継母の心得

トール

文字の大きさ
上 下
90 / 377
第二部 第1章

239.デルベ伯爵、謎の行動

しおりを挟む


レールの上を走る馬車を見た後、いよいよレール馬車の車内に足を踏み入れる。

「ばちゃ、ひりょーい!」
「すごい! ばしゃのなか、あるける!」

車内はノアとイーニアス殿下の言う通り広く、バスのような内装で、皆それぞれ嬉しそうに座席に座ってみたり、窓の外を見たりしていたのだが、ふと、ベビーカーの方や車椅子の方が乗りにくい事に気付いたのだ。

「親方、この椅子跳ね上げ式になりませんこと?」
「跳ね上げ式……? 奥様、そりゃどういう椅子ですかぃ?」 
「この座席の部分が、バネでこう跳ね上がっている状態で、座る時は下ろして座りますの。跳ね上げ式にすれば、ベビーカーの方もベビーカーを置いて座れますし、車椅子の方も椅子が邪魔になったりしませんわ」
「なるほど! そりゃあちょっと、設計図を書いてみますよって、また完成したらお見せしますんで」
「せっかく完成したのに、ごめんなさいね。お願いいたしますわ」
「へい! お任せくだせぇっ」

わたくしの我儘にも、親方は嫌な顔をせず、何なら嬉しそうに頷いてくれた。

その後はまた走らせてもらって、振動の少なさに皆が感動し、ロボの事をすっかり忘れて興奮している子供たちと皇帝陛下にほっこりしながら帰路についたのだ。

レール馬車が走る日が楽しみですわ!

ノアやテオ様、皇族一家もホクホクと満足した顔をしていたので、レール馬車のお披露目は楽しめたらしい。

「それにしても、あの完成度に納得せず、さらに良くしようと改善点を提案するイザベル様はさすがね」
「朕はあれで完璧だと思っていたが、また改造されるのが楽しみなのだ!」
「ノア、きっとレールばしゃの、かんせいしたすがたは、ろぼになる!」
「ろぼ!!」

皇后様、そんなに褒められると恥ずかしいですわ。それとイーニアス殿下、ロボにはなりませんわよ。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



── レール馬車の完成披露の数日前 ──

デルベ伯爵夫人が姿を消してからすぐ、わたくしは正妖精と連絡をとっていた。何故なら、正妖精はデルベ伯爵夫人の監視を続けていたから、夫人の行方を知っているのではないかと考えたのだ。
そして、その予想は当たっていた───

『デルベ伯爵夫人を隠したのは、デルベ伯爵だよ』

正妖精のその言葉に絶句する。
隠した、というのは……自分の妻を監禁したという事なのだろうか。

『安心して。デルベ伯爵夫人の扱いは悪いものではないから。ただ、本人は不満があるようだけど……』
「悪いものではないけれど、不満が出るような扱い、という事かしら?」
『そうじゃないんだ。そうじゃないけど……、うーん、ボクにもよくわからない』

わからないって……

正妖精はデルベ伯爵夫人を監視していて、実際どこにいるのかも知っているし、どんな生活を送っているのかも見ているのに、わからないの?

『人間の価値観が、ボクら妖精にはわからないって事』
「価値観?」
『デルベ伯爵夫人の今の生活は、人によればとても穏やかで幸せなのに、彼女には不満しかないみたい』

なるほど。だけど、

「どうしてデルベ伯爵は、夫人を隠したのかしら?」
『それはね、テオがデルベ伯爵夫人を処罰しようとしていたからさ』

証拠はでなかったと言っていたけれど、テオ様は処罰しようとしていたの……? なら、デルベ伯爵は夫人が処罰されたらマズい事があったという事よね……。

「デルベ伯爵はテオ様に逆らった事になるんじゃ……」
『なるだろうね。テオは相当怒っていて、デルベ伯爵にも罰を与えるつもりだよ』
「テオ様……。ねぇ、正妖精。テオ様は傷ついているのではなくて? 信じていた人が……」
『どうかな。テオにはベルもノアも、ウォルトだっているし、案外ダメージは少ないかもしれないよ』

そんなわけないでしょう!? デルベ伯爵はテオ様にとってお兄様のような人ですのよ?

『でも、テオはデルベ伯爵を処罰しようとしているよ? 夫人の処罰とを邪魔したら、伯爵も罰する事は結構前に決めていたみたいだけど』

ん? 前から処罰は決めていた……?

