53 / 53
第二章
53.ただいま
しおりを挟む牧歌的なのに近代的な建物というチグハグした町(村)並みに、私たちは安堵していた。特にレオさんは、
「正直、生きて帰れるとは思いませんでした」
と力が抜けたような顔をしていたので、クレマンスさんとそのご家族共々家で休ませる事にし、ウキウキしているオルゲンが興味津々といったように私たちの前を駆け回るのを捕まえながら、息を吐く。
おじいちゃんなのに、行動と外見は五歳児そのものなんだよね……。
「リッチモンドさん、帰って来ちゃいましたね」
「そうだな。ここへ帰って来ると、ホッとする」
あれから程なくして、扉を潜った私たちは、村長の邸の物置の窓から、村の風景を安堵しつつ眺めている。
「まさか物置に繋がってるなんて……」
「子供らが開けぬよう、注意しておく必要があるな」
「そうですね」
互いに苦笑いしながら頷きあう。
まぁ、一番注意したほうが良さそうなのは、オルゲンなんだろうけど。
「別の場所に出たぞ! 通常の転移とはまた違って、不思議な気持ちになるな!」
「オルゲン、ちょっと落ち着いて……」
「我は早く外を見たい! ここはカナデの村なのだろう!?」
「そうだけど、勝手に動き回らないでよ?」
「我も住む所なのだ。探検しなければなるまい!」
いつの間にかここに住む事になっているが、うどんが食べたいと言いながら、探検もする気満々で、どちらか一つにしてよね。と、気も漫ろなオルゲンを窘める。
「うどんが出てくるまで、探検するぞ!」
結局どちらも選択したオルゲンに、リッチモンドさんと顔を見合わせ苦笑しながら、キッチンへと移動すると……
「カナデ様! お帰りなさいませっ」
「カナデ様、お怪我はありませんか!?」
キッチンには、イヴリンさんと、亜人族のスラム街からやってきたちょっぴり天然のラヴィちゃん、そして、
「お母さん! おじいちゃ……お父さん! お帰りっ」
「お母さん、お父さん、お帰りなさい」
「お姉ちゃん、おじ……、お兄ちゃん、お帰りなさい!!」
子供たちが迎えてくれたのだ。
「おおっ、ルイ、アーサー、ミミリィ、帰ったぞ」
「ただいま……って、お父さん!? なんでおじいちゃんから、突然お父さんに!?」
ミミリィちゃんのお兄ちゃんはわかるけどね。リッチモンドさんの見た目が若返ると、さすがにおじいちゃんとは呼べなくなるよね。
「? お母さんは、リッチモンドお父さんと結婚するから、お父さんだよね?」
「ブフォッ!?」
「アーサー、それ言っちゃダメだよ!?」
「あ、そっか。お母さんは照れ屋だから、まだ言ったらダメなんだった!」
なっ、な、な……!?
「子供たちよ。まだわしはカナデを口説いている最中だが、お父さんと呼んでもらって構わぬぞ」
ぅええ!?
「じゃあ、やっぱりお父さんだ!」
「お父さん、お帰りなさい。ドラゴンの国はどうでしたか?」
「よしよし、リビングでわしとカナデの冒険譚を話してやろう」
子供たちはリッチモンドさんの言葉に、キャッキャと喜び、抱っこしてもらいながら、リビングへと行ってしまった。
「ぇえ……」
「カナデ様、焦らず、ゆっくりですよ」
子供たちに結婚を言及され、リッチモンドさんも認め、口説いていると言われた事で、恥ずかしいやら、何やら、もう頭の中がぐちゃぐちゃで、目がぐるぐる回っていたのだけど、イヴリンさんは訳知り顔で、大人の対応を取ってくれたので、少し落ち着いた。
「カナデ様、美味しいパンが、もうすぐ出来ますから、待っていてくださいね!」
ラヴィちゃんは可愛らしい笑顔で、スンスンと鼻を鳴らし、はぁ~と、蕩けるように表情を崩す。確かにパンの美味しそうな匂いが、鼻をくすぐった。
「あ、これからリッチモンドさんのお兄さんに、うどんを作るから、そっちも手伝ってくれるかな?」
「はい! って、リッチモンド様の、お兄様、ですか!?」
◇◇◇
「おおぉ!! これが、カナデの村か!!」
「あれ? 見ない子供だね……? 新しく来た子かな?」
「ん? うむ! その通り、新たにカナデの屋敷に住む事になった、オルゲンという! よろしく頼むぞ。皆のもの!!」
923
お気に入りに追加
3,529
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(96件)
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
聖女の私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。
重田いの
ファンタジー
聖女である私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。
あのお、私はともかくお父さんがいなくなるのは国としてマズイと思うのですが……。
よくある聖女追放ものです。
若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!
