日本人顔が至上の世界で、ヒロインを虐げるモブA君が婚約者になりました

トール

文字の大きさ
上 下
10 / 20

10.醜い獣

しおりを挟む


ユーリ視点


ルドルフ君との遠距離恋愛が始まり、なかなか会えないもどかしさの中で、私達は数少ない長期休暇に愛を育んでいる。

育んでいるよね? ……私はそのつもりなんだけどね。

「ルドルフ様のご様子がおかしいわ」

乙女ゲームの始まりを間近に控えた15歳の秋、長期休暇で王都の邸に帰ってきた私は、昨日久々に会ったルドルフ君の様子に不安を感じていた。
ルドルフ君は相変わらず、いや、増々カッコ良くなっており、それはもう惚れ惚れするような少年に成長していた。

着痩せするのか普段は華奢に見える体型が、実は細マッチョだという事実に気付いたのは14歳の頃だった。
今は更に逞しくなっていて、ついつい魅入ってしまったのは仕方ない事だろう。

「それがダメだったのかしら……」

はぁ……。

さっきから溜め息しか出てこない。

「はぅん!! お嬢様ったらますますお美しくなられてっ」
「最近では色気も出てまいりましたわね!」
「蛹から蝶になろうとしている、その危うい色気がたまりませんわっ」

どこに色気があるのか。そんなものがあれば今悩んではいないのだ。

「わたくし、飽きられてしまったのかしら……」

もしかしたら、他の女性に惹かれているとか……? 何だか余所余所しかったし、その可能性もあるのかも…………。
だって鏡に映る私は、何の特徴もないこんなにも地味な女だ。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




ルドルフ視点


ユーリが綺麗すぎて、直視出来ない。

久々に会ったユーリは、その美貌に磨きがかかっていて増々近寄り難くなっていた。それに加え、あの危うい色気は何なんだ!? あんなのもう、目を逸らすしかないじゃないか!
それがいけなかった。
顔が直視出来ないから目線を下げたら、桜の花弁のような唇が僕の目を釘付けにしたんだ。

花弁のように繊細で柔い、その唇に触れたい。
ユーリと……キスがしたい。

そんな不埒な事を考えてしまった自分に戦慄した。
あの綺麗なユーリを、僕のような醜い人間が、想像でも汚したらダメなんだ!

なのに、なのに僕は…………っ

ごめんっ、ごめんなユーリ。こんなに醜いのに、思考まで醜くなって……僕はなんて酷い人間なんだろう。これじゃあ、ユーリに合わせる顔がない。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




ユーリ視点


明日会って、きちんと話をしよう。
もし他に、好きな人が出来たなら…………っ 悲しいけど、婚約は無かった事にしなきゃいけない。こういう事は、早く話し合わない、と……

「ふ……っ ぅ、いやだぁ……っ 別れたくないよぉ……」

その夜私は、一人布団の中で泣き明かしたのだ。


翌日、腫れた目が引く頃、ルドルフ君に会いにスレイン公爵家へと出掛けた。顔馴染みになっている門番の方にいつものように挨拶し、邸へと入る。
もしかしたらもう、こんな風に来る事もなくなるのかもしれないと思いながら。

ルドルフ君は、いつものように玄関まで迎えに来てくれていて、けれどやっぱりどこか余所余所しくて……目も合わせてくれなくなっていた。
それでも手を差し出してエスコートしてくれる、優しい紳士で、それがとても悲しくなった。

「ルドルフ様、お話がありますの」

私の真剣な声に、ルドルフ君の肩がビクリと揺れた。

やっぱり、他に好きな人が出来たの───……

いつもお茶をするテラスには、すでにお菓子や軽食が並べられてあり、席に着けばメイドの人達がお茶を淹れてくれる。
使用人達が離れていくまで、私達はずっと無言だった。

「ユー……「ルドルフ様」」

何かを言いかけたルドルフ君の言葉を遮ったのは、彼から切り出してほしくなかった、私のささやかな抵抗だったからかもしれない。

「ルドルフ様、わたくしのご質問に、正直に答えて下さいませ」

ルドルフ君は私を見て、決心したようにコクリと頷いた。

「昨日から、ルドルフ様のご様子が……余所余所しくなったように感じておりますの」
「そ、それは……っ」
「もしかして、他に……っ、お好きな方が居られますの?」

膝に置いていた自分の手を、ドレスごとぎゅっと握り、返答を待つ。
息がしづらくて、心臓はバクバクと鳴り、涙がまた溢れてしまいそうなのを我慢する。

「そんな人居るわけないだろ!? どうしてそんな……っ、僕にはユーリだけなのに! ユーリだけが好きなのにっ」

泣きそうなルドルフ君の声に、ヒュッと息を吸い込み顔を上げると、

「ごめん……っ、ごめんなユーリ……」

私の足元によろよろと膝をつき、謝罪するルドルフ君の姿があった。

「る、ルドルフ様!?」

支えようと腕に触れれば、ルドルフ君は「ダメなんだ」と呟いた。

「なにが、だめなのですか?」

彼の前に膝をつき、そっと頬に手を当てる。

「僕は……外見だってこんなに酷いのに、思考も醜い獣のようになってしまったんだ───」

しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

「いなくても困らない」と言われたから、他国の皇帝妃になってやりました

ネコ
恋愛
「お前はいなくても困らない」。そう告げられた瞬間、私の心は凍りついた。王国一の高貴な婚約者を得たはずなのに、彼の裏切りはあまりにも身勝手だった。かくなる上は、誰もが恐れ多いと敬う帝国の皇帝のもとへ嫁ぐまで。失意の底で誓った決意が、私の運命を大きく変えていく。

