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第二部 第1章
190.赤ちゃんは泣くのが当然
しおりを挟むノアの祖母ね……。
テオ様のお母様も、わたくしの母も他界しておりますし、どうしてそんなわかり易い嘘をついたのか。
「奥様、もしかするとノア様の生みの親の……」
「あ」
そうでしたわ! ノアはわたくしが生んだと思って育てていたから、すっかり忘れておりましたけれど、前妻様がいらっしゃったのよ!
「ミランダ、前妻様のご両親はご健在ですの?」
「はい。虫はいくら叩き潰しても湧いて出て……いえ、驚くほどご健在です」
ミランダ、今すごいこと言いましたわよね。
「驚くほどって……、まぁいいですわ。そういえば、前妻様のご両親とは全く交流がございませんけれど、例の、前妻様の起こした事件に関与していたのかしら」
「はい。怒り心頭の旦那様がディバイン公爵家に一切関わらないよう処理をされましたが、何度も押しかけて来ましたので、最終的には領地から出さないようにしていたのですが……」
監禁!?
「大粛清後は、領地も没収され、爵位は降爵されたはずです」
領地没収の上、降爵だと、旦那様のこと以外にもやらかしているみたいですわね。
困った方たちのようですわ。
「店長がきちんと対応してくれておりますし、もう来ないとは思いますが、スタッフには気をつけるよう言っておきましょう」
「かしこまりました」
◇◇◇
「おかぁさま、わたち、たくさーん、しゅべりだいちたの!」
「フフッ、そうなの。楽しかったみたいでなによりですわ」
「はい! たのちかった!」
話を終えノアの所へ戻ると、たくさん滑り台で遊んだらしいノアが、すっきりと満足したような顔でやって来て、嬉しそうに報告してくれた。
たまには外出もさせないといけませんわね。
ノアのストレスフリーな表情にそんなことを考えていた時だ。
「───あの、こちらには赤ちゃん用品の取り扱いはありますか?」
「当店では、音の鳴るおもちゃ、ぬいぐるみなどの取り扱いがございますが、お客様はどのような物がご入用でしょうか?」
「あの……夜泣きする赤ちゃんを、すぐに泣き止ませるようなものとか、ありませんか?」
「夜泣き……音の鳴るおもちゃなどは、赤ちゃんも喜ぶとは思いますが、夜泣きですか……」
「……赤ちゃんを、すぐ泣き止ませないといけないんです……っ、だから、そういったものがあれば……っ」
そんな会話が聞こえてきて、母親らしき人の切羽詰まったような声に慌てて話しかけたのだ。
「少しよろしくて?」
「「え?」」
突然声をかけた為か、スタッフまで一緒になって驚いている。
「突然申し訳ありませんわ。あなたの声が、とても切羽詰まっているように聞こえて、つい話しかけてしまいましたの」
スタッフには、わたくしに任せるよう目配せをして下がってもらう。
「っ……」
「あなた、赤ちゃんをすぐに泣き止ませたいと言っておりましたわよね?」
「は、はい……」
「もしかして、夜泣きが酷いとか、誰かに何か言われたとか、そういった悩みを抱えているのではなくて?」
わたくしの言葉に、女性は目を見開き、何かを思い出したのか瞳を潤ませたのだ。女性の腕の中には大切そうに抱っこされた赤ちゃんの姿がある。
「まぁっ、可愛い赤ちゃんですわ!」
おねむなのね。お母さんの腕の中でぐっすり眠っておりますわ。ほっぺたがぷっくらしていて、口がむにむに動いておりますわね。
フフッ、寝癖かしら。柔らかそうな髪の毛が立ち上がっておりますわ。
「っ……毎日、この子が泣きわめいて、最近夫が眠れないと言って、イライラしているんです……」
だから、子供が泣き止むようなものがないか見に来たのだと、女性は言った。
これは、育児ノイローゼになる直前なのかもしれない。
「……上のカフェで、わたくしと少しお話してくださらない?」
「ぇ……、あの……」
戸惑い、わたくしと横にいたノア、そしてカミラとミランダ、後ろの護衛たちに視線をやると、ビクつきながらも頷いてくれた。
二階に上がり席に着くと、
「あかちゃん、かわいいの」
ノアがニコニコと赤ちゃんを覗き込む。その行動に女性は「あ……っ」と声を上げた。途端に赤ちゃんが目覚めて泣きじゃくり始めたのだ。
どうやらかなり敏感な赤ちゃんのようで、覗き込んだだけでも驚かせてしまったようだ。
「おかぁさま、あかちゃん、ないちゃったの……」
「大丈夫よ。赤ちゃんはちょっと驚いてしまっただけだから」
「ごめんなさぃ……」
落ち込んでしまったノアの頭を撫で、女性を見ると、慌てて泣き止まそうとしているが、一度泣き出してしまったものはなかなか泣き止まない。「お願いだから静かにして!」と切羽詰まった様子だ。
見た感じでは元気そうな赤ちゃんなので、よく泣く子なのかもしれない。前世で、友人の最初の赤ちゃんがあまりにも泣くものだから、どこか悪いのかと病院に連れて行ったらとても健康で、医者からは赤ちゃんはよく泣く子もいるのだと言われた、と話していたのを思い出す。
「息子が赤ちゃんを驚かせてしまって申し訳ありませんわ。わたくしに抱っこさせてもらってもよろしいかしら」
きっと焦っている女性では泣き止ませることも難しいだろう。
「え、で、ですが……」
「怪我をさせるようなことはしませんわ」
戸惑う女性に手を伸ばし、赤ちゃんを抱っこさせてもらう。やっぱり泣き止ませることはなかなか出来ないが、赤ちゃんは泣くのが仕事ですものね。
熱もないようですし、異常は無さそうですわ。
「す、すみません。この子、一度泣き出すと泣き止まなくて……」
「あら、よろしいのよ。赤ちゃんは泣くことで、全身運動にもなっておりますの。ですから、泣くのはストレス発散になりますのよ」
「え……?」
「泣くのが当然。泣かない赤ちゃんなんてどこにもおりませんわ。ほら、周りをご覧になって」
「周り、ですか?」
戸惑いながら、カフェを見渡す女性の目には、赤ちゃんを連れた家族が映っているだろう。
「他の方の赤ちゃんも泣いておりますでしょう」
そう伝えれば、女性は目を丸くして、茫然とその光景を眺めていたのだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
いつも「継母の心得」をお読みいただきありがとうございます。
第二部もスタートし、さっそく怪しい人たちが出てきました。これから巻き起こる事件に、やらかしの女神イザベル様はマイペースに頑張ります!
と、そんな二部も楽しんでいただけますと嬉しいです。
前回番外編を突然非公開にしてしまい、皆様にご迷惑をおかけしてしまい申し訳ありませんでした。
しおりを付けられている皆様も本当に申し訳ございません。
番外編を別ページに掲載することは規約違反にあたるのでは、と心配して教えてくださいました読者様に感謝いたします!
お陰様で大事にもならず、番外編を別ページに掲載しても問題ないと、確認ができました。
つきましては、10/7(土)に番外編のみ別ページへ移動させていただこうと思います。
今回は少し間を置いて、出来るだけご迷惑をおかけしないよう移動させようと思います。
わちゃわちゃしてしまいましたが、今後ともよろしくお願いいたします!
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