。成長期ですわ。
「もうすぐお姉様の背を追い越せますね」
「本当に、こんなにちっちゃかった子が……」
膝の辺りに手をやっていると、「そんなに小さくありません!」と怒られた。
シモンズ伯爵家の為に作らせた新型馬車でやって来た弟は、一年前とは違い、装いも伯爵家らしい上品なものに変わっている。
公爵邸の大きな玄関ホールでお出迎えしたわたくしは、元気そうな弟の姿にほっと息を吐いた。
「フフッ、長距離の移動に疲れたでしょう」
「それが、お姉様の開発した新型馬車の乗り心地が良くて、全然疲れませんでした! ベッドにもなるので、フローレンスもお気に入りなんですよ!」
「それは良かったですわ。ドニーズさんとフロちゃんはどこかしら?」
「ドニーズには今、荷降ろしを手伝ってもらっています。フローレンスは、サリーが抱っこして少し後ろを歩いていたはず……」
開いた玄関から外を見ると、お花が咲き乱れる庭で、サリーの腕の中、蝶々に手を伸ばしているフロちゃんの姿が見え、思わず顔がほころんだ。
「サリー、フロちゃん!」
呼べば、わたくしの顔を見た途端、「よーてーたん!」と嬉しそうに笑うフロちゃんに手を振る。
ドニーズさんも荷降ろしを終えたのか、使用人や御者たちと共に二人の後ろをこちらに向かって歩いてきている。
目が合って、ペコリと会釈をされるので、一応公爵夫人として、優雅に見えるよう微笑んでおいた。
「さぁ、皆お疲れでしょう。広間にお茶を用意しておりますわ。くつろいでちょうだい」
隣の領地から来たとはいえ、数日前に帝都から長距離を移動して、まだ疲れが残っているであろうオリヴァーたちを、お客様用のリビングへと案内する。
暫くして、テオ様とノアがやって来て挨拶を交わし、皆でお茶を飲んでいると、フロちゃんがよちよちと近寄って来たのだ。
ノアに赤ちゃんはすぐに成長するとは言ったものの、さすがに数ヶ月では、まだ可愛らしいよちよち歩きのままのようだ。
女の子はまた息子とは違う可愛さがありますのよね。いつまでもよちよちのままでいて欲しいと、一瞬思ってしまいましたわ。
ただ、前よりスムーズに歩けるようにはなっていて、フロちゃんの成長を感じたのだ。
「よーてーたん、らっこ!」
「こ、こらっ、フローレンス!」
ドニーズさんが慌てて止めようとするが、こんな可愛いお願いを聞かない訳にはいかない。
ドニーズさん、胃の辺りを押さえているけど大丈夫かしら……。
「まぁ、フロちゃんを久しぶりに抱っこ出来るのね!」
抱き上げ、膝の上に乗せると、前よりも少し重くなった気がして、成長しているのねぇとしみじみしてしまう。
「おかぁさま、わたしも! あとでだっこ、して?」
“わたち”から、“わたし”と発音出来るようになったノアが、フロちゃんを抱っこしているのを見て羨ましくなったらしい。最近あまり抱っこを強請ってこなくなっていたので、嬉しくて即頷いたわ。
「もちろんよ!」
前だったら泣いていたのだろうけど、わたくしの返事ににこにこと笑って、フロちゃんに譲ってあげるノアは、確実に成長している。
「よーてーたん、ポンポン、きえー!」
「え?」
フロちゃんが突然、わたくしのお腹を見て目を輝かせたのだ。
「まんまりゅ、きあきあ! よちよち」
その小さなおててで、わたくしのお腹をなでなでしだすと、触られた所がふわりと温かくなった気がした。
「フロちゃん……?」
「よーてーたん、ポンポン、まんまりゅ、きあきあ!!」
わたくしに何かを伝えようとしているが、いまいちよく分からない……。
『ベル! フローレンスが、ベルのお腹の中に丸くてキラキラしているものが居るって言ってる!!』
『フロ、スコシダケ、イヤシノチカラ、オナカニナガシタ!』
『フロスゴイ!! モウ、イヤシノチカラ、ツカエル!!』
妖精達が、周りに来て大騒ぎし始める。
「ベル……っ」
テオ様は何かに気付いたように立ち上がり、ウォルトは「医師を呼んで参ります」と言って部屋から出て行った。
わたくしとノア、オリヴァー、ドニーズさんは良く分かっておらず、首を傾げる。
「いいこ、いいこ。きあきあ」
いいこ……、え、フロちゃん、もしかして……っ
「……わたくしのお腹に、赤ちゃんがおりますの?」
「エェェ!? お姉様に、子供がァァァ!!?」
弟の絶叫が響き渡る中、暫くして到着したムーア先生に、診察してもらってから妊娠が確定し、テオ様に絶対安静を言い付けられたのだけど、過保護すぎませんか?
