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16.退学

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ルドルフ視点


「アイリーンは可愛らしいですね。そんな君に似合いそうなアクセサリーをプレゼントします」
「やぁん、グレイ様ったらぁサイコー!」
「アイリーン、お前の為に花を摘んできたぜ!」
「まぁ、ありがとう。ゴルド!」
「オレはぁ、魔導具持ってきたわ」
「ダーク様、それどんな魔導具なのぉ?」
「ハンディタイプの扇風機。これから暑くなるしぃ」
「やーん! 嬉しいっ」

教室で、婚約者の居る男達が一人の女の心を射止めようと必死に群がって貢いでいる。
この事態に、流石に彼等の婚約者達は危機感を持ったのか、最近では女に注意をし始めたみたいだが、あの様子では聞く耳を持たないだろう。

「アイリーン、私の所へ来い」
「はーい、オリバー様ぁ」

第2王子の肩にしなだれ掛かる女は、まるで噂に聞く娼婦のようで気持ちが悪い。

王子を手玉に取るこの女は、アイリーン・トラバルト。
僕の馬車の前に飛び出してきた、あの頭のおかしな女だ。この女は、あっという間にオリバー殿下を虜にし、その取り巻きたちや教師を次々と籠絡していった。
しかし、クラスの皆は巻き込まれたくないのか遠巻きで見ているだけで、彼等に近付く者はいなくなった。

彼等の婚約者以外は。

「アイリーン・トラバルト、書類を運ぶ手伝いをしなさい」
「あっ、先生! オリバー様、先生に呼ばれたので失礼しますねっ」
「何っ、アイリーン!」
「デクスター先生ぇ、いつものように先生のお部屋に行けば良いですかぁ」
「ああ」

王子が婚約者以外の女性に惹かれているこの問題に、最初は僕も何度か注意をしたのだが、聞く耳を持たないどころか、「羨ましく妬ましいのだろう」や「もしかして私が好きなのぉ? 気持ち悪ぅい」などと返ってきて、言葉が全く通じない。

いい加減うんざりしている。

大体僕が好きなのはユーリだけで、ユーリはあの女とは比べ物にならないくらい美しく愛らしいのだ。
まるで便所虫と可憐な花程の違いがある。いや、比べるのもおこがましいな。

「うわっ、先生ぇ、あの不細工が私を睨んできますぅ」
「何? ルドルフ・スレイン。君は何度注意しても理解していないようだな」

また何か言い出した。

「僕は彼女を見ていません。言いがかりは止めていただきたい」
「現にアイリーンは睨まれたと言っているが? 自身がどんなに高位な貴族の出であろうと、他人を見下すのは間違っていると何故わからない。身分の低い者を虐げるのは止めないか!」
「見下しても虐げてもいません」
「全く。教師に口答えするなど、なんと低俗な生徒だ。君は今日一日中反省室行きだ」
「不当な扱いを止めていただきたいのはこちらですが」
「煩い!! さっさと反省室へ向かえっ」

話の通じない教師に、言い掛かりをつけてくる頭のおかしな女、そしてそれを遠巻きに見るクラスメイトと、ニヤニヤ笑う王子達。
本人達にも、教師にも、理事長にも証拠を提出し、改善を訴えたが、その兆しは一向になく、それどころか扱いは酷くなるだけだ。

恐らく、理事長は王子に脅されている。もしくは尻尾を振る犬以下の存在に成り下り、教師はそんな理事長の態度に右へ倣えの状態なのだろう。
今までの行為は全て、証拠として録画してあるが、そろそろ最終手段を用いるしかないのかもしれない。

そんな風に思っていたある日の事だった。

「ルドルフ・スレイン!! 貴様は本日をもって退学だ!!!」

第2王子が、馬車を降りて校内に入ろうとしていた僕に、大声でそう叫んだのである。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



ユーリ視点


「フレディ殿下」
「みなまで言わずとも分かっているよ。本当に愚弟が申し訳ない」
ワタクシ、ルドルフ様がご自身で解決したいという意思を尊重して、10年も耐えてまいりましたけれど、いい加減クーデターを起こしても良い気がしてまいりましたの」
「本っっ当にすまない!! 愚弟には父も母も何度も注意をしているんだ! だけど人間の言葉を理解していないみたいでね!」
「謝って済む問題ではございませんよ。人間の言葉を理解しない生物を、放し飼いにするなどあってはならない事ですわ」
「そうだね!! うん。父には伝えておくから、だから落ち着いて!!」
「まぁ、ワタクシ落ち着いておりますわ。冷静に、どう料理しようかしら、と考えております」
「今すぐ愚弟を王宮に閉じ込めるよ!!」

ルドルフ君の学校での扱いを報告される度、私の心はささくれ立ち、毎回こうしてフレディ殿下へ進言しているのだが、一向に改善しない。
このままでは、ゲームのように退学になるかもしれないのだ。いい加減イライラしてしまうのも仕方ないだろう。

「第2王子がどのような事をなさっているのか、証拠の映像もございますし、上映会でもした方が宜しいかしら」
「よし、私が直接アスデフィラ国立学校に乗り込もう。そして愚弟を捕縛する。だから、王家の恥を外部に晒すのは止めてもらえないだろうか!」

そんな会話が連日続いていた時だ。

ルドルフ君がアスデフィラ国立学校を退学になったという情報が、私の耳に入ったのは───

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