継母の心得

トール

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第二部 第1章

264.真相

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「ロメロの実と蒸留酒の取り合わせをご存知であれば、もう、私の両親がどのように亡くなったのか、調査されているのでしょう」

デルベ伯爵は、テオ様としっかり目を合わせたまま自身の両親の話をし始めた。

「ああ……」
「ご存知の通り、私の両親は閣下のご両親である、前公爵夫妻がお亡くなりになった後、自から命を絶ちました」
「何故、自ら命を絶った」
「それは、父が良かれと思ってやってしまった事が原因です」

良かれと思ってやってしまった事……

「私の父はロメロの実と、蒸留酒の取り合わせが悪い事を知らず、親友であった前公爵の事を頼むと労いを込めて、御者へ酒のつまみとして人気の高いロメロの実と、偶々手に入りやすかったウィスキーを差し入れたのです」

本当に偶々でしたの?

「もちろん差し入れする前日に、父も同じものを味見して、問題がなかった事を確認した上でしたが、まさか二日も後になって症状が出るなど……っ」

そうよね。アレルギーも遅延型症状の場合は、二日後になんて珍しくないらしいけれど、この世界ではアレルギーや食べ合わせはまだまだ研究すらされていませんもの。

「……では、やはりあれは事故だったと言うのか」
「故意ではありません。父も、御者の操作ミスだと聞いて、自身の症状と食材の相性の悪さに気付いたのだと、命を絶つ前日、私に告白してくれたのです」

その時は、両親が自ら命を絶つとは思っていなかったそうだ。

「父は責任感の強い人でした。そして、親友を自分の過失で亡くしてしまった事に耐えられなかった。母もそうです。主家の当主を殺してしまったも同じ、と考えたのでしょう……」

テオ様も、前伯爵も現伯爵も、責任感と忠誠心が強い方たちだと言っていましたわ……。

横に座るテオ様を見れば、ただ無表情でじっとデルベ伯爵を見ていた。

「閣下、今まで黙っていて申し訳ありません。罰を受けろと言われるのならば、もちろん従います」
「……故意ではない。そして、前伯爵はもう亡くなっている。それに関して罰を受けろ、などとは言わん」

だが、とテオ様は続ける。

「お前はそれを知ってなお、私にロメロの実とウィスキーを差し入れたな」
「……はい」
「それに関して、どう言い訳する気だ」

そう、前伯爵は故意でなかったとしても、この人がやった事は完全に犯罪だ。許せる事ではない。

「ディバイン公爵家、ひいては一族の未来の為でした」
「何だと……」

一族の未来の為ですって……っ

「貴族の婚姻は、遅くとも20代前半。高位貴族に至っては、10代での婚姻も珍しくありません。しかし、あなたは20代後半になっても婚約者すらお決めにならず、後継者は親類からの養子縁組を考えておられましたな」
「……」
「そのような事を容認するのは、自ら命を絶つほど忠誠の厚かった両親を思うと、どうしても難しかったのです。だから、あの女の計画を偶然知ってしまった時、これが正当な後継者を作る最後の機会だと、」

ダンッ

テオ様が机の上に拳を振り下ろし、その大きな音に話が途切れる。

「……デルベ伯爵、あなたはその自分勝手な考えで、わたくしの旦那様の心に大きな傷をつけたのですよ。それを自覚されておりますか」

己は忠誠心が厚いなどと勘違いし、自分に都合の良い考えでテオ様を傷つけたデルベ伯爵に、その辺りの自覚があるのだろうか。

「夫人、私は酷い事をしたとは思いますが、後悔はしておりません」
「あなたは一体、何に対して忠誠を誓っているのでしょうか。主家の当主を陥れてまで……、ご両親の思いを言い訳にしてまで、何を守ろうと言うのです」
「ディバイン公爵家、そしてその一族の未来です」

頑なにそれを繰り返すのは、何かを隠す為なのか。それとも……

「質問を変えますわ。前公爵夫妻があなたの奥様のご実家が管理する町に訪れようとしたのは、テオ様とあなたの奥様の婚約の話を無かった事にし、あなたとの婚約、もしくは婚姻を進める為だったのでしょうか」
「その通りですな」

わたくしの追求を肯定するこの男は、自身の話が矛盾しているとは思わないのだろうか。

「それは、先程言った事と矛盾しますわね。公爵家と一族の未来を考えていたあなたが、テオ様の婚約の話を無かった事にした挙げ句、そのお相手の女性を自分の妻にするだなんて」

この言葉に、少し間を置いた伯爵は、驚くべき答えを返してきたのだ。

「夫人、私は……私の妻がディバイン公爵家に相応しくないと思っていました。だから、ディバイン公爵家から、彼女を遠ざけようとしたのですよ」


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