継母の心得

トール

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第二部 第1章

242.ノアと算数

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デルベ伯爵夫人の話題を出した途端、テオ様からは「君が関わる事ではない」とシャットアウトされてしまいましたの。
テオ様からしてみれば、襲撃者まで雇ってわたくしを誘拐か殺害かしようとした者に、関わってほしくないようですが、だからこそ気になるのというものですわ。

「テオ様、わたくしは狙われた本人ですのよ。デルベ伯爵夫人が今どうしているのか、テオ様が彼女をどうする気なのか、知っておく必要があると思いますの」
「ベル……、私は君には穏やかに、笑って過ごしてもらいたいと思っている」
「何も知らされないまま、笑ってなど過ごせませんわ」

目隠しされたままでは、本当には笑えませんもの。それに……

「わたくしたちは夫婦でしょう。夫にだけ、大変な思いをさせるわけにはまいりませんわ」
「……まったく、君には勝てないな」

困ったような顔で苦笑いをする夫は、どことなく嬉しそうでもあった。

「旦那様、あのことを奥様にもお伝えしておきますか?」
「……本当は、気がすすまないが……」

ウォルトの言葉に、デルベ伯爵家に関する何かが分かったのだと理解したわたくしは、テオ様に「教えてくださいまし!」と身を乗り出しましたのよ。

「奥様、旦那様より、デルベ前伯爵夫妻の事はお聞きになっていると思います」
「ええ。テオ様のご両親と同時期に亡くなられたと伺っておりますわ」
「はい。詳しく調査した結果、デルベ前伯爵夫妻は……自害されておりました」

え……

「事故や、殺人ではなく……自害、ですの?」
「はい。デルベ前伯爵夫妻は、自ら毒を飲み、自害なされたそうです」

ど、どういう事ですの……? テオ様のご両親が亡くなった同時期に、自害……?

「どうやら、私の両親が亡くなってすぐに、後を追うように逝ったらしい」
「後を追うようにって……、まさかテオ様は、後追い自殺をしたとお考えなのですか───!?」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



あまりにも重い事実を知ってしまい、執務室から出た後も、先ほどの話が頭の中をぐるぐるしていた。

「奥様、大丈夫ですか? 顔色が悪いようですが……」

ミランダが心配そうにわたくしを見ている。

ミランダには心配をかけてばかりだわ……。襲撃に関しても巻き込んでしまいましたし、申し訳ないですわ。

「ええ、大丈夫よ。心配をかけてしまってごめんなさいね」
「お部屋でお休みになられた方がよろしいかと思います」
「少し気分が沈んでしまっただけですの。大丈夫。ノアの顔を見れば、気分も上がりますわ」

今は部屋で休むよりも、可愛い息子の顔を見たいと訴えれば、ミランダは少し思案した後、「かしこまりました」と付いてきてくれたのだ。



「りんごが三つあります。一つはノア様が、もう一つはネズミさんが食べてしまいました。さて、残りはいくつありますか?」
「はい! ねじゅみさん、ちぃさいの。おのこち、ちてます。だから、ひとつと、ねじゅみさんの、おのこちです!」
「あの、ノア様……ネズミさんは全部食べたものとしてお考えください」
「ねじゅみさん、おのこち、ちてない?」

か、可愛い!! なんですの!? ネズミさんのお残しって……っ、算数の授業で、文章の背景まで考えられるウチの子、天才じゃないかしら!

「では、違う問題をお出しします。ノア様のお好きなパンケーキが五つあります。ノア様はその内の一つをお母様に差し上げました。お母様はそのパンケーキを半分ノア様に切ってくださいました。そして、残りを召し上がったのです。さて、ノア様の目の前には、いくつパンケーキがあるでしょうか」
「わたち、しゅふれパンケーキ、だぁいしゅき!」

問題を出されたのに、ノアはスフレパンケーキが大好きだと笑みを見せる。それに対して教師も頬が緩んでいるのは仕方ない事だろう。

「おかぁさま、わたちにはんぶん、しゅふれパンケーキくれたのね……だから、はんぶん、あるの。しょれで、いちゅちゅ、しゅふれパンケーキあったのよ……あっ、よっちゅと、はんぶん、です!」

まぁ! ノアはやっぱり天才ですわ! まさか4歳で算数の文章問題を解くなんて!

算数の授業を楽しそうに受けている息子を、扉のそばで見守っていると、先ほどの事が嘘のように気分が向上してきたではないか。

やっぱりノアは、わたくしの癒やしですわ。

「では、次は展開図についてのお勉強をいたしましょう」 

展開図!? え、4歳の子に展開図!?

教師の言葉に、ついミランダを振り返る。が、ミランダは当たり前のように何も言わず、姿勢を正して立っている。カミラを見ると、カミラも当然のようにノアを見守っている。

この世界では、4歳で展開図を習うのが普通なのかしら?
いえ、でも前世でも、5歳くらいの子が展開図を切って貼って組立てておりましたわね……。

こうして、ちょっと高度な算数の授業に驚きが隠せないまま、授業風景を眺めて癒やされたのだった。

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