継母の心得

トール

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第二部 第1章

230.襲撃者、現れず?

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テオ様が駆けつけてくれた事で、ノアだけでなく、ミランダやカミラ、そして外を走る護衛たちの表情まで明るくなる。
妖精たちも、『テオキタ!』『モウダイジョーブ!!』とわたくしの肩や頭の上で羽を休めていた。

「賊はどこだ!」

怒りを爆発させたテオ様が、現れてすらいない襲撃者を探しているではないか。
皇城から借りた馬なのだろう。いつものテオ様専用馬よりも小ぶりの馬が……、少し寒そうに震えている気がする。

「閣下、襲撃はまだありません! 恐らく奥の空家に潜伏しているのではないかと思われますっ」
「ならば、空家を検め賊を殲滅する!」

まぁっ、テオ様の端正なお顔が、鬼のようになっておりましてよ。襲撃者の方、生き残れるかしら……。

「おかぁさま、わたち、おかぁさまの、きちよ!」
「ええ。ノアは頼もしい騎士様ですわね」
「じぇ……ぜったい、まもるの!」

先ほど泣きじゃくっていた子とは別人のように、凛々しい表情で宣言するノアに、わたくしだけでなく、ミランダやカミラも優しい目を向けた。

「ええ。お願いしますわね。わたくしの可愛い騎士様」
「おかぁさま、めっ。わたち、たのもちぃ、きちよ!」
「あら、それは申し訳ありませんわ。頼もしい騎士様」

襲撃者が来るという危険な状況にもかかわらず、したり顔の息子にクスクスと笑う事ができるのは、早すぎるヒーローのお陰なのでしょうね。

「……奥様、大人数の襲撃者と仰っておりましたが、何か妙な気がいたします」

しかし、ミランダの呟きに緊張が走った。

実はわたくしも、さっきから違和感が拭えませんでしたの。

「ミランダさん、妙ってどういう事ですか??」
「……普通は、襲撃するにしても下見や、仲間との打ち合わせをするものでしょう」
「確かにそうですね?」
「しかし、この辺りは貴族街、しかも空家が増えたとあって、帝国騎士団も巡回を増やしていたはず。空家も一軒一軒巡回していると聞きます。そのように大人数が空家に来て、まして何日も潜伏していたとしたら、形跡は残るはずです」
「なるほど!」
「しかし、帝国騎士団からそのような情報は上げられていない。つまり、」
「あっ、わかりました! 帝国騎士団に裏切り者がいるんですね!! って、エェッ!?」

ミランダの話を聞いて答えを導き出し、何故か自分の答えに驚いているカミラ。

「いえ、その可能性は低いでしょう。何しろ騎士団の訓練にはよく妖精様が出向かれていると聞きます。裏切り者がいれば、妖精様が教えてくださるはず」
『モチロン!』
『ワルイヒト、スグホーコクスル!!』

アカとアオがミランダに褒められ(?)胸を張る。

「むしろ、空家が何処か別の場所に繋がっている、と考えた方が自然かと……」

そうよね。ただでさえ、怪しい人が多数ウロウロしていたら目立つだろうし……。今まで噂にもなっていないって事は、皇城の地下迷宮のようなものがあるのかもしれませんわ。だってこの辺りは元鉱山ですもの。

「ミランダの言う通りですわ。貴族家には大概脱出口があるものですし、恐らく庶民街のどこかと繋がっているのでしょう……」
「おかぁさま、わたち、わるいひと、めっしゅるの!」
「そうねぇ」
『ノア、タノモシイノ~』

本当、うちの子可愛いのだから。
ノアがめっ、をしたら、みんな心を入れ替えますわね。

『ワルイヒト、ハッケーン!』
『アジト、ナカマ、オシエテクレタ!!』

どうやらアカとアオが、他の妖精に伝えて脱出口を調べてくれていたみたい。

「ノア、悪い人をめっ、するのはお父様にお任せしましょう」

窓の外を見ると、テオ様も妖精から聞いたのか指示を出している。襲撃すらしていないのに、ちょっと可哀想かしらと思うが、襲撃依頼を受けるという事は犯罪集団なのだから、と考え直す。

「早すぎるヒーローの姿を見た悪い人たちは、逃げ出したのか、それとも諦めず襲撃してくるのか、どちらにしても相手に勝ち目はありませんわね」



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