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第二部 第1章
232.ノア、悪い人をめっ、する
しおりを挟むなかなか現れない襲撃者に、もう来ないかもしれないと思っていた時だ。
「ウオォォォ!」という雄叫びと共に、30名ほどの屈強な男たちが武器を片手に現れ、馬車目掛けて飛び掛かってきた……!!
「ベルとノアには近づかせん」
と思ったら、テオ様が地面に張った薄氷で滑って転び、護衛に捕縛されていって、あっという間に半数に数を減らしたのだ。
「さすが早すぎるヒーロー……」
「ぷっ、イザベル様なぁに、その面白いネーミング!」
自分の推しに付けられた名前を「確かに早すぎるヒーローだわ!」とお腹を抱えて笑いながら、リラックスしている皇后様に、ノアも安心感を覚えているのか、アカとアオとチロをお膝に乗せて、にこにこお話しているではないか。
中と外の落差がすごいですわ。それにしても、
「やはり圧倒的ですわね……」
「相当手加減して、あの圧倒的な差、怖いわよねぇ」
馬車に近づけもせず、気絶、捕縛していく襲撃者たちは、まるで罠にかかった獣……いえ、投網漁の魚ですわね。
「目に見える圧倒的な差。己が勝者だと驕る者ほど、油断をするものだ」
え……?
「奥様!!」
男だ。いつの間にか、見知らぬ男が目の前に居て……っ
「奥様に近づくな!!」
仕込み武器である針のようなものを、突然馬車内に現れた男に飛ばすミランダ。
ノアを咄嗟に抱きしめ、皇后様と馬車内の端の方へ寄ると、男はミランダの針を避けたのか、何事もなかったように言ったのだ。
「ディバイン公爵家の影か。なかなか腕は良いようだ」
寒気が走るような昏い目を持つ男は、ゆっくりとわたくしたちに視点を移動させる。
多分、特異魔法の使い手なのだろう。皇后様と同じ、転移の能力者……?
「ひ……っ」
カミラが耐えられず悲鳴を上げたその時だ。
「ミランダ、カミラ、いじめちゃ、めっ、よ!」
「ノア……っ」
ノアが立ち上がり、男に「めっ」したではないか!
「公子か。度胸だけは買ってやろう。だが、調子にのるなよ」
男がノアに手を伸ばす。
「止めて! ノアに手を出さないで……っ」
「おかぁさま、わたち、だぃじょぶよ」
「ノア!」
大丈夫じゃないわ! あなたに何かあったらどうするの!?
「だから、調子に乗るなと……っ、な、何だ!? 足が動かない……っ」
『チョーシ、ノッテルノ、オマエ!』
『ノアノ、マホー、キヅカナイ、オバカサン!!』
妖精たちがケタケタと笑いながら飛び回る。
「わるいこと、ちたら、めっ!!」
「あ、足が凍っていく……っ」
そう、男の足元だけが凍り始め、パキパキと音をたてて徐々に膝下まで凍りついているではないか……。
これを、この可愛いノアがやっているの?
『ノア、アシダケ、ダメ!! テモ、コオラセル!!』
「はい!」
アオの言葉に、ノアが男の両手も凍らせて……
『ノア、クチ、コオラセル!』
「はい!」
「よ、容赦無いわね……」
いやいや、ちょっと待ちなさい。さすがに口を凍らせると、舌や喉も危ういのではなくて!?
「ノア様、ありがとうございます。捕縛いたします」
「得体の知れない魔法を使う奴よ。気を付けて」
皇后様がミランダに注意し、ミランダが頷いた時だ。男が影の中に吸い込まれていくように消えたのだ!
「消えた!?」
わたくしも含め皆が呆然としていると、先ほどまで誰よりも凛々しかったノアが、戸惑ったように首を傾げる。
まさか、影を移動出来る能力なの!?
「おかぁさま、わるいひと、ないない、ちたのよ……??」
「そ、そうね……逃げられたみたい……」
どうしましょう。とミランダと皇后様と顔を見合わせていると「ぐぁ……っ」と外から悲鳴が聞こえてきた。
「特異魔法の使い手か……っ。私がいながら、馬車に侵入されてしまうとはな……!」
「テオ様!?」
さっきまで大暴れ? していたテオ様が、窓のそばにやって来てくれて、心配そうにわたくしとノアを見ている。
テオ様の後ろでキラキラと氷の欠片が舞い上がっているという事は、もしかしたらさっきの男はテオ様がもう……
「ベル、ノア、怪我はないか」
「おとぅさま、わたちいるの! だいじょぶよ」
「ああ、良くやった。約束通り、ベルを守ってくれたのだな」
「はい!!」
ノアはテオ様に褒められて、それは嬉しそうに胸を張ったのだ。
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