私は女神じゃありません!!〜この世界の美的感覚はおかしい〜

朝比奈
恋愛
年齢=彼氏いない歴な平凡かつ地味顔な私はある日突然美的感覚がおかしい異世界にトリップしてしまったようでして・・・。 (この世界で私はめっちゃ美人ってどゆこと??) これは主人公が美的感覚が違う世界で醜い男(私にとってイケメン)に恋に落ちる物語。 所々、意味が違うのに使っちゃってる言葉とかあれば教えて下さると幸いです。 暇つぶしにでも呼んでくれると嬉しいです。 ※休載中 (4月5日前後から投稿再開予定です)

【完結】男の美醜が逆転した世界で私は貴方に恋をした

梅干しおにぎり
恋愛
私の感覚は間違っていなかった。貴方の格好良さは私にしか分からない。 過去の作品の加筆修正版です。

召喚されたら聖女が二人!? 私はお呼びじゃないようなので好きに生きます

かずきりり
ファンタジー
旧題:召喚された二人の聖女~私はお呼びじゃないようなので好きに生きます~ 【第14回ファンタジー小説大賞エントリー】 奨励賞受賞 ●聖女編● いきなり召喚された上に、ババァ発言。 挙句、偽聖女だと。 確かに女子高生の方が聖女らしいでしょう、そうでしょう。 だったら好きに生きさせてもらいます。 脱社畜! ハッピースローライフ! ご都合主義万歳! ノリで生きて何が悪い! ●勇者編● え?勇者? うん?勇者? そもそも召喚って何か知ってますか? またやらかしたのかバカ王子ー! ●魔界編● いきおくれって分かってるわー! それよりも、クロを探しに魔界へ! 魔界という場所は……とてつもなかった そしてクロはクロだった。 魔界でも見事になしてみせようスローライフ! 邪魔するなら排除します! -------------- 恋愛はスローペース 物事を組み立てる、という訓練のため三部作長編を予定しております。

悪役令嬢は永眠しました

詩海猫
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」 長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。 だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。 ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」 *思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m

妾の子だからといって、公爵家の令嬢を侮辱してただで済むと思っていたんですか?

木山楽斗
恋愛
公爵家の妾の子であるクラリアは、とある舞踏会にて二人の令嬢に詰められていた。 彼女達は、公爵家の汚点ともいえるクラリアのことを蔑み馬鹿にしていたのである。 公爵家の一員を侮辱するなど、本来であれば許されることではない。 しかし彼女達は、妾の子のことでムキになることはないと高を括っていた。 だが公爵家は彼女達に対して厳正なる抗議をしてきた。 二人が公爵家を侮辱したとして、糾弾したのである。 彼女達は何もわかっていなかったのだ。例え妾の子であろうとも、公爵家の一員であるクラリアを侮辱してただで済む訳がないということを。 ※HOTランキング1位、小説、恋愛24hポイントランキング1位(2024/10/04) 皆さまの応援のおかげです。誠にありがとうございます。

前世の記憶が蘇ったので、身を引いてのんびり過ごすことにします

柚木ゆず
恋愛
 ※明日(3月6日)より、もうひとつのエピローグと番外編の投稿を始めさせていただきます。  我が儘で強引で性格が非常に悪い、筆頭侯爵家の嫡男アルノー。そんな彼を伯爵令嬢エレーヌは『ブレずに力強く引っ張ってくださる自信に満ちた方』と狂信的に愛し、アルノーが自ら選んだ5人の婚約者候補の1人として、アルノーに選んでもらえるよう3年間必死に自分を磨き続けていました。  けれどある日無理がたたり、倒れて後頭部を打ったことで前世の記憶が覚醒。それによって冷静に物事を見られるようになり、ようやくアルノーは滅茶苦茶な人間だと気付いたのでした。 「オレの婚約者候補になれと言ってきて、それを光栄に思えだとか……。倒れたのに心配をしてくださらないどころか、異常が残っていたら候補者から脱落させると言い出すとか……。そんな方に夢中になっていただなんて、私はなんて愚かなのかしら」  そのためエレーヌは即座に、候補者を辞退。その出来事が切っ掛けとなって、エレーヌの人生は明るいものへと変化してゆくことになるのでした。

あなたの運命になれたなら

たま
恋愛
背の低いまんまるボディーが美しいと言われる世界で、美少女と言われる伯爵家のクローディアは体型だけで美醜を判断する美醜感に馴染めずにいる。 顔が関係ないなんて意味がわからない。 そんなか理想の体型、好みの顔を持つ公爵家のレオンハルトに一目惚れ。 年齢も立場も離れた2人の運命は本来重なる事はないはずだったが…

処理中です...