私のおウチ様がチートすぎる!!

トール

文字の大きさ
上 下
28 / 53
第一章

28.作って良かった食パン

しおりを挟む


「なんて美味しい水なんだ……っ」
「体の隅々にまで行き渡る!」
「何だか、体が軽いわぁ!!」
「舌が生えてきた!!!」

大人も子供も合わせて100人は居そうだなぁと、スポーツ飲料水を飲んでいる人々を眺める。

彼等は初めて来た5人と同じように戸惑っているが、スポーツ飲料水を飲んでから元気が出てきたのか、少し落ち着いてきたようだ。

「カナデ様、これはあの“しょくパン”が役に立ちそうですね」

イヴリンさんがホッとしたような、嬉しそうな顔で言うので、おかしくなってつい笑ってしまった。

「そうですね! スポーツ飲料水を飲んで少し落ち着いてきたみたいですし、食パンを切り分けて皆に配りましょうか」
「はい。カナデ様、子供達にも手伝ってもらいましょう」

子供達を連れて、私達は邸に戻り子供達が作り過ぎてしまったパンを切り分ける。

「お母さん、ミミリィ達がパンを作っておいて良かったでしょう!」

さっきまで怒られていたミミリィちゃんが、今の状況に胸を張ると、イヴリンさんは、「調子に乗らないのっ」と軽く頬抓っていた。

子供達には、切り分けたパンを運んでもらう役割をお願いし、パン切り包丁でギコギコ切っていく。

山のようなパンにうんざりするが、一斤丸々渡して食べろというのも可哀想だろうし、仕方がない。

「弱っている人達も、この美味しいパンを食べればすぐ元気になりますね!」
「そうだと良いなぁ。でも、あの大きなお屋敷はどうする気なんですかね?」
「きっとリッチモンド様が処分されますよ。あのお屋敷に皆良い思い出はありませんから」
「何だか勿体ない気もするけど、見ただけで嫌な思いをするなら、無い方が良いですよね」

村にある家は100戸建っているので、まだ余裕はありそうかなぁ。

「でも、皆本当にここで暮らしたいって思ってくれるかな?」
「勿論です。家の設備も、生活用品も食料も、全て何不自由なく暮らせる村ですよ? 嫌がる人なんて居ません」
「そうかなぁ……」

娯楽は何もないから、街の方が良いっていう人も居ると思うんだけどなぁ。

「カナデ様は、ここがどれほど素晴らしい所か、分かっておりませんね」
「え?」
「皆の反応を見れば、いずれ分かりますよ」

にっこり笑うイヴリンさんは自信満々で、初めて会った頃に比べて随分元気になったなと嬉しくなった。

「カナデ! 先程から皆が食べているのは何だ!? わしはまだ食べた事がないぞ!」

慌てたようにキッチンへやって来たリッチモンドさんに、イヴリンさんが「あらあら」と笑いながら、「カナデ様、私は皆の所へ行ってきますね」と出て行ったのだ。

え、パン私一人で切るの?

「カナデ! あのパンが欲しい! わしもあのパンを食べたいぞっ」
「リッチモンドさん、あれ“食パン”って言うんですけど、プレーン、ナッツ、あんこ、レーズンと色々あるけどどれが良いですか?」
「ふむ。勿論全ての種類をもらおうか!」

だと思った。

「じゃあそこに座っていて下さい」
「分かった!」

食パンを切り分けながら、何となくリッチモンドさんを見ると、やっぱり若返ってる気がするんだよね。

「あ、リッチモンドさん。晩御飯も作ってるんだけど、先に食べますか?」
「ぬっ “しょくパン”とやらが晩御飯ではないのか?」
「違いますよ。これは明日の朝出そうと思ってたんです。晩御飯は、ナポリタンスパゲティにハンバーグを乗っけた豪華版です!」
「なぽりたん?? また新しいメニューだな! うぬ。カナデと子供らと共に、先にいただこうか。勿論“しょくパン”も食べるぞっ」

最初来たときは胃もたれするって言ってたのに、今じゃ何でも美味しそうに食べるんだよなぁ。
それに、皆に平等に優しいし。

うん。やっぱりリッチモンドさんが一番素敵な男性だね!

