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第一章
25.ホームベーカリーと理想の旦那様
しおりを挟むリッチモンド視点
「何事だ!?」
予想通り、男が壁にぶつかった音を聞きつけ、この地下牢の番をしていた者達が慌てて集まりだした。
「レオ、そこの子供を連れて下がれ」
「っはい!」
何が何やら分かっていない幼子を抱え、わしの後ろへ下がるレオに頷き前を見据える。
バタバタと喧しい足音をさせてやって来たのは、3人だった。
「ふむ、3人か。少ないな」
「!!!? な、何者だ!!」
剣や斧を持った男達は、わしの姿を見て一瞬動きを止めたが、すぐに武器を構え直し威嚇してくる。
「殺す気はないが、うまく手加減出来るかわからんからな……。まぁ、出来るだけ死んでくれるなよ」
すぅっと息を吸い込み、男達をひと睨みする───
“ドラゴンの威嚇”
刹那、男達が泡を吹いて倒れたのだ。
「……リッチモンド様、今、何をされたのですか?」
一瞬の事に何が起こったのか分からなかったとレオが聞いてくるので、“威嚇”しただけだと言えば、なるほどと納得したようだ。
「そんな事よりも、領主を捕縛しに行くぞ」
「え? ここに居る子供達は放っておくのですか!?」
「いや、先に解放しても満足に動けぬ子らを連れて領主を探す事は出来ん。それに、何があるか分からんのでな。ここに居てもらった方が安全だろう」
と、その前に転がっている奴らを動けぬよう縛っておくか。
「分かりました。この子は……」
置いて行かれると思ったのだろう。レオの腰に抱きついて離れようとしない幼子の頭を撫でる。
「動けるようだからな。連れて行ってもよかろう」
こうして、わしらは領主を探しに地下牢から出たのだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
カナデ視点
「ああっ ついにホームベーカリーが出たぁ!!!」
レベルアップの影響で出てきたホームベーカリーに、やったぁ! と飛び跳ねていたら、イヴリンさんの生温い視線を感じたので、途端に恥ずかしくなり、土に埋まりたくなった。
だってこれで食パンが簡単に作れるようになったんだもん!! 喜んでしまうのは仕方ないでしょ。
「カナデ様、そちらはどう使う物なのですか?」
大人なイヴリンさんは、私の行動を見なかったフリをしてくれて、ニコニコと聞いてくる。
「これはね、パンを焼く機械なんです!」
「パンを……ですか?」
イヴリンさんがチラリとオーブンを見る。
彼女はバゲット作りがとても上手いので、よく作ってもらっているのだが、多分今の視線は、オーブンがあるのにその箱で焼くの? という疑問の視線に違いない。
「あー、いつもイヴリンさんに作ってもらってるパンじゃなくて、食パンを簡単に作れる機械で……」
「はぁ……あの、しょくパンとはどのようなパンなのでしょうか??」
そっか。柔らかいパンって食べた事ないよね。
「せっかくだから、このホームベーカリーで食パン作ってみましょう!」
先ずはホームベーカリーに、牛乳、塩、強力粉、グラニュー糖を入れて、山になった粉のてっぺんを掘って、その中にドライイーストを入れる。
角にバターを置いて、スイッチを入れると後は放置すれば勝手に出来るんだよね!
「?? カナデ様、パンを作っていたのですよね?」
「そうです。この機械は、材料入れてスイッチ押したら、後は勝手に作ってくれるすごいヤツなんですよ!」
「!? まさか、この箱の中には妖精が召喚されて、パンを作るのですか!?」
なんですか、そのメルヘン。
「イヴリンさんって可愛いですよね」
「ふぇ!?」
ほら、その反応も可愛いし。
「だからローガンさんはイヴリンさんに夢中なんですねぇ」
「へ、えぇ!?」
真っ赤になるイヴリンさんが可愛すぎる。
「私もローガンさんみたいに、ずっと一途に想ってくれる人を旦那さんにしたいです。それで、イヴリンさんとローガンさんみたいな夫婦になりたい!」
前世と今世あわせても、そんな人に出会った事ないけどさ。
「まぁ。カナデ様は森から出た事は無いのでしたっけ?」
「一度だけ、人族の街に行った事があるけど、そこら中で怒声が聞こえて怖かったから、ずっとリッチモンドさんの影に隠れてたんです」
「そうですか。カナデ様のように純粋な女神様にとっては、人間は恐ろしく映るかもしれませんね。そもそも、人間では釣り合わないですし」
え、イヴリンさん、私も人間なんですけど……。
「それに、私がカナデ様を人間の男に渡したくありません。だって、この村にいる人間以外皆クソですよ」
あれ? 私の耳がおかしくなったのかな?
「そ、そうかな? 中にはレオさんみたいに良い人もいるかも……」
「私が見てきた人間は、いざとなったら他人を切り捨てる奴等ばかりでした」
うん。それでここに来たんだもんね。
そうだよ。イヴリンさん実は人間不信だったーーー!!!
「ですから、レオさんやリッチモンド様の連れて来られた方であっても、カナデ様に下心を持って近付こうとする者は私がしばきあげます。お任せくださいっ」
しば……!? 待ってぇ!? それだと私、結婚出来ないんですけど!?
「ですがカナデ様。カナデ様の理想の旦那様は、案外身近に居るかもしれませんよ」
「…………へ?」
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