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第二部 第1章
208.はっぱ、たべる?
しおりを挟む知育菓子の構想は、実は以前からあった。
けれど、おもちゃや公園、レール馬車と優先する事が多くて後回しになってしまっていたのだ。
しかし先日、ウォルトが新たな食物、植物図鑑を手に入れたというので見てみると、水分や湿気で色が変わる食用の花や、液体に入れると泡の出るハーブなど、知育菓子に使えそうな、不思議食物がたくさん載っているではないか!
これはもう、知育菓子を作れと言われているのだわ! と思い立ったわけなのだ。
「目星を付けておいた植物が昨日届いたから、本当なら昨日のうちに試してみたかったのだけど、さすがにお客様を放っておくわけにもいきませんものね」
とはいえ、本日も昨日からお泊りのお客様はいらっしゃるので、空いた時間で試そうと、こうして朝食前に時間を作ったのである。
「はっぱ、いーっぱい!」
特に危険な植物もないので、家族用のリビングで試してみようと机の上に並べていたら、可愛いお寝坊さんがリビングに入ってきたではないか。
「おはよう、ノア」
「おかぁさま、おはよぅ、ごじゃいます!」
いつものように抱きついてくるので、お膝に乗せて向かい合わせに抱える。
「今日は珍しくお寝坊さんでしたのね」
「おねぼーさん、どぉちてかちら?」
うん。ノア、それはお母様が聞きたいのよ。
可愛い仕草で首を傾げ、自分がなぜお寝坊さんになったのかわからない様子の息子は大変可愛らしい。
「おかぁさま、はっぱ、どぉするの?」
「この葉っぱはね、食べられる葉っぱですのよ」
「はっぱ、たべられりゅ!?」
ノアはびっくりして目をまん丸くさせた。
「そうよ。ただし、美味しいかはわかりませんけれど」
「おいちくなぃ?」
「どうかしら。今から味見してみようと思いますの」
「わたちも、おてちゅだい、するのよ!」
「まぁ、ノアも一緒に味見してくれるの?」
「はい!」
「フフッ、ありがとう。じゃあお母様が先に食べてみますわね」
どんなに安全でも、初めて口にするものを、試さず息子に食べさせるわけにはいかない。
わくわくしている姿は可愛いけれど、ハーブだから苦いって泣いちゃうかもしれませんわね。
さっそく机に広げたハーブを手に取って……葉っぱをそのままの状態で食べる事があまりないから、ちょっと勇気がいりますわ。
「おかぁさま、まぁだ? わたち、あーんする?」
息子が可愛すぎる! ノアにあーんしてもらえば、美味しく食べられそうな気がしますわ……。
「奥様、さすがにそのままはどうかと思いますので、シェフかパティシエにも協力してもらいませんか?」
「ミランダさんの言う通りですよ! 奥様、いくら食用でも、そのまま食べるとお腹が痛くなるかもしれませんよ!?」
ミランダとカミラが止めに入り、「そ、そうかしら?」と、結局シェフとパティシエに協力を求めたのだ。
「───奥様、ハーブは本日の昼食で調理し、お出しいたします」
わたくしが用意したハーブ類を見たシェフが、苦笑いをして丁寧にそれらを木箱へ収めると、お辞儀をしてキッチンへと戻って行った。
初めからシェフに頼めば良かったわ。
「はっぱ、たべなぃ?」
シェフが持って行ったハーブをポカンと見送ったノアは、食べないのか、とわたくしを見上げてくる。
「シェフが昼食に出してくれるのですって。生で食べると、消化不良……お腹がいたい、いたいになるかもしれなかったのですって」
「いたぃ……おかぁさま、ぽんぽんいたぃ、ないの、よかったね」
ウチの息子、何て心優しいのかしら!
「ノアは優しいですわね。わたくし、優しい息子に恵まれて幸せですわ」
「? わたち、やさちぃ!」
「ええ。優しい良い子ですわ」
「おかぁさま、やさちぃ!」
まぁっ、そんな風に思っていてくれたのね……っ
「ありがとう、ノア。お母様、あなたに楽しくて美味しいお菓子を、頑張って作りますわ!」
「はい!」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
~ ベル商会にて ~
「知育……菓子? 知育おもちゃならわかりますが、知育菓子って何ですか??」
その日、ベル商会の重役会議で話し合われたのは、開発中の新商品についてだった。
その中で、知育菓子なるものが話題に上がると、皆が首を傾げたのだ。
「ディバイン公爵夫人が仰るには、工作のように遊び感覚で作れるお菓子のことだそうです」
「子供がお菓子を作るのですか!?」
「庶民であればまだしも、貴族の子供が自分でお菓子を作るというのはちょっと……」
その商品はどうなのか……と、ディバイン公爵夫人が提案したものに珍しく否定的な意見が多く見られた。
「指を使って生地をこねたり、絞ったり、さらには形成することで手の訓練につながるそうですよ。しかも、子どもの創造力を育てる効果があるのだということです」
「そ、そんなすごい効果が菓子づくりにあるのですか!?」
「いや、しかしやはり子供に菓子を作らせるのは危険では!?」
実際に知育菓子を見た事がないスタッフたちでは、どうしても切る、焼くのイメージが強く、その日の会議は大荒れしたのだとか。
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