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第一章
23.一日一回の約束
しおりを挟むリッチモンドさんとレオさんが街に行った後も、いつものように邸や村に変わりはないか、冷蔵庫の中には何が出てきているかなどを確認しながら散歩をしていると、イヴリンさんが村の空き家で何やら忙しくしているのを発見した。
「イヴリンさん? 何してるんですか?」
開いた玄関から中を除けば、服や下着、タオルなどの生活用品を集めている所だった。
「カナデ様。これは、リッチモンド様とレオさんが子供達を連れ帰った時、すぐ着替えられるように準備しているのですよ」
「成る程! 確かに必要かもっ さすがイヴリンさん! 気が利きますね!」
「ありがとうございます。夫も他の空き家の衣類品等を手に取りやすい場所にセットしているのですよ。お風呂も沸かしてますし、スポーツドリンクやコップ類も用意しております」
「ローガンさんもすごい。皆考えてるんですね。あ、私も料理を作っておこうかな! 」
イヴリンさん達が動いているのに、私だけ働かないわけにはいかないだろう。
「さすがカナデ様ですね! 助かります」
「ありがとう。でも、さすがなのはイヴリンさん達ですよ!」
「まぁ。カナデ様ったら。フフッ ありがとうございます」
イヴリンさんはよく私達褒めてくれる。
というか、ここに住む人皆、それぞれの良いところを見つけるのがとても上手で、それを素直に口にしてくれるのだ。
何故ならそれは、私がここに住むにあたって皆に出した条件だったからだ。
皆は最初に来たとき、自分に自信のない、遠慮ばかりする性格だった。
「私なんかが」とか、「畏れ多い」とか、そんな言葉ばかり使っていて、それはアーサーやルイも同じだった。
不用品のように森に捨てられたのだ。自信を失うのは無理もない事だろう。
だから私は皆に、一日一回は誰かの良い所を褒めて、褒められた人はそれを素直に受け止めること。絶対に自分を乏しめないことを約束してもらった。
自分を肯定してくれる存在が周りに居るというのは、自信に繋がるから。
だから私も、皆のどんな所が素敵なのか、口に出すようにしている。
辛い経験は、幸せな気持ちで塗り替えてもらいたいと思っている。
「私はさ、皆のお陰で今、とっても幸せな毎日が送れているから、ここに来た人達にも楽しく過ごして欲しいんだぁ」
「はい。私も、ここに来てカナデ様や皆と過ごせて、毎日が楽しくて幸せです」
イヴリンさんは「私達を家族だと言って下さり、ここへ迎えて下さって、本当にありがとうございます」と言って幸せそうに笑った。
私は何だか心がムズムズするような、ぽかぽかするような、そんな複雑で照れくさい気持ちに、何とも言えなくなって、へへっと笑って誤魔化したのだ。
邸へ戻り、大きめの鍋を引っ張りだしてきて、野菜たっぷりポトフを作る事にした。
スポーツドリンクを飲めば、どんなに衰弱していても元気になる事はもう分かったから、固形物も食べられるだろうと思っての事だ。
「とはいえ、気分的にガッツリ肉ってわけにはいかないだろうから、先ずはスープ系だよね」
豚汁と迷ったけど、未知の食事よりは、受け入れやすい方が良いだろうし。
「後は何にしようかなぁ……」
「カナデお母さん、何か作るんですか?」
いつの間にキッチンに来ていたのか、ルイが入口でぴょこっと顔を出してこちらを見ていた。
「ルイ、勉強は終わったの?」
「はい! 今日はテストの日だったんです。だから、終わり次第自由行動なんですよ!」
ルイはどうやらテストをあっという間に終えて、キッチンを覗きに来たようだ。
「ルイはテストが得意なんだね!」
「ぁ、はい。覚える事は得意ですから、テストは今迄習った事の復習ですし、覚えた事を書き出すだけなので」
「記憶力が良いって、とってもすごい能力だよっ だから、存分に誇っていいよ!」
よしよしと頭を撫で、照れるルイを見て可愛いなぁと癒やされる。
ルイは頭が良い子だから、将来学者さんになるのかなぁとぼんやり思っていたが、どうやら違うようだ。
最近気付いたのだけど、料理に興味があるみたいで、料理人になりたいのかもしれない。
「これからポトフを作ろうと思うのだけど、ルイも一緒に作ってみる?」
「はい!」
嬉しそうに手を洗うルイに、料理人になるなら、素人の私だと役に立たないなぁと若干残念に思いつつ、ポトフの作り方を教えてあげたのだ。
暫くして、アーサーやミミリィちゃんもやって来て、キッチンはより賑やかになった。
その時は、リッチモンドさん達の苦労を知らず、私達は楽しく料理を作っていたのだ。
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