継母の心得

トール

文字の大きさ
上 下
73 / 406
第二部 第1章

192.ノア、初めての庶民街

しおりを挟む


「あの、ディバイン公爵夫人……っ、ほ、本当に、私の家にお越しになるのですか!?」

女性……お名前をコーラさんというのだけど、を半ば無理矢理馬車に乗せ、庶民街へと出発する。
赤ちゃんは馬車に驚いて泣きじゃくっていたが、揺れが心地良くなったのか、今はお母さんの腕の中で寝息をたてていた。

「ご迷惑はおかけしませんわ。庶民の暮らしを、特にお子様を育てている家庭の状況を知りたいのです」
「で、ですが、私たちは貴族様をおもてなし出来るような所に住んでいませんっ」

公爵夫人と公子様に、不快な思いをさせてしまうと思います! と断言している女性は、わたくしが庶民よりも庶民らしい暮らしをしていたことを知らないようだ。

「息子は庶民街に行くのは初めてですが、わたくしは何度も足を運んでおりますわよ」

帝都の庶民街にも、おもちゃの宝箱の支店を作る計画が進行中ですの。

「わたち、はじめていくのよ! たのちみね」
『アオ、イッタコトアル!!』
『チロモ、イッタコトアルノ~』

ノアは楽しそうにニコニコと笑い、アオとチロは馬車の中を飛び回る。たまに赤ちゃんのほっぺに頬ずりしては、『プニプニー!!』と喜んでいる妖精たちは、赤ちゃんや幼児の真っ白な魂を好むのだそう。

それを正妖精に聞いた時は、だからいつもノアやイーニアス殿下のそばに妖精がいるのね。と納得したものだ。

「私は罰せられたりしないでしょうか!?」
「どうしてそんな考えに至りましたの!?」

突然女性が青い顔をしてそんなことを言うものだから、とっさにツッコんでしまいましたわ。

「高貴な身分の方を……しかも女神様と評判のディバイン公爵様の奥様と、後継者である公子様を庶民街に連れて来てしまうなんて、私は公爵様に罰せられたりするのではないでしょうか!?」
「何を馬鹿なことを言い出しますの。わたくしの旦那様がそんな愚かなことをするはずありませんでしょう。それに、半ば無理矢理ついてきたのはわたくしですのよ」

というか、その女神っていう呼び方は何なのですか?

「おとぅさま、たみ? たいしぇちゅ、ちてるのよ」
「そうね、ノア。お父様は領民も帝国の民たちもとても大切に思っておりますわ」
「おかぁさま、いちばんたいしぇちゅ! わたち、もーっと、おかぁさま、たいしぇちゅ!」
「まぁっ、ノアったら嬉しいことを言ってくれますのね!」

わたくしもノアが大切よ! と抱きしめると、「くしゅぐったーい」とケタケタ笑い声を上げていましたわ。

「仲がよろしいのですね……。私も、この子とお二人のように仲の良い親子になりたいです」
「あら、今でも十分仲良し親子ですわよね。だって、生まれてからずっと、片時も離さず育ててきたのでしょう。切羽詰まった状態も、そうでなければ陥りませんもの」

