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第二部 第1章
203.ボクらの出番だね!
しおりを挟むあの謹厳実直なテオ様が、皇后様が怪しいというデルベ伯爵を、疑っていない?
「怪しいのよ。確かに怪しいのだけど、アタシが調べても全く証拠が出てこないの」
だからテオ様に伝える事が出来ないのだと言う。
「下手に伝えて、こっちの信用を失いたくないの。だってテオ様にとっては向こうは兄のような人で、こっちはただの皇后よ」
ただの皇后って何ですの?
「ですがテオ様が疑っていないというのがどうも……、ウォルトは? 彼が進言すれば、さすがのテオ様も調査されるのではないかしら」
「イザベル様、テオ様と兄弟同然という事は、同じく兄弟のように育ったウォルトともそうだという事よ。証拠もないのに悪く言えば、アタシは即、推しに嫌われるのよ!」
白目をむいたあの少女マンガのような顔をして、皇后様は言った。
推しという言葉を教えてから、見事に使いこなしておりますわね。
「わかりましたわ。わたくしが調べてみます!」
「イザベル様が!? それは危ないわよ! あなたに何かあると、それこそテオ様に嫌われるわ!」
やめてちょうだい! と止めてくる皇后様に、にっこり微笑む。
「大丈夫ですわ。誰にもバレずに正確に調査出来る方法が、わたくしたちにはあるではありませんか!」
『チロガ、チョーサ、スルノ~!』
「あ、そういう事ねっ」
チロの声に、目から鱗が落ちたような顔をし、その後ニヤリと笑った皇后様は、とても悪女らしかった。
『ヨバレテー!』
『トンデキター!!』
『話は聞かせてもらったよ! ボクらの出番だね!!』
盗み聞きしておりましたのね。
呆れた顔で妖精三人を見ていると、「アカもアオも正妖精も協力してちょうだい!」と、引き続き悪い顔をした皇后様がお願いしているではないか。それを聞いた妖精たちは、破顔して、
『アカ、ガンバル!』
『アオ、ショーコ、ツカム!!』
『ボクに任せてよっ』
と部屋中を飛び回ったのだ。
それにしても、テオ様は本当にデルベ伯爵を調査していないのかしら?
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
テオバルド視点
「妻が、なぜその噂で傷付くのだ」
「……閣下の前妻の噂が、民の間で広まるのは、夫人も気分の良いものではないと考えますが」
銀髪というだけで、あの女の噂になるというのは不愉快だな。しかし、それでベルが傷付くというのならば、おかしな噂は断たねばならないだろう。
「そのおかしな噂は調査させる」
「閣下が直接出向かれるのが一番ではないでしょうか」
「私が直接出向く意味があるのか」
「もちろんです。直接出向かれ、噂を否定しさえすれば、おかしな噂など無くなります。夫人も、閣下がそこまでしてくれたと知れば喜ぶでしょう」
「……そうか」
デルベ伯爵との会話はここまでとし、それぞれが席に着いたのを確認した後、ディバイン公爵一門の会議が始まった。
「───したがって、軍馬の調教は……」
ブランビア家の報告を聞き終わると、いつの間にか晩餐の時間が迫っており、さすがに遅くなってしまったと、会議を終わらせると、皆が慌てて家族の元へと戻って行く。その時、
「閣下、少しよろしいでしょうか」
ブランビア家の当主が、穏やかな口調で話しかけてきたのだ。
「どうした」
部屋にはブランビアと私、そしてウォルトだけになっていた。
ブランビアは誰もいない事を確認した後、「先程の報告の際、少し気になった事がありましたので……」とデルベ家の武器の生産量と、鉄鉱石の採掘量についての違和感を語った。
「先程報告のあった鉄の採掘量に対して、武器の生産量が僅かに少ないような気がしたのです」
確かにブランビアの言う通り、報告の内容には違和感がある。しかし、鉄は武器だけでなく、様々な物に使用しているのだ。鉄鉱石の採掘量と武器の生産量が比例する事はないだろう。
「デルベ伯爵家は、我が家の領地と隣接しておりますので、商人の行き来も盛んです。しかし、その商人に鉄鉱石や、鉄を使用した品物が渡った形跡はなく、逆に鉄が不足しているのではないか、という噂まであります」
「何だと……」
「しかし、先程の報告では、鉱山から採掘される鉄鉱石の量は例年と同等です。不足しているという鉄は、一体どこにいったのでしょう」
ブランビアは表面は若く穏やかな人物だが、有能だという事は、この男がブランビア家を継いだ時から理解している。何しろ傾いていたブランビアの家門を短期間で立て直したのだから。
「ウォルト、デルベの領地の調査はどうした」
「はい、調査では特に問題ないという事でしたが……、もう一度詳しく調査をさせます」
「ああ。頼む───」
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