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
~ おまけ ~
【ノア、発音矯正の授業を受ける】
「ノア様、昨日の授業で『さ行』を使った文章を考えていただきましたが、本日はその文章を口に出して読んでみましょう。正しく発音出来るよう、ゆっくり声に出してみてください」
今日はノアの発音の授業だ。『さ行』が苦手なノアの為に、先生は色々考えてくださっている。
「はい!」
元気よくお返事をして、昨日の文字の授業で書いた文章を読み始めるノアに、うちのこ、単語どころか、文章が書けるようになっているのだわ! と成長を感じた。
「おみじゅ……ず、のなか、おさかなさん、が、しっぽ、ふりふりちて、して、およいでいま、し、た!」
「お上手ですよ。では、もう一度読んでみましょう」
か、可愛すぎる文章ですわ!
確か一昨日の晩餐のメインが魚料理だったからかしら。お魚さんが思い浮かんだのね。
「おみずの、なか、おさかなさんが、ち……しっぽ、ふりふり、して、およいでいました!」
ノア、とっても上手に読めましたわね! などと心の中で拍手を送っていましたのよ。すると先生が、
「先程よりもスムーズに読むことができましたね。では今度は、早口で短い言葉を三回言ってみましょう。そうですね……『わたし、おかあさまが、すき』なんてどうでしょうか」
まぁっ、わたくしが見学に来たから、サービスしてくれたのかしら。
ノアは嬉しそうにわたくしを見た後、「はい!」とさらに元気よくお返事をして、早口言葉に挑戦する。
「わたち、おかぁさま、しゅ、すき! わたち、おかぁさま、すき! わたし、おかぁさま、だいしゅき!」
「わたくしもノアが大好きですわ!」
ノアの早口言葉に、思わず返事をしてしまいましたわ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
いつも【継母の心得】をお読みいただき、ありがとうございます。
今回の話を、あれ? 読んだ事あるぞ。と思われた皆様、申し訳ありません。第一部の『186.妊娠』をこちらに持ってきました。
本編の流れ上、ここで入れた方が良いと思い、少し手直ししております。
よろしくお願いいたします。
3,280
お気に入りに追加
33,288
あなたにおすすめの小説
継母の心得 〜 番外編 〜
トール
恋愛
継母の心得の番外編のみを投稿しています。
【本編第一部完結済、2023/10/1〜第二部スタート☆書籍化 2024/11/22ノベル5巻、コミックス1巻同時刊行予定】
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?
こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。
「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」
そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。
【毒を検知しました】
「え?」
私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。
※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです
玉の輿を狙う妹から「邪魔しないで!」と言われているので学業に没頭していたら、王子から求婚されました
歌龍吟伶
恋愛
王立学園四年生のリーリャには、一学年下の妹アーシャがいる。
昔から王子様との結婚を夢見ていたアーシャは自分磨きに余念がない可愛いらしい娘で、六年生である第一王子リュカリウスを狙っているらしい。
入学当時から、「私が王子と結婚するんだからね!お姉ちゃんは邪魔しないで!」と言われていたリーリャは学業に専念していた。
その甲斐あってか学年首位となったある日。
「君のことが好きだから」…まさかの告白!
【完結】私はいてもいなくても同じなのですね ~三人姉妹の中でハズレの私~
紺青
恋愛
マルティナはスコールズ伯爵家の三姉妹の中でハズレの存在だ。才媛で美人な姉と愛嬌があり可愛い妹に挟まれた地味で不器用な次女として、家族の世話やフォローに振り回される生活を送っている。そんな自分を諦めて受け入れているマルティナの前に、マルティナの思い込みや常識を覆す存在が現れて―――家族にめぐまれなかったマルティナが、強引だけど優しいブラッドリーと出会って、少しずつ成長し、別離を経て、再生していく物語。
※三章まで上げて落とされる鬱展開続きます。
※因果応報はありますが、痛快爽快なざまぁはありません。
※なろうにも掲載しています。
【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
(完)妹の子供を養女にしたら・・・・・・
青空一夏
恋愛
私はダーシー・オークリー女伯爵。愛する夫との間に子供はいない。なんとかできるように努力はしてきたがどうやら私の身体に原因があるようだった。
「養女を迎えようと思うわ・・・・・・」
私の言葉に夫は私の妹のアイリスのお腹の子どもがいいと言う。私達はその産まれてきた子供を養女に迎えたが・・・・・・
異世界中世ヨーロッパ風のゆるふわ設定。ざまぁ。魔獣がいる世界。
【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜
白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。
舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。
王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。
「ヒナコのノートを汚したな!」
「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」
小説家になろう様でも投稿しています。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。