「じゃあ、子供達呼んで来ますね!」
「いや、わしが呼んで来よう。カナデは食事の準備を頼む」

と立ち上がったので、「なら小食堂に運んでおきますから、そっちに子供達と来て下さいね」と声を掛けておいた。

旦那様募集中だけど、リッチモンドさんがそばにいたら、もう結婚しなくてもいいやって思ってきちゃうや。

イケジジ恐るべし。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



リッチモンド視点


やはりカナデの傍が一番心地良いな。
ドラゴンの国よりも、亜人族や人族の街よりも、カナデの居るこの地がホッと出来る。

「何だ!? この柔らかく美味いパンは……っ こんな上手いもの、初めて食べた……っ」
「こんな高級そうなパン、私達が食べても良いのかしら……」
「こんなに良くしてもらえるなんて……っ」
「きっとあのドラゴン様や騎士様は、神様の使いなんじゃ……」

涙を流しながらカナデの“しょくパン”を食べている者達を見て、この世界の歪さが浮き彫りになった気がした。

一体いつから、人間もドラゴンも、おかしくなり始めたのだろうか……。


しおりを挟む
感想 96

あなたにおすすめの小説

聖女の私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。

重田いの
ファンタジー
聖女である私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。 あのお、私はともかくお父さんがいなくなるのは国としてマズイと思うのですが……。 よくある聖女追放ものです。

若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!

古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。 そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は? *カクヨム様で先行掲載しております

筆頭婚約者候補は「一抜け」を叫んでさっさと逃げ出した

基本二度寝
恋愛
王太子には婚約者候補が二十名ほどいた。 その中でも筆頭にいたのは、顔よし頭良し、すべての条件を持っていた公爵家の令嬢。 王太子を立てることも忘れない彼女に、ひとつだけ不満があった。

【完結】結婚して12年一度も会った事ありませんけど? それでも旦那様は全てが欲しいそうです

との
恋愛
結婚して12年目のシエナは白い結婚継続中。 白い結婚を理由に離婚したら、全てを失うシエナは漸く離婚に向けて動けるチャンスを見つけ・・  沈黙を続けていたルカが、 「新しく商会を作って、その先は?」 ーーーーーー 題名 少し改変しました

お前など家族ではない!と叩き出されましたが、家族になってくれという奇特な騎士に拾われました

蒼衣翼
恋愛
アイメリアは今年十五歳になる少女だ。 家族に虐げられて召使いのように働かされて育ったアイメリアは、ある日突然、父親であった存在に「お前など家族ではない!」と追い出されてしまう。 アイメリアは養子であり、家族とは血の繋がりはなかったのだ。 閉じ込められたまま外を知らずに育ったアイメリアは窮地に陥るが、救ってくれた騎士の身の回りの世話をする仕事を得る。 養父母と義姉が自らの企みによって窮地に陥り、落ちぶれていく一方で、アイメリアはその秘められた才能を開花させ、救い主の騎士と心を通わせ、自らの居場所を作っていくのだった。 ※小説家になろうさま・カクヨムさまにも掲載しています。

【完結】婚約者なんて眼中にありません

らんか
恋愛
 あー、気が抜ける。  婚約者とのお茶会なのにときめかない……  私は若いお子様には興味ないんだってば。  やだ、あの騎士団長様、素敵! 確か、お子さんはもう成人してるし、奥様が亡くなってからずっと、独り身だったような?    大人の哀愁が滲み出ているわぁ。  それに強くて守ってもらえそう。  男はやっぱり包容力よね!  私も守ってもらいたいわぁ!    これは、そんな事を考えているおじ様好きの婚約者と、その婚約者を何とか振り向かせたい王子が奮闘する物語…… 短めのお話です。 サクッと、読み終えてしまえます。

前世を思い出しました。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。

棚から現ナマ
恋愛
前世を思い出したフィオナは、今までの自分の所業に、恥ずかしすぎて身もだえてしまう。自分は痛い女だったのだ。いままでの黒歴史から目を背けたい。黒歴史を思い出したくない。黒歴史関係の人々と接触したくない。 これからは、まっとうに地味に生きていきたいの。 それなのに、王子様や公爵令嬢、王子の側近と今まで迷惑をかけてきた人たちが向こうからやって来る。何でぇ?ほっといて下さい。お願いします。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか? 「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」 「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」 マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

処理中です...