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第一章
26.領主発見
しおりを挟むリッチモンド視点
「リッチモンド様、この地の領主をどうされるおつもりですか?」
「無論、捕縛し罪を償ってもらうつもりだが?」
レオの質問に答えれば、レオは首を横に振る。
「領主を捕縛したとしても、奴は金で己の犯した罪を揉み消し、すぐに釈放されるでしょう。そもそも、捕縛した我々を犯罪者に仕立て上げるかもしれません」
「ふむ……。それでも、国には国のルールがある。わしらが個人的な理由で人を殺めてはならん」
「……」
レオは個人的な恨みがあるからな。どこか納得が出来ぬのかもしれん。だが、
「わしらの目的は何だ」
「はっ 我々の目的は、不遇な環境にいる者達の保護です」
「その通りだ。決して領主への復讐ではない」
「っ……そう、ですね」
俯いたレオの頭をぽんぽんと撫でる。
若い頃は頭に血がのぼりやすいものだ。
「リッチモンド様……。申し訳ありません。貴方様のお陰で冷静になれました」
「うむ。なに、地下にあれだけ拐って来た子供がいる上、それを目撃しておる者も沢山居るのだ。そんな杜撰な者ならば、証拠の書類でも残しているだろう。捕縛した時にその証拠ごと役所に届ければ良い」
「はい」
わしの話に少しは気が晴れたのか、レオはそれから、特に何を言うでもなく、領主を探し始めたのだ。
領主の居所は案外簡単に分かった。
何しろ、護衛が部屋の前に立っていたのでな。なるほどここか、と目印になったので助かった。
「ヒィィッ わ、分かった。何でもやろう! 金ならお前達にいくらでもやる! だから助けてくれ!!」
全く。このように腐った心根の人間など、本当は消してしまった方が良いが……、いや、この者はこの国が裁かねば意味はない。
だからレオよ、剣を下ろせ。
「わしらは金など必要はない。腐る程持っておるしな」
「な、なら奴隷をやろう! 何も知らぬ無垢な子供だ! なかなかの抱きごごち、ぶふぇぁっ!!!!」
いかん。つい顔に蹴りをいれてしまった。
生きておるか?
「た、たしゅけて……っ」
おお、なかなかしぶといな。
「奴隷は全てもらっていく。貴様は犯罪者として騎士団へと放り込んでやるから安心しろ。
ああ、そうだな。金は要らぬといったが、訂正しよう。貴様の金は、今までの奴隷の為に全て使ってやるのでな。金での解決は出来ぬと思えよ」
「しょ、しょんな……っ」
全裸の領主が蹴られた顔を手で覆って泣いているが、自業自得だ。
「レオ、そこの子供らに服を着せてやるのだ。わしはコレと外で転がる者共を縛り上げてくる」
「はっ 承知致しました」
レオはすぐに動き始め、わしも気色の悪い領主達を縛り上げるとそれらを庭へと移動させたのだ。
その際、この部屋の窓から飛び降りただけで領主は気絶してしまった。
おかしな男だ。
「リッチモンド様っ 子供達を連れて一階に下ります」
窓から顔を出し、そう叫ぶレオに頷き、私は地下へと移動する。
残ったこの邸の有象無象は、今のレオならば問題はなかろう。
こうして、領主に奴隷に落とされた者達を助け出し、一階に集めたのだが、人数が思っていたよりも多かった。
「……40人は居るな」
「そうですね。ですが、リッチモンド様でしたらこの数を一気に運ぶ事は可能ですよね」
「勿論可能ではあるが、この子らの親も連れて行くとなると、一度に運ぶ事は難しいな……」
空間魔法も、生き物は入れられぬしな。
「では、先に子供達だけでもカナデ様の所へ連れて行きますか?」
「いや、それだとこの子らの不安が増してしまう……お、そうだ!! 前にカナデに教えてもらった魔法を使うとしよう!!」
丁度良い魔法があった!!
「レオ、今すぐ子供らの親をスラムから……いや、スラムにいる連中をここに集めるのだ」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
カナデ視点
こんがり狐色に焼けた、出来たてホカホカの食パンは皆に大好評だった。
「ミミリィ、こんなに柔らかいパン初めてぇ!!」
「僕、イヴリンさんのバゲットも好きですし、この柔らかいパンも好きです」
「どっちも、美味しい」
「まぁ、ありがとうございます! ルイ様、アーサー様」
「イヴリンの焼くパンは絶品だからな!」
「どちらも違いがあって美味しいですね」
「私もイヴリンさんのパン大好きです!」
等と会話をしながら、パンを主食にビーフシチューやアスパラとトマトのチーズ焼き、アボカドエッグ等を食べる。オレンジの入ったサラダも絶品だ。
はぁ。全部美味しい!
「カナデ様、あの“ほーむべーかり”というものは素晴らしいですね! 材料を入れるだけでこんなに美味しいパンが出来るだなんて!!」
「ですよね! 他にも、ナッツやレーズンを入れたりも出来るんです!!」
「まぁっ そうだわ! カナデ様、“ほーむべーかり”は村の家にも現れて居るのですよね?」
「はい。基本的には連動しているみたいなので、あると思いますが?」
「でしたら、新たに来る人達の為に、パンを焼いておきませんか?」
イヴリンさんからの提案に、それは良い考えだと大賛成した。
この後、子供達がホームベーカリーに材料を入れる事が楽しくなってしまい、村中のホームベーカリーでパンを焼いてしまったものだから、大量のパンが出来上がってしまって頭を悩ますはめになるのだが、この事が後々とても良い方に転がって行く事を、私はまだ知らなかったのだ。
「この大量のパン、どうしようか…………」
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