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第二部 第1章
243.しりとりとおうた
しおりを挟む「おかぁさま!」
授業が終わり、わたくしがいる事に気付いたノアが、嬉しそうに抱きついてきた。そんな可愛らしい息子に相好を崩すと即座に抱き上げた。
柔らかい髪の毛が頬をくすぐり、愛しさが込み上げてくる。
「ノア、算数のお勉強、頑張っておりましたわね」
「はい! わたち、さんすぅ、しゅきなのよ」
「ノアは算数が好きですのね! では、お母様が、ノアの為に算数を使ったゲームを作ってあげますわ」
「おかぁさま、しょれね、アスでんか、いっちょ、できる?」
「もちろんよ! 皆で楽しく遊んで、計算力もつくゲームをたくさん用意してあげますわ」
「はい!」
息子は嬉しい! と抱きついてくるので、思いっきり抱きしめて、くるくる回ってあげましたのよ。キャッキャと喜んでくれましたわ。
「おかぁさま、おさんぽ、ちましょ」
「ええ。お庭に行きましょうか」
『チロモ、イッショナノ~』
「チロも、いっちょよ!」
ノアがお散歩に誘ってくれたので、手を繋いで庭に出る事にしましたのよ。チロはわたくしの肩からノアの肩に移動して、ご機嫌そうに身体を揺らしておりますわ。いえ、身体というか、マッシュルーム帽子を揺らしているのかしら。
『ノア、シリトリ、スルノ~』
「ちりとり!」
ちりとりは掃除道具ですわよ。ノア。
『チロカライクノ~。シリトリ』
「りー、りちゅ!」
『スー、スキ、ナノ~』
「わたちも、しゅき!」
あらあら、可愛いしりとりですわ!
「きー、きちゅね!」
『ネコ、ナノ~』
「こども!」
『モテモテ~』
モテモテ!? それはアリですの!?
「てー……てー……あっ、ておさま!」
テオ様!? ノア、まさかお父様の名前を『テオサマ』だと思ってますの!?
『マロン、ナノ~』
「あー! チロ、ンでおわったのよ!」
『アー、マケチャッタノ~』
息子の「ておさま」が気になりすぎて、可愛いしりとりなのに頭に入ってきませんわ。そのうちテオ様と呼び出したらどうしましょう……。
「うふふっ、わたち、かちよ」
『ノアノ、カチナノ~』
やっぱりノアもチロも可愛すぎますわ。
「おかぁさま、おうた、うたって?」
「お歌? 何が良いかしら」
やっぱり童謡が良いですわよね。
「迷子の子猫ちゃんのお歌にしましょうか」
「わんわんの、きち、でてくるやちゅ!」
「フフッ、そうですわよ。ノアも一緒に歌いましょう」
「はーい!」
『チロモ、ウタウノ~』
三人で楽しく歌いながら庭を散歩していると、歌を聞きつけたテオ様が、穏やかな笑みを薄っすら浮かべて、執務室のバルコニーに出てきたのだ。
『ベル、ノア、テオイルノ~』
「テオ様」
「おとぅさま」
ノアとチロと、テオ様に向かって手を振ると、テオ様も手を振り返してくれましたのよ。
少し前まで考えられなかった光景ですけれど、これが現実なのだと思うと、とても幸せですわ。
「おとぅさま、いっちょ、おさんぽしゅる?」
あのノアが、テオ様を誘ったの……? いつの間にか、ノアとテオ様の溝は埋まっていましたのね。
「そうだな。すぐそちらへ行く」
テオ様はノアに誘われて、手すりを軽々乗り越えて、そのままバルコニーから飛び降りたではないか!
「テオ様……っ」
執務室は3階にありますのよ!?
あまりの事に叫んでしまいましたが、テオ様は何事もなかったように着地すると、スタスタと歩いてくる。
「な……、え? 今、3階から飛び降りましたわよね?」
「おとぅさま、まほお、ちゅかったのよ」
「魔法……」
何でもありですわね! チートって……。
「ベル、君の美しい歌声に惹かれてやって来た男に、どうかもう一度、その歌声を聞かせてくれないか」
テオ様がポエマーみたいになりましたわ。ちょっと言い回しが恥ずかしいのだけど……。
「おとぅさま、わたち、おうた、うたってあげるの」
『チロモ~』
あら、ノアたちがわたくしの代わりに歌ってくれるみたい。
「……そうか」
テオ様はちょっと不満そうだけど、可愛い息子の言葉を無碍に出来ないようで、頷き耳を澄ませたのだ。
ノアとチロの歌は、もちろん愛らしくて、わたくし聞き惚れてしまいましたのよ。ね、テオ様。
「そうだな。ベルの歌声も聞きたかったが、それは次の機会に取っておこう」
まだ諦めておりませんでしたのね。
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