古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。
そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は?
*カクヨム様で先行掲載しております
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】結婚して12年一度も会った事ありませんけど? それでも旦那様は全てが欲しいそうです
との
恋愛
結婚して12年目のシエナは白い結婚継続中。
白い結婚を理由に離婚したら、全てを失うシエナは漸く離婚に向けて動けるチャンスを見つけ・・
沈黙を続けていたルカが、
「新しく商会を作って、その先は?」
ーーーーーー
題名 少し改変しました
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
妹を溺愛したい旦那様は婚約者の私に出ていってほしそうなので、本当に出ていってあげます
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族令嬢であったアリアに幸せにすると声をかけ、婚約関係を結んだグレゴリー第一王子。しかしその後、グレゴリーはアリアの妹との関係を深めていく…。ある日、彼はアリアに出ていってほしいと独り言をつぶやいてしまう。それを耳にしたアリアは、その言葉の通りに家出することを決意するのだった…。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
夫の隠し子を見付けたので、溺愛してみた。
辺野夏子
恋愛
セファイア王国王女アリエノールは八歳の時、王命を受けエメレット伯爵家に嫁いだ。それから十年、ずっと仮面夫婦のままだ。アリエノールは先天性の病のため、残りの寿命はあとわずか。日々を穏やかに過ごしているけれど、このままでは生きた証がないまま短い命を散らしてしまう。そんなある日、アリエノールの元に一人の子供が現れた。夫であるカシウスに生き写しな見た目の子供は「この家の子供になりにきた」と宣言する。これは夫の隠し子に間違いないと、アリエノールは継母としてその子を育てることにするのだが……堅物で不器用な夫と、余命わずかで卑屈になっていた妻がお互いの真実に気が付くまでの話。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。
くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」
「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」
いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。
「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と……
私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。
「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」
「はい、お父様、お母様」
「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」
「……はい」
「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」
「はい、わかりました」
パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、
兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。
誰も私の言葉を聞いてくれない。
誰も私を見てくれない。
そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。
ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。
「……なんか、馬鹿みたいだわ!」
もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる!
ふるゆわ設定です。
※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい!
※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ!
追加文
番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。
愛されない皇妃~最強の母になります!~
椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』
やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。
夫も子どもも――そして、皇妃の地位。
最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。
けれど、そこからが問題だ。
皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。
そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど……
皇帝一家を倒した大魔女。
大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!?
※表紙は作成者様からお借りしてます。
※他サイト様に掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
継母の心得の作品を愛読させてもらっております関係で、こちらの作品を知りました。
面白いです!本にすべき作品です!
ぜひ、完成させてください❣️
主人公とドラゴンの素敵な関係に癒されます❣️
紗矢香様、コメントありがとうございます✨
継母の心得も、そしておウチ様もお読みいただき、本当に嬉しいです(人*´∀`)。*゚+
しかもそのように仰っていただき、感涙です(≧▽≦)
楽しんでいただきありがとうございます✨
子供たちはリッチモンドさんにの言葉に
↓
子供たちはリッチモンドさんの言葉に
久々更新きちゃ〜(*´▽`*)
継母もあるし更新いつでも待ってますよ〜(≧▽≦)
ご指摘ありがとうございます(人*´∀`)。*゚+
いつも助かっております(`・ω・´)ゞ
おウチ様も楽しんでいただきありがとうございます✨
久々更新です(≧▽≦)
待ってた( ;∀;)待っていましたよ、おうどんらぶらぶファンタジー! おかえりなさい🌟
実山椒様、お待たせいたしました(≧▽≦)✨
おうどんらぶらぶファンタジーの久々更新ですw
おウチ様を楽しんでいただき、ありがとうございます✨