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第二部 第1章
245.イベント準備と領地への帰還
しおりを挟む肌寒くなってきた今日このごろ。そろそろ冬に向けて、やらなければならない事がある。
わたくしはある話をする為に、おもちゃの宝箱帝都支店へやって来ていた。
「───それで、お話とはどのような事なのでしょうか」
帝都支店の店長、おもちゃカフェのリーダー、おもちゃの修理部門の部門長、さらにホールスタッフのリーダー、ディスプレイ部門長を集め、3階の会議室で会議を開いた。
皆それぞれ戸惑い気味の顔をして、わたくしの様子を伺っているようだ。そして、店長が口を開く。
「それはね、そろそろ冬がやってきますでしょう」
「そうですね……、雪が積もり始めると店を開けるのは難しくなるかもしれません……」
帝都は標高が意外と高いので、冬は雪が積もる事がある。そんな時は皆、家に引きこもり外出などはしないのだ。
何メートルという豪雪地帯とは違うので、家が潰れそうなほど降り積もるわけではないが、毎年30センチ、酷い時には50センチ程度積もるので、除雪作業は行う所も多い。
「そうですわね。今年から道の除雪は国が行うそうだから、帝都民の負担は減ると思いますの。道が除雪されると、必然的に外出するようになりますわ」
「そうなのですか! という事は、冬も忙しいかもしれませんね」
店長がほっとしたように微笑むのは、冬の間の収入問題が解決したからだろう。
冬はどこも大変ですのよね……。特にディバイン公爵領は豪雪地帯もありますから、冬になる前にわたくしたちも領地に戻らなくてはならないでしょうし。
「わたくしは、そろそろ領地に戻らなくてはならないのだけど、その前に帝都支店でも冬のイベントの準備をしておきたいと思っておりますの」
「イベント、ですか?」
「ええ。冬だからこそ、お家で遊べるおもちゃは重要ですのよ」
いくら除雪したとしても、寒くなると外出も億劫になるものだ。そんな時、暖かい部屋で家族でゲームを楽しむ事は心の健康にも繋がると、わたくしは考えている。
「冬は日が暮れるのが早く、気温も低いですわ。そうすると、人間の心というのは鬱々としてくるものですの。大概の人間は大なり小なり、夏は開放的に、冬は内向的になると考えていただければいいですわ」
「あの、それとイベントと、どう関係があるのでしょうか?」
ディスプレイ部門の部門長が手を上げて発言した。
「皆でおもちゃやゲームを楽しむ事は、気分を明るくしてくれますわ。気分が暗いと体調に影響する事もあると聞きます。ですから、わたくしたちのお店で、イベントを行い、集客率を上げておもちゃの楽しさを知ってもらえたら、と思っておりますのよ」
フラフープやホッピング、縄跳びといった身体を動かす遊び道具に加え、室内でも遊べるボードゲーム類を充実させるのはもちろん、店内で人形劇や紙芝居、ミニコンサートといったものを開催したいのよね。
そう、これはクリスマス! 一年に一度、おもちゃ屋さんと子供たちが主役になるあの華やかで楽しいイベントを、おもちゃの宝箱でやるのですわ!
「こ、コンサートを、店内でやるのですか!?」
「人形劇ってなんでしょうか?」
「紙芝居、私大好きなんです!」
わたくしの話に会議室は暫くざわつき、皆が困惑している。
「イベントに必要になりそうなものなどは、色々作ってもらっておりますし、ディスプレイのイメージもいくつか描いてきておりますわ。これからイメージ図を配りますので、皆さんの意見を聞かせてくださると助かりますわ」
クリスマスらしいディスプレイのイメージにしましたのよね。
「すごく華やかで、可愛らしいですね!」
「赤と白と緑、それと金色がメインなのですね」
「テディの洋服も赤と白で統一するのですか!」
イメージ図を見たスタッフたちの顔が明るくなり、わたくしを期待の目で見てくるので、微笑んで意見が出るのを待ちましたの。そうしたら、
「あの、組立式模型も、このイベント用に特別な仕様のものを出してはいかがでしょうか」
「でも今からだとそれは難しいんじゃない?」
「色味を変えるだけでも限定感が出るし、それなら間に合うんじゃ……」
どんどんアイデアが出てきましたのよ!
職人さんの時も思いましたけれど、やっぱり切っ掛けさえあれば、アイデアは湧いて出てくるものなのね。
この世界の人は、知識がまっさらな状態だからこそ、蛇口をひねって出てくる水のように、アイデアが止まらないのだわ。
「フフッ、皆様とても素晴らしいですわ! では、今回のイベントの事は皆様にお任せいたします」
「「「「えぇ!?」」」」
「寒い冬でも、子供たちを楽しませるイベント、期待しておりますので、よろしくお願いいたしますわ」
こうしたイベントはどうかという企画書は皆に渡しましたし、これ以上はわたくしが口を出さないほうが良さそうだと思いましたの。
こうして、おもちゃの宝箱帝都支店は優秀なスタッフに任せ、わたくしたちが領地へ戻る日がとうとうやって来たのだ。
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