継母の心得

トール

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第二部 第1章

259.暗い色

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「一体いつになれば、謹慎は解けるの……」

小鳥の囀りに、紅葉した木々の葉が舞い落ちる。美しい湖畔が日当たりの良い部屋の窓から、少し遠目にその姿を見せ、時間は穏やかに流れていく。

「……ココア、謹慎が解かれる事はない。あなたは、ディバイン公爵夫人を殺害しようとしたのだから……」

この物騒な会話は、そんな風光明媚な場所に佇む屋敷から聞こえてくるのだ。

「違う……。殺害しようとしたんじゃない……っ」
「襲うよう犯罪集団に依頼したのだろう」
「だって、それはあの女が公爵夫人として相応しくないから」
「ココア……っ」

女は男に、悪びれもせず喋ると、虚ろな目で窓の外を見やる。

「あの女を外国に売れば、お金も手に入るし、私が公爵夫人になる事もできる。一石二鳥でしょう」
「ココア!! あなたは私の妻だ。公爵夫人になどなれない」
「離縁さえしてくだされば、私は公爵夫人に……」
「離縁はしない!」

男は語気を強め、女に言った。

「私……、私は、公爵夫人になるのよっ」
「あなたは私の妻だ。それは永遠に変わらない」
「公爵夫人に……」

男は女を手放す気はないらしい。
女は会話が成立しているようでしていない、そんな状態にもかかわらずだ。

「……ココアを部屋から出すな。何を仕出かすかわからない」

男は女に背を向けると、部屋の外に待機していた使用人に声をかけ、それ以上は何も言わず部屋を出たのだ。

静かな部屋に、鍵のかかる音が響いた───



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



『……って会話してたんだ』
『ヤッパリ、ベルヲ、オソワセタノ、デルベフジン!』
『マチガイナイ!!』

妖精たちが口々に報告してくれるのだけど、デルベ伯爵夫人は、心を病んでしまっていますの!?

『ずーっと、窓の外を見てるよ』
『デモ、トジコメラレテル、ママジャナイ!』
『マイニチ、キマッタジカン、サンポシテル!!』
「散歩は出来ますのね……」

心を病んでぼうっとしているのなら、歩くのもままならないのかしら、と思っておりましたが、大丈夫なようで良かったですわ。

『デルベハクシャク、マイニチ、イッショ!』
『ベルト、テオミタイ!!』

え?

「わたくしたちは、病んでもおりませんし、離縁も考えた事はございませんわよ?」
『ソーユーコトジャナイ!』
『ベル、チガウ!!』

わたくし何か間違った事言いましたの?

『ベル、アカとアオはね、夫婦で毎日決まった時間に散歩しているのが、同じだねって言っているのさ』
「ああ、そういう……。ですが、デルベ伯爵はずいぶん心の広い方ですのね」

殺人未遂なのか誘拐未遂なのかを犯した上、心を病んで、さらに主家の夫人の座に収まろうとする妻とは離縁しそうなものですけれど、お世話しておりますもの。

『ボクはちょっと怖い感じがするけど……』
『デルベ、コワイ!』
『ノア、チカヅケタラ、ダメ!!』

だから怖いってどういう事ですの?

『わからないけど、とにかく怖いんだ。でも……』
「でも?」
『魂が汚いというよりは……う~ん……』

正妖精はテオ様の真似をするように眉間にシワを寄せ、腕を組む。

『やっぱりよくわからないや!』

結局わからないのね。

「とにかく、魂が汚れているのとは違う、という事ですわね」
『う~ん……あっ、たとえば魂に色が付いていたとして、ベルはクリアな金色、テオはクリアな青、ノアはキラキラの銀なんだけど、デルベ伯爵は暗い色っていう感じ!』
「汚れてはいないけど、暗い色……?」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



~ おまけ ~


テオバルド視点


「あっ、アカ、アオ!」
『ノア~!!』
『ノア~!』

アカとアオがノアの顔に抱きついている。そういえば、昨日は妖精たちの姿を見なかったか……?

「じょ、どこ、いってたの? ちんぱい、ちたでしょ」
『ノア、シンパイ、ゴメン!』
『シンパイ、カケタ、ゴメン!!』
「きのお、いない、さびちかったのよ」

……ベルにそっくりだな。

『アカモ!』
『アオモ、サビシカッタ!!』

ノアも妖精も、何故あんなに感動の再会の雰囲気を出しているんだ?

『ボクは? ねぇ、ボクは?』
「きょおは、いっちょ?」
『アカ、アスノトコロ、イク!』
『アオハ、ノアトイッショ!!』
「アカ、アスでんか、しゅきね! アオ、わたち、しゅき!」
『アオ、ノアダイスキ!!』
「わたち、アカもアオもだいしゅきよ!」
『『ノア~!!』』

ところで、ここは私の執務室なのだが。

『ねぇ、ボクはー!?』

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