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第二部 第1章
239.デルベ伯爵、謎の行動
しおりを挟むレールの上を走る馬車を見た後、いよいよレール馬車の車内に足を踏み入れる。
「ばちゃ、ひりょーい!」
「すごい! ばしゃのなか、あるける!」
車内はノアとイーニアス殿下の言う通り広く、バスのような内装で、皆それぞれ嬉しそうに座席に座ってみたり、窓の外を見たりしていたのだが、ふと、ベビーカーの方や車椅子の方が乗りにくい事に気付いたのだ。
「親方、この椅子跳ね上げ式になりませんこと?」
「跳ね上げ式……? 奥様、そりゃどういう椅子ですかぃ?」
「この座席の部分が、バネでこう跳ね上がっている状態で、座る時は下ろして座りますの。跳ね上げ式にすれば、ベビーカーの方もベビーカーを置いて座れますし、車椅子の方も椅子が邪魔になったりしませんわ」
「なるほど! そりゃあちょっと、設計図を書いてみますよって、また完成したらお見せしますんで」
「せっかく完成したのに、ごめんなさいね。お願いいたしますわ」
「へい! お任せくだせぇっ」
わたくしの我儘にも、親方は嫌な顔をせず、何なら嬉しそうに頷いてくれた。
その後はまた走らせてもらって、振動の少なさに皆が感動し、ロボの事をすっかり忘れて興奮している子供たちと皇帝陛下にほっこりしながら帰路についたのだ。
レール馬車が走る日が楽しみですわ!
ノアやテオ様、皇族一家もホクホクと満足した顔をしていたので、レール馬車のお披露目は楽しめたらしい。
「それにしても、あの完成度に納得せず、さらに良くしようと改善点を提案するイザベル様はさすがね」
「朕はあれで完璧だと思っていたが、また改造されるのが楽しみなのだ!」
「ノア、きっとレールばしゃの、かんせいしたすがたは、ろぼになる!」
「ろぼ!!」
皇后様、そんなに褒められると恥ずかしいですわ。それとイーニアス殿下、ロボにはなりませんわよ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
── レール馬車の完成披露の数日前 ──
デルベ伯爵夫人が姿を消してからすぐ、わたくしは正妖精と連絡をとっていた。何故なら、正妖精はデルベ伯爵夫人の監視を続けていたから、夫人の行方を知っているのではないかと考えたのだ。
そして、その予想は当たっていた───
『デルベ伯爵夫人を隠したのは、デルベ伯爵だよ』
正妖精のその言葉に絶句する。
隠した、というのは……自分の妻を監禁したという事なのだろうか。
『安心して。デルベ伯爵夫人の扱いは悪いものではないから。ただ、本人は不満があるようだけど……』
「悪いものではないけれど、不満が出るような扱い、という事かしら?」
『そうじゃないんだ。そうじゃないけど……、うーん、ボクにもよくわからない』
わからないって……
正妖精はデルベ伯爵夫人を監視していて、実際どこにいるのかも知っているし、どんな生活を送っているのかも見ているのに、わからないの?
『人間の価値観が、ボクら妖精にはわからないって事』
「価値観?」
『デルベ伯爵夫人の今の生活は、人によればとても穏やかで幸せなのに、彼女には不満しかないみたい』
なるほど。だけど、
「どうしてデルベ伯爵は、夫人を隠したのかしら?」
『それはね、テオがデルベ伯爵夫人を処罰しようとしていたからさ』
証拠はでなかったと言っていたけれど、テオ様は処罰しようとしていたの……? なら、デルベ伯爵は夫人が処罰されたらマズい事があったという事よね……。
「デルベ伯爵はテオ様に逆らった事になるんじゃ……」
『なるだろうね。テオは相当怒っていて、デルベ伯爵にも罰を与えるつもりだよ』
「テオ様……。ねぇ、正妖精。テオ様は傷ついているのではなくて? 信じていた人が……」
『どうかな。テオにはベルもノアも、ウォルトだっているし、案外ダメージは少ないかもしれないよ』
そんなわけないでしょう!? デルベ伯爵はテオ様にとってお兄様のような人ですのよ?
『でも、テオはデルベ伯爵を処罰しようとしているよ? 夫人の処罰とを邪魔したら、伯爵も罰する事は結構前に決めていたみたいだけど』
ん? 前から処罰は決めていた……?
「あら? デルベ伯爵は、夫人がテオ様に処罰される事をどこで知ったのかしら?」
『それは夫人がベルを襲わせたから、処罰されるって思ったんじゃないかな』
「でもそれ、おかしいですわ。だってデルベ伯爵夫人は証拠を残しておりませんのよ? 普通なら処罰できませんわ。なのに、夫人を隠す必要なんてありませんわよね。そんな事をしたら、罪を認めた事になる上、伯爵の関与も疑われてしまいますわ。なのに、どうして……?」
待って、この行動、デルベ伯爵は夫人が処罰されて何かが発覚する事を恐れたんじゃなくて、夫人がこれ以上犯罪に手を染めないようにする為に、夫人を監禁した……?
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