継母の心得

トール

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第二部 第1章

231.よく頑張りました

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「お、おい……っ、ありゃ『氷の大公』じゃないのか!?」
「何でいるんだよ!? 公爵夫人とガキだけだって話だろ……っ」
「だからディバイン公爵家だけは止めようって言っただろ!」

ディバイン公爵の姿を目にした瞬間、場に戦慄が走った。グランニッシュ帝国最強の氷の大公の名は、その場に居た者を震え上がらせたのだ。

「黙れ。こちらの数が圧倒的に有利なのは変わらない。このまま馬車を襲い、公爵夫人を拉致して船に乗り込め。夫人は金になる」
「だ、だがよ、大公に氷漬けにされたものは全て、砕け散るって話だ……。そんな危険な仕事は……」
「そ、そうだ。命あっての物種だろ!」

リーダー格の男の話も、恐ろしい大公の噂を知る者たちの、怖じ気付く心を変える事は出来ない。

「馬鹿野郎! オレら依頼人から前金を受け取って使っちまってんだろ! どのみちオレらにバックレるっつー選択肢はねぇんだよ!」
「その通りだ。公爵夫人を手に入れて、外国に売り払って一生使いきれない金をもらうか、それともウチの組織を怒らせて命を狙われるか、二つに一つしかない」

どこにも逃場など無いのだと、リーダー格の男たちからの言葉で、動揺していた者たちの顔つきが変わる。

「公爵夫人を掻っ攫って来い」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



イザベル視点


「ちょっと、イザベル様大丈夫!?」

テオ様の後ろを、馬で駆けて来た皇后様が馬車の窓をノックする。

「皇后様!? 危険ですから皇后様は今すぐ転移でお戻りください!」
「戻るなら、イザベル様の乗っている馬車ごと戻るわよ」
「馬車ごと急に消えれば、皇后様の能力がバレてしまいますわ!」

馬に乗っている皇后様一人が消えても、誤魔化せそうだけれど、さすがに馬車はマズいですわよ。

「ま、アタシも賊の前でこの能力を使うのは遠慮したいわ」
「では、やはり皇后様だけでも先に……」
「イザベル様、城の騎士たちにもここへ向かうよう言って来たから、そのうち増援もあるし、何よりテオ様がいるんだから大丈夫よ」
「皇后様にもしもの事があれば、皇帝陛下にもイーニアス殿下にも顔向け出来ませんわ!」

大体、よく皇帝陛下が黙って皇后様だけをこちらに送り込みましたわね!?

「おほほっ、ネロが知るわけないじゃない。黙って出て来たわ」
「黙って出て来たわ。じゃありませんわよ!?  なにを考えておりますのっ」

今頃、皇后様の事が大好きな皇帝陛下が必死に探し回っているんじゃないかしら……。

「大丈夫よ。ネロは執務室に閉じ込めて仕事させてるから」

皇帝陛下……。

「と、とにかく、狙われているのはわたくしのようですので、この馬車からは離れた方がよろしいと思いますの」
「あのねぇ、イザベル様。だったら余計アタシがそばにいた方が良いじゃない」

そう言って皇后様は、御者のいる前方に回り、「ちょっと馬車を停めてちょうだい」と指示し、馬車に乗り込んで来るではないか。

「皇后様!」
「ハァ、やっぱり新型馬車は乗り心地最高ね!」

こんな危険……かもしれない所へ来て、笑顔を見せる彼女は、皇帝陛下の言う通り、太陽のような人だ。

「こーごーさま、だぃじょぶよ。わたち、きちなの」
「あら、ノアちゃんが騎士になってくれるの? 頼もしいわ!」
「はい!」

まぁっ、ノアったら皇后様もお守りするつもりですのね。安心させる為に「大丈夫」と声をかけるなんて……、なんて優しいのかしら。

「それで、黒幕は誰なの?」

急に真剣な顔をして声を潜め、そう聞いてくる皇后様に、「恐らく、今思い浮かべていらっしゃる方ですわ」と溜め息を吐く。

「……そう」
「ただ、証拠を残しているかどうか……。妖精たちが見聞きしたとはいえ、それは証拠にはなり得ませんし……」
「証拠は残していないでしょうね。今まで絶対証拠は残さなかったもの」

そうでしょうね。

『アカ、ミタノ、ショーコナラナイ……?』
『アオ、キータ、ショーコナイ……??』

アカとアオがわたくしたちの話を聞いて落ち込んでいる。

「アカとアオとチロのお陰で、襲撃される前にテオ様が駆け付けてくださいましたのよ。証拠にはならなくても、犯人を突き止めて、襲撃計画も報告してくれて、大活躍ですわよ」
『ベル……!』
『ベル……!!』

二人が顔に抱きついてきたので、ぶふっと息が漏れて恥ずかしかったですけれど。

「よく頑張ってくださいましたわ」


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