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第一章
32.好きというのは
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ドラゴンの国 ── ソレルーナドラゴ王国 ──
「リッチモンドは出て行ったのか」
赤竜である現国王、ロッソ様が、あの方のを気にされている。
前国王である、リッチモンド様……。
お年による力の衰退さえ無ければ、私も未だあの方を支持していたとうのに……。
あの方は日に日に食欲もなくなり、寿命も後2、300年というところだった。
これ以上の国王としての業務は、あの方の負担になり、残り少ない寿命を削るだけだろうと、自らが死ぬまで国民に尽くす気だったあの方を、無理矢理退かせる他無かったかのだ……。
しかし、
「はい。今や国民さえもあの方の国外追放を願い、出て行かざるを得なくなりましたから……」
「フンッ 愚かな民共が。リッチモンドのあの噂を、私が流したとも知らずに、今まで民の為に尽くした男を自ら追放するとはな」
なぜ、ロッソ様は追放などと愚かな事をしたのだ……っ
「……なぜ、あの方をあのような噂で追い立てたのですか? 貴方様ならば、何もしなくとも王になれたはずです」
「そんなもの決まっているだろう。奴を賢帝のまま退位させれば、俺が馬鹿共に侮られるだろうが」
そんな事で……っ
「そんな事の為に、リッチモンド様が国民の税金を私的に流用しているという噂を流されたのですか……。さらに自らの力がリッチモンド様を上回るとまで……」
赤竜は確かに、若いドラゴンの中では突出した力の持ち主だ。
しかし、お年を召したリッチモンド様の魔力には到底及ばない。
それなのに、自らの力をあの方より上などと!!
「何だ、善人面か? お前も俺に加担しただろう。今更俺を責めるなど、お門違いも良いところだ」
「っ……そう、ですね…………私に、貴方を責める資格などない」
私とて、あの方に生きて欲しいからと愚かな選択をした一人。
ロッソを責める資格などないのだ。
リッチモンド様……、私の愛する貴方は、今どちらで何をされているのでしょうか……。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
カナデ視点
「今日はカナデの好きなボアピグを狩って来るので待っていてくれ」
「ひぇっ は、はいっ」
あれから、リッチモンドさんは本当に毎日好意を示してくれるようになった。
そして、とっても甘々になった。
「お母さん、おじいちゃんはどうしておじいちゃんじゃなくてお兄さんになったんですか?」とルイに聞かれた時は、どう答えたら良いのか分からず、口を鯉のようにパクパクさせてしまった。
「ルイもアーサーもミミリィも、カナデの事を頼んだぞ」
「「「はい!!」」」
子供達は、リッチモンドさんの言葉に大きな返事をして、頭を撫でられている。
リッチモンドさんって、やっぱり子供が好きだよね。
「カナデ、ではレオとカイを連れて行ってくるのでな。何かあれば、わしが渡した鱗を握り、話し掛けるのだぞ」
カイとは、新しく村にやって来た若者の一人で、レオさんと同じように剣の才能があったのか、リッチモンドさんの訓練を受けているのだ。
「はいっ」
私は胸元に光る、白く美しい鱗を握り、リッチモンドさんに笑顔を見せた。
この鱗はドラゴンの逆鱗らしく、つがう相手にアクセサリーに加工して与えるものなんだとか。
これを握って魔力を流しながら話すと、電話のように会話が出来る便利アイテムだ。
私はネックレスに加工されたそれを、リッチモンドさんから頂いたのである。
「では皆、行ってくる」
3人は、村の結界を越え、魔の森の中へと消えていったのだ。
「おじいちゃん、若くなってからすっごく格好いいね~」
「おじいちゃんは、おじいちゃんの頃からカッコよかったです」
「そう。おじいちゃんは、おじいちゃんでも格好いい」
「そうだね! ミミリィおじいちゃんだーいすき!!」
「僕も大好きです!」
「オレも」
子供達がリッチモンドさんを絶賛している中、私はリッチモンドさんのプロポーズ? にきちんと返事が出来なかった事に落ち込んでいた。
「カナデ様、草取りの続きをしながらお話いたしましょうか」
にっこり笑うイヴリンさんに頷いたのだ。
「───では、プロポーズにお返事されていないのですか? 好きなのに?」
「……はい。だって、ずっと家族だったし、そんな風に見てなかったのに、若くなって口説かれたから好きになりました。なんて……」
「まぁ。カナデ様はリッチモンド様が若く美しくなったから好きになったのですか?」
「それは……っ リッチモンドさんは皺のある顔でも、変わらず素敵で、顔だけじゃなく、全部が格好良いです!! だけど……実際プロポーズされてから好きになったわけだし……なんか、それはどうなのかなって……」
ブチブチと畑の草を抜きながらイヴリンさんに愚痴る私は、リッチモンドさんのように素敵な人にはとても釣り合わないだろう。
「リッチモンド様は、そんな事は気にされないと思いますが……。カナデ様は、本当に出会ってから今まで、一度も、男性として好ましいと思った事はないですか??」
「え……」
「この人が旦那様だったらいいのに。この人との間に、子供が生まれたらこんな感じかしら? などと、考えた事はないのですか?」
「あ……っ」
「あるのですね」
いつも、こんな人が旦那様ならって思ってた。
こんな人の子供を生めたらいいのにって……。
「男性として見れない人に、そんな事を思う女性はおりません」
そうか。私は、リッチモンドさんが最初から好きだったんだ。
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