「あなたが大切よ」「大好きよ」って、赤ちゃんを見る女性の目がそう言っておりますわ。そうして赤ちゃんも、

「ほら、見てちょうだい。わたくしが抱っこしていた時に比べて、この安心しきった顔。お母さんが絶対守ってくれるって信じ切っておりますのね」
「っ……」

女性は今にも泣きそうな顔で、赤ちゃんを見つめた。

「あかちゃん、おかぁさま、しゅきってちてるの」
「あら、本当。小さなおててで、ぎゅっとお洋服を掴んでいますわ」
「はなれたく、ないの!」

ノアの言葉に、コーラさんは泣き笑いをして、愛おしそうに赤ちゃんを抱きしめたのだ。

「奥様、庶民街に到着しました」

ミランダの言葉にノアが窓の外を見る。「ひと、いっぱいね!」と、貴族街より通りを行き交う人々の多さに驚いていた。

コーラさんのお家に案内してもらい、馬車を降りると、人が集まって来るではないか。

どうやらコーラさんのお宅は集合住宅のようなのだけど、その周りに人だかりが出来て、ご迷惑をおかけしているようですわ。

「まぁ、コーラさん、彼らはこちらの集合住宅の方たちですの?」
「え、いえ、多分馬車を追いかけて来た人々ではないかと……」

困った顔を向けるコーラさんに申し訳なく思っていると、そこへ、

「コーラちゃん? この騒ぎは一体なに……? ヒッ! 貴族様の馬車!?」
「あ、デリラさん、こんにちは」
「こ、コーラちゃ……ヒィィッ、き、貴族様!?」

コーラさんより少し年上の、30歳前後の女性が集合住宅内から出て来て、コーラさんに話しかけ、わたくしたちの馬車を見てぎょっとした後、わたくしと目が合い腰を抜かしたのだ。

「何で貴族様と一緒に!?」と口をパクパクさせるデリラさんと言う方に、もしかしてこの女性が、たまに挨拶を交わす、子育て経験のある女性だろうか。と思いつく。

「ごきげんよう。コーラさん、もしかしてこの方が?」
「はい。子育て経験のある、お隣のデリラさんです」
「こ、コーラちゃん!?」

苦笑いをするコーラさんに、紹介されたデリラさんは戸惑った声を上げたのだ。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



いつも継母の心得をお読みいただきありがとうございます。
応援してくださる皆様のお陰で、ここまで書く事ができております!


~ お知らせ ~

電子ストア  “コミックシーモア” での
電子コミック大賞2024 の投票が始まりました。

実はラノベ部門で「継母の心得」もエントリー作品となっております。

投票期間は10/4~11/30までとなっております。

ご興味がある方はチラッとのぞいて、ぜひポチッと投票していただけると嬉しいです。

今後とも「継母の心得」をよろしくお願いいたします。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

継母の心得 〜 番外編 〜

トール
恋愛
継母の心得の番外編のみを投稿しています。 【本編第一部完結済、2023/10/1〜第二部スタート☆書籍化 2024/11/22ノベル5巻、コミックス1巻同時刊行予定】

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

【完結】後妻に入ったら、夫のむすめが……でした

仲村 嘉高
恋愛
「むすめの世話をして欲しい」  夫からの求婚の言葉は、愛の言葉では無かったけれど、幼い娘を大切にする誠実な人だと思い、受け入れる事にした。  結婚前の顔合わせを「疲れて出かけたくないと言われた」や「今日はベッドから起きられないようだ」と、何度も反故にされた。  それでも、本当に申し訳なさそうに謝るので、「体が弱いならしょうがないわよ」と許してしまった。  結婚式は、お互いの親戚のみ。  なぜならお互い再婚だから。  そして、結婚式が終わり、新居へ……?  一緒に馬車に乗ったその方は誰ですか?

【完結】本当の悪役令嬢とは

仲村 嘉高
恋愛
転生者である『ヒロイン』は知らなかった。 甘やかされて育った第二王子は気付かなかった。 『ヒロイン』である男爵令嬢のとりまきで、第二王子の側近でもある騎士団長子息も、魔法師協会会長の孫も、大商会の跡取りも、伯爵令息も 公爵家の本気というものを。 ※HOT最高1位!ありがとうございます!

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

目が覚めたら夫と子供がいました

青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。 1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。 「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」 「…あなた誰?」 16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。 シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。 そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。 なろう様でも同時掲載しています。

捨てられた侯爵夫人の二度目の人生は皇帝の末の娘でした。

クロユキ
恋愛
「俺と離婚して欲しい、君の妹が俺の子を身籠った」 パルリス侯爵家に嫁いだソフィア・ルモア伯爵令嬢は結婚生活一年目でソフィアの夫、アレック・パルリス侯爵に離婚を告げられた。結婚をして一度も寝床を共にした事がないソフィアは白いまま離婚を言われた。 夫の良き妻として尽くして来たと思っていたソフィアは悲しみのあまり自害をする事になる…… 誤字、脱字があります。不定期ですがよろしくお願いします。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。