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第一章
50.捨てられた理由
しおりを挟む旅館のエントランスは、お洒落な古民家のような感じで落ち着く内装だった。
各部屋は畳張りで、まさに旅館という感じで、窓からは異空間にある山と川が見える。
景色がちょっと不思議な小さめの旅館であった。
「何とも落ち着く場所だな」
そう言って目を細めるリッチモンドさんは、何故か私の腰を抱いて移動しているのでさっきからドキドキしている。
「小さいぞ。我はもっと大きな場所を所望する」
オルゲン、黙って。
「邪竜……オルゲン様、とりあえずこの部屋にクレマンス達を下ろしていただいても宜しいでしょうか」
「うむ」
気絶しているクレマンスさん達を魔法で浮かし、運んでいたオルゲンは、レオさんの言う通り、入口からすぐの一部屋に下ろした。
「リッチモンド、カナデ、我は偉いだろう!」
ニカッと笑うオルゲンは5才児の外見と相まって可愛らしい。
「さすがオルゲン! やれば出来る子」
「そうだろう。そうだろう」
褒めたら胸を張るので笑いが漏れる。
それにリッチモンドさんは複雑な表情をしていたのだ。
旅館の部屋には緑茶とお茶菓子があったので、皆にお茶を淹れ、お腹が空いていたオルゲンにはお茶菓子を多めにあげて喜ばれた。
村に帰ったらうどんと天ぷらを作ってあげよう。
「───父上が言っていたが、昔のドラゴンは国も無く、集落すらも珍しかった。強さを求めるドラゴンが多く、ドラゴン達は本能に従い生きていた。
そんな中、ある集落で父は母を見つけ、つがった」
お茶菓子を食べ、お茶を飲んで一服すると、リッチモンドさんとオルゲンは先程の話の続きを始めた。
リッチモンドさんは真剣な顔をして聞いていたので、退出した方がいいかと思い立ち上がろうとしたが、手を握られたまま、離される事はなかったので、そこへ居る事にしたのだ。
レオさんはそれを見て頷くと、クレマンスさん達を寝かせている奥の部屋へ移動した。
「……しかし、その集落はおかしな実験をしていたらしい。母は奴隷でこそなかったが、その集落から出られないようその地に繋がれていた。
つがった父も勿論母を置いては行けず、その集落で暮らす事になった。
そして、我等が産まれたのだ。父上も母上も双子だからどうとは思っていなかったが、集落の者は双子は縁起が悪いから、と一人を贄にするべきだと言い出したらしい」
贄って……生贄? リッチモンドさんを、何かの生贄にするつもりだった!?
「勿論父は拒否したが、母がその地に繋がれている限り、逃げる事も出来なかった。だから、魔力が異常に多かったリッチモンドを化け物だと言って集落から追放する事で逃がそうとしたのだ」
リッチモンドさんの手が、私の手をぎゅと握る。
私はそれを握り返し、オルゲンを見た。
「父上は、昔世話をした人間にリッチモンドを預ける事にした。そして、集落のドラゴン達には捨ててきたと誤魔化し、リッチモンドを追わぬように言い含めた。集落の人間は、父と母の言葉を信じたようで、化け物には手を出さぬと諦めたようだった」
リッチモンドさんのお父様は、リッチモンドさんを助ける為に捨てたんだ……。
「リッチモンドが集落に戻ってくれば、ドラゴン共から魔力を搾取され続ける奴隷のような運命が待っている。自由に生きさせる為には、我が家から追い出し、人間に育てさせるしかない。万が一でもドラゴンの集落に戻って来ることのないよう、キツく接しろと言われていた」
何てことだろう……。その集落さえなければ、リッチモンドさんは家族と幸せに暮らしていただろうに……。
「……父上も、母上も、わしの事を化け物だと言っていたのは……」
「化け物だ。近くに寄ると呪われると言えば、集落の者は連れ戻さぬと考えたのだ。だから、本心からそう思っていたわけではない。父上も母上も、勿論我も」
「わしは……守られていたと言うのか……」
リッチモンドさんは、少しの間目を閉じ、黙って何かを考えていたのだ。
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