47 / 53
第一章
47.やれば出来る子、オルゲン
しおりを挟むぐうぅぅ~。
邪竜(?)のお腹の音が地下に響き、だんだん気が抜けてくる。
さっきのグルル……って唸り声も、本当はお腹の音だったのかもしれない。怖がって損をした気分だ。
「うどんを作るのはいいんですけど、今リッチモンドさん達がピンチなんです! だから、助けた後でも良いですか?」
【何!? 我の目には、娘と地下を散歩していたように見えたのだが!?】
「貴方を探してたんですけどね!! って、そうじゃなくて、クレマンスさんのご両親が貴方に捕らわれてるって聞いてたんです!! それで、実際土魔法で作られた牢屋の中に居たらしくて、でも悲鳴が聞こえて……っ」
【悲鳴の聞こえる牢屋!? な、何だその恐ろしい牢屋は!? 我はそのようなもの作っておらぬ! それに、誰かを捕らえてもおらぬぞ!?】
だと思った!
しかもこのドラゴン、私と同類のホラー嫌いの匂いがする。
【リッチモンドが危ないのならば、我も行きたいが、どうも力が戻らぬ。これでは動けぬのだ】
「そういえば、リッチモンドさんが前に、ドラゴン化した方が魔力を使うから、人化の方が良いって言ってたけど、力が戻らないのに何でドラゴンの姿なんですか?」
【あ】
「あ?」
もしかして……。
【我はドラゴンとして生まれたのだから、ドラゴンの姿をするのは当たり前だろう!! 何だその目は!!】
「もういいから、人化して下さい」
【もういいとは何だ!! 失礼極まりない娘だなっ】
邪竜(?)はぶつぶつ言いながら、黒い霧に包まれ、それはシュルシュルと形を変えていった。
そして人化したのだが…………、
「なにやらぁ……動きにくいのぉ……」
「巫山戯てるんですか?」
何故かヨボヨボのおじいちゃん姿でふるふると足を震わせている邪竜(?)に、思いっきりハリセンをお見舞いしたくなった。
「我、人化をする事があまりなくて……力も上手く使えんのぉ……」
か細い声とふるふる震える足もあってか、今すぐぽっくり逝きそうだ。
「やり直しです! リッチモンドさんはおじいちゃん姿でもそんな風じゃなかったですよ!! ロマンスグレーの素敵なおじいちゃんでした!」
「……え? 何て??」
耳も遠いんかぃ!!
「もぉ! そんな事してる場合じゃないんですってば! ほら、もう一度、今度はもっと若くっ 魔力も消耗しないような人化をお願いします!!」
叫ぶような大声を出せば、「うるさい娘だのぅ」と言うのでイラッとした。
「……うむ。これなら良いだろう!」
またもや黒い霧がシュルシュルっと邪竜(?)の身体を包み、出て来たのだが…………、
「今度は子供じゃないですか!!」
「仕方なかろう!? 魔力もあまり使わずだと、小さな身体が一番良いのだ!!」
ものすごい生意気な5才児の姿に変わった邪竜(?)は、くりくりとした大きな瞳がドラゴンの時と同じ赤で、サラサラの黒髪に、肌は浅黒い。
悔しいがリッチモンドさんの双子のお兄さんだけあり、顔がそっくりでとても可愛かった。
「わかりました。もうそれで良いです」
「何か失礼な娘だな!」
「それより、本当のお名前聞いても良いですか?」
邪竜(?)は面倒だし。
「我はオルゲンだ。娘は義妹だからな。オルゲン兄様と呼んでも良いぞ」
「オルゲン、行くよ!!」
「呼び捨ての上タメ語!? まて娘! 我にだけ名乗らせて行こうとするでない!」
「私はカナデだよ。ほら、行くよオルゲン!」
「何故かとても下に見られている気がするが、分かった。今は何も言うまい。今はな!」
邪竜(?)改めオルゲンと共に先程の場所へ転移? したのだが、
「何で牢屋の中に居るの!?」
「カナデが先程の場所へと言ったのであろう!? 我は言う通りにしただけだっ」
胸を張る5才児に呆れる。
それより、
「リッチモンドさん! どこに居るんですか!?」
「リッチモンド、何処だ!?」
「…………オルゲン!! 今こそリッチモンドさんの見てるものを見てよ!?」
「ハッ!」
ちょっと、この自称邪竜の頬をつねってもいいかな?