「あら? デルベ伯爵は、夫人がテオ様に処罰される事をどこで知ったのかしら?」
『それは夫人がベルを襲わせたから、処罰されるって思ったんじゃないかな』
「でもそれ、おかしいですわ。だってデルベ伯爵夫人は証拠を残しておりませんのよ? 普通なら処罰できませんわ。なのに、夫人を隠す必要なんてありませんわよね。そんな事をしたら、罪を認めた事になる上、伯爵の関与も疑われてしまいますわ。なのに、どうして……?」

待って、この行動、デルベ伯爵は夫人が処罰されて何かが発覚する事を恐れたんじゃなくて、夫人がこれ以上犯罪に手を染めないようにする為に、夫人を監禁した……?


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

継母の心得 〜 番外編 〜

トール
恋愛
継母の心得の番外編のみを投稿しています。 【本編第一部完結済、2023/10/1〜第二部スタート☆書籍化 2024/11/22ノベル5巻、コミックス1巻同時刊行予定】

【完結】後妻に入ったら、夫のむすめが……でした

仲村 嘉高
恋愛
「むすめの世話をして欲しい」  夫からの求婚の言葉は、愛の言葉では無かったけれど、幼い娘を大切にする誠実な人だと思い、受け入れる事にした。  結婚前の顔合わせを「疲れて出かけたくないと言われた」や「今日はベッドから起きられないようだ」と、何度も反故にされた。  それでも、本当に申し訳なさそうに謝るので、「体が弱いならしょうがないわよ」と許してしまった。  結婚式は、お互いの親戚のみ。  なぜならお互い再婚だから。  そして、結婚式が終わり、新居へ……?  一緒に馬車に乗ったその方は誰ですか?

【完結】殿下の本命は誰なのですか?

紫崎 藍華
恋愛
ローランド王子からリリアンを婚約者にすると告げられ婚約破棄されたクレア。 王命により決められた婚約なので勝手に破棄されたことを報告しなければならないのだが、そのときリリアンが倒れてしまった。 予想外の事態に正式な婚約破棄の手続きは後回しにされ、クレアは曖昧な立場のままローランド王子に振り回されることになる。

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

完璧令嬢が仮面を外す時

編端みどり
恋愛
※本編完結、番外編を更新中です。 冷たいけど完璧。それが王太子の婚約者であるマーガレットの評価。 ある日、婚約者の王太子に好きな人ができたから婚約を解消して欲しいと頼まれたマーガレットは、神妙に頷きながら内心ガッツポーズをしていた。 王太子は優しすぎて、マーガレットの好みではなかったからだ。 婚約を解消するには長い道のりが必要だが、自分を愛してくれない男と結婚するより良い。そう思っていたマーガレットに、身内枠だと思っていた男がストレートに告白してきた。 実はマーガレットは、恋愛小説が大好きだった。憧れていたが自分には無関係だと思っていた甘いシチュエーションにキャパオーバーするマーガレットと、意地悪そうな笑みを浮かべながら微笑む男。 彼はマーガレットの知らない所で、様々な策を練っていた。 マーガレットは彼の仕掛けた策を解明できるのか? 全24話 ※話数の番号ずれてました。教えて頂きありがとうございます! ※アルファポリス様と、カクヨム様に投稿しています。

【完結】幼い頃から婚約を誓っていた伯爵に婚約破棄されましたが、数年後に驚くべき事実が発覚したので会いに行こうと思います

菊池 快晴
恋愛
令嬢メアリーは、幼い頃から将来を誓い合ったゼイン伯爵に婚約破棄される。 その隣には見知らぬ女性が立っていた。 二人は傍から見ても仲睦まじいカップルだった。 両家の挨拶を終えて、幸せな結婚前パーティで、その出来事は起こった。 メアリーは彼との出会いを思い返しながら打ちひしがれる。 数年後、心の傷がようやく癒えた頃、メアリーの前に、謎の女性が現れる。 彼女の口から発せられた言葉は、ゼインのとんでもない事実だった――。 ※ハッピーエンド&純愛 他サイトでも掲載しております。

目が覚めたら夫と子供がいました

青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。 1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。 「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」 「…あなた誰?」 16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。 シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。 そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。 なろう様でも同時掲載しています。

妹のことを長年、放置していた両親があっさりと勘当したことには理由があったようですが、両親の思惑とは違う方に進んだようです

珠宮さくら
恋愛
シェイラは、妹のわがままに振り回される日々を送っていた。そんな妹を長年、放置していた両親があっさりと妹を勘当したことを不思議に思っていたら、ちゃんと理由があったようだ。 ※全3話。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。