継母の心得

トール

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第二部 第1章

236.かくれんぼ

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『……ハーチ、キュー、ジュー!! モー、イイカーイ!!』
「「もー、いいよー!」」
『『モー、イイヨー!』』

いつの間にかイーニアス殿下もやって来て、家族用リビングでかくれんぼが始まっていた。
アオが鬼……いえ、オーガ役で、イーニアス殿下とノア、アカ、チロがリビング内に隠れている。

まずアカはシャンデリアの上に飛んでいって、クスクス笑いながらキラキラの光に紛れている。チロは棚の引き出しの中に入り、わたくしに扉を閉めてと可愛くおねだりしてきた。そしてイーニアス殿下とノアは、ソファの下で二人仲良く隠れている。

「おかぁさま、ちー、よ」

しかも、わたくしが座っている下にいる。
「ちー」と人差し指を口の前に持っていって、内緒だとアピールする我が息子が可愛すぎる。

「ノア、しーだ。アオがくる」
「アオ、きた?」
「うむ。きた……!」

わたくしのドレスの裾からチラッと様子を見て、トカゲのように引っ込むイーニアス殿下に、殿下付きの侍女が泣いているのではないだろうかと思ったが、ここに殿下付きの侍女はいないので大丈夫だろう。

「イーニアスったら、公爵家に来るとはっちゃけちゃうのよねぇ」
「皇后様、よろしいんですの?」
「大丈夫よ。イーニアスは時と場所をよく理解している頭の良い子だもの」

やっぱり皇后様の子育て方法、わたくしは好きですわ。

『アカ、ドコー!!』

アオが部屋を飛び回る。アカは自分の前にあるシャンデリアのクリスタルを揺らしながら、アオの様子を見つつ、さっと隠れるを繰り返す。

『チロ、イナイー!!』

チロも静かに引き出しの中で息を殺している。ノアとイーニアス殿下は、アオの声に自分の口を押さえ、声が出ないよう笑っている。

『アカ、ミツケター!!』
『ミツカッター!』

あら、わたくしがシャンデリアを見たからかしら。アカが見つかりましたわ。

『ノア、アス、ドコー!!』
「アカがみつかった……」
「アスでんか、だいじょぶよ。ここ、おかぁさまと、こーごーさま、いるのよ」

つまり、わたくしたちのドレスの裾で隠れているから、見つからないと高を括っているのだ。

もぅ、可愛すぎますわよ。皇后様も二人の会話に笑っておりますわ。

『ベル、ノアドコイッタ!!』
「あら、アオ、ずるはダメですわ。リビング内にいるのだから、隅々まで探してくださいまし」
『ヒント、ホシー!!』
「そうねぇ……。相手の気持ちになってみるのはどうかしら。自分ならどう隠れるか、考えて探すと見つかりやすいですわ」
『アイテ、キモチ……!! アオナラ、タナノナカ、カクレル!!』

わたくしのヒントに、チロが見つかってしまいましたわ。

『ミツカッタノ~』
『ヤッター!! アオ、テンサーイ!!』
「後はイーニアスとノアちゃんの二人ね」
『スグ、ミツケルー!!』

ノアとイーニアス殿下は、その会話を聞いて、ソファの下で「しー」「ちー」と言い、クスクス笑い合っている。

と、その時テオ様がやって来たのだ。
リビングに入って来て皇后様の姿を見つけ、ぎょっとしたものの、いつもの事なので大して気にした様子もなく、ノアとイーニアス殿下を探している。

「ベル、ノアとイーニアス殿下は……、殿下、そのような所で何をしているのか」

あら、テオ様に見つかってしまいましたわ!

『アス、イタ!! アーッ、ノアモ、イター!!』
「みつかってしまったのだ……」
「みちゅかったの……」

トカゲの兄弟のようにソファの下から出て来た二人に、テオ様はこめかみを揉んでいる。

わたくしは可愛いと思うのだけど、貴族や皇族としては、ちょっと他には見せられない姿ですわよね。

「おとぅさま、めっ! ちー、よ」
「? よくわからん。ダメなのはお前の先ほどの格好ではないのか」
「こうしゃく、いま、かくれんぼをしていたのだ!」
『ツギ、アカ、オーガ!!』
『アカ、カズ、カゾエルー!』
『ノア、アス、ハヤク、カクレルノ~』

子供たちや妖精がテオ様に群がっていますわ。

「おほほっ、イザベル様、テオ様ったら、いつの間にか子沢山のお父さんみたいになってるわね」
「確かに……」
「ネロも大家族のお父さんだけど、最近お母さん化しているのよね」
「え、何ですのそれ……?」
「ほら、イザベル様とママ友みたいになってるじゃない。アタシよりも女子力高い気がするのよね」
「皇帝陛下はお料理もお裁縫も得意ですものね」
「そのうちテオ様もお母さん化したりしてね!」
「ホホッ、そんなバカな……」

え、テオ様、お母さん化しませんわよね?

『モー、イーカイ!』
『マーダダヨ!!』
「「まーだだよ!」」

アカの掛け声で、子供たちが一斉に駆け出した。その時ウォルトがやって来て、テオ様に言ったのだ。

「旦那様、デルベ伯爵夫人が、姿を消しました……」


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