「カナデ! 大変だっ リッチモンドが、我の力を貸してやったものと戦っておる!!」
「何処で!?」
「分からん!!」
「…………とりあえず、この牢屋から出よう」
「そうだな!」
格子がぐにゃり動いたと思ったら、ボロボロと崩れ始める。
「オルゲン、やれば出来るんだね!」
「そうだろう! 我はやれば出来る子だと父上と母上からも言われていた」
「クレマンスさんの両親がこの奥の牢屋に捕らわれてたみたいだったから、奥に行ってみよう」
「無視か!?」
さっきリッチモンドさん達が走って行った方へ進む。
しかし、音もしないし誰もいないのだ。
「オルゲン、リッチモンドさん達は本当に戦ってるんだよね?」
「間違いない」
「おかしくない……? ドラゴン同士がこんな地下で戦っているなら、普通何らかの音はするはずだよ。なのに音が一切しないのは異様じゃない?」
「確かに! カナデ、お前は小さな頭の割に頭が良いのだな!」
「喧嘩売ってる!?」
私達二人の声しか響いていない地下にますます違和感が湧く。
「恐らく、空間が歪められておるのだろう」
「空間……? オルゲン、その空間に干渉出来る?」
「任せておけ。我は凄いのだからな」
そういうと、オルゲンは5才児とは思えない慣れた手付きで何やら魔法を使い始めたのだ。
すぐにぐにゃりと目の前の空間が歪み、リッチモンドさんと、黒いドラゴンが戦っている姿が目に飛び込んできた。
黒いドラゴンは鱗の所々が赤く、何者なのかすぐに理解出来た。
あれは、ロッソだ───
280
お気に入りに追加
3,529
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
聖女の私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。
重田いの
ファンタジー
聖女である私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。
あのお、私はともかくお父さんがいなくなるのは国としてマズイと思うのですが……。
よくある聖女追放ものです。
若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!
古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。
そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は?
*カクヨム様で先行掲載しております
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】結婚して12年一度も会った事ありませんけど? それでも旦那様は全てが欲しいそうです
との
恋愛
結婚して12年目のシエナは白い結婚継続中。
白い結婚を理由に離婚したら、全てを失うシエナは漸く離婚に向けて動けるチャンスを見つけ・・
沈黙を続けていたルカが、
「新しく商会を作って、その先は?」
ーーーーーー
題名 少し改変しました
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
妹を溺愛したい旦那様は婚約者の私に出ていってほしそうなので、本当に出ていってあげます
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族令嬢であったアリアに幸せにすると声をかけ、婚約関係を結んだグレゴリー第一王子。しかしその後、グレゴリーはアリアの妹との関係を深めていく…。ある日、彼はアリアに出ていってほしいと独り言をつぶやいてしまう。それを耳にしたアリアは、その言葉の通りに家出することを決意するのだった…。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
夫の隠し子を見付けたので、溺愛してみた。
辺野夏子
恋愛
セファイア王国王女アリエノールは八歳の時、王命を受けエメレット伯爵家に嫁いだ。それから十年、ずっと仮面夫婦のままだ。アリエノールは先天性の病のため、残りの寿命はあとわずか。日々を穏やかに過ごしているけれど、このままでは生きた証がないまま短い命を散らしてしまう。そんなある日、アリエノールの元に一人の子供が現れた。夫であるカシウスに生き写しな見た目の子供は「この家の子供になりにきた」と宣言する。これは夫の隠し子に間違いないと、アリエノールは継母としてその子を育てることにするのだが……堅物で不器用な夫と、余命わずかで卑屈になっていた妻がお互いの真実に気が付くまでの話。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。
くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」
「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」
いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。
「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と……
私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。
「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」
「はい、お父様、お母様」
「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」
「……はい」
「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」
「はい、わかりました」
パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、
兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。
誰も私の言葉を聞いてくれない。
誰も私を見てくれない。
そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。
ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。
「……なんか、馬鹿みたいだわ!」
もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる!
ふるゆわ設定です。
※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい!
※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ!
追加文
番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。
愛されない皇妃~最強の母になります!~
椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』
やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。
夫も子どもも――そして、皇妃の地位。
最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。
けれど、そこからが問題だ。
皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。
そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど……
皇帝一家を倒した大魔女。
大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!?
※表紙は作成者様からお借りしてます。
※他サイト様に掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる