継母の心得

トール

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第二部 第1章

263.喚問

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デルベ伯爵が日記の最後のページを接着剤で貼り合わせたのは間違いない。そして、ロメロの実と蒸留酒の取り合わせで酩酊感や眠気が起こる事も知っていたのだろう。

そう考えると、最初のテオ様の両親の事件はデルベ前伯爵が起こした事件、ノアの乳母の事件とテオ様の事件はデルベ伯爵が起こしたと考えるのが妥当よね。

「ベル、デルベを呼び出す事にした」

テオ様は、日記が手元にあることと、自身の事件の状況証拠でデルベ伯爵を追求する事に決めたようだ。
ノアの乳母の事件に関しては証拠はないが、同じ手口だという事で、これも問い質す気でいるのだろう。

「その際には、わたくしも同席させてくださいませ」
「……君は言い出したら聞かないからな」

溜め息と共に呆れ声でそう言われたが、「そこがわたくしの長所ですのよ」と胸を張ったのだ。

余計呆れられましたけれど。


そして、デルベ伯爵の喚問当日。
彼は逃げることなく堂々とやって来た。

「───デルベ伯爵家の管理する町……いや、今は別荘に滞在中だったか? そちらから足を運んでもらい、感謝する」

護衛がいつもよりも多めに配置されたお客様用の応接室で、ソファにわたくしとテオ様が、ソファの横にはウォルトが立つ中、デルベ伯爵は飄々とした態度でテオ様の嫌味を受け流す。
ミランダが扉の前で険しい瞳をデルベ伯爵に向けているが、それもまったく意に介していない様子だ。

「閣下、本日は何用で呼び出されたのでしょうかな。夫人もご一緒のようですが」

わたくしに一瞬目を移すが、すぐにテオ様を見て口を開いた。

「デルベ伯爵、貴殿にしては些か急き立てているように感じるが?」
「まさか。そのようにお感じになられたのであれば、勘違いだとお伝えしたい」
「そうか、まぁ良い。遠くから足を運んでもらったのだ。飲み物でも飲んでリラックスしてくれ」

テオ様はウォルトに視線で合図をすると、コーヒーとロメロの実を持ってこさせたのだ。

「これは……」
「これは最近妻が異国の珍しい豆を見つけてな。それを焙煎し、粉にしたものに湯をいれた、コーヒーという飲み物だ。苦味が強いものだが、慣れるとその苦味もまた美味い」
「初めての方は、お好みでお砂糖とミルクを入れると飲みやすくなりますわ」

あえてロメロの実には触れず、コーヒーをすすめると、デルベ伯爵は笑って、

「何とも言えぬ色をしていますな。紅茶の何倍も濃い色だ。しかし、香りはとても良い」

色には抵抗があるようだが、香りはお気にめしたらしい。

「これは、飲めば眠気覚ましにもなる上、消化の手助けもしてくれるそうだ。仕事の効率も上がった気がする」
「テオ様、飲み過ぎは良くありませんのよ。一日に3~4杯までで留めておいてくださいましね」
「ベル、言われずともわかっている」

わたくしが注意していれば、デルベ伯爵が「お互い妻には頭が上がりませんな」と声を出して笑っていたのだ。

ここだけ見れば、気の良い方なのだけれど。

「砂糖とミルク以外にも、ブランデーも合う。どうだ」

その一言に、デルベ伯爵の顔色が変わる。

「……いや、初めて飲むものだから、まずは砂糖とミルクを試してみます」

この反応は、クロですわよね。

テオ様は「そうか」と頷き、慣れた手つきでブラックのままコーヒーを飲む。
デルベ伯爵はというと、一度そのままのコーヒーに口をつけ、苦味をダイレクトに感じたような顔をして、砂糖を少量入れ、少しずつ味見をしながら好みの味に調整していた。とても慎重な性格のようだ。

「これは、砂糖とミルクを入れると、美味ですな」

コーヒーを気に入ってくれたようだ。と、目的がコーヒーを、飲ませる事にすげ変わっておりましたわ。危ない、危ない。

「さて、本題に入ろうか」

コーヒーでひと息ついた後、テオ様がとうとう尋問……いえ、本題にはいった。

「デルベ、お前はロメロの実と蒸留酒の取り合わせが、酷い酩酊感や眠気を引き起こす事を、知っていたな」

テオ様、いきなり核心をつきましたわ!!

「……やはり、その事でしたか」

デルベ伯爵は、観念したように話し始めたのだ。

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