23 / 53
第一章
23.一日一回の約束
しおりを挟むリッチモンドさんとレオさんが街に行った後も、いつものように邸や村に変わりはないか、冷蔵庫の中には何が出てきているかなどを確認しながら散歩をしていると、イヴリンさんが村の空き家で何やら忙しくしているのを発見した。
「イヴリンさん? 何してるんですか?」
開いた玄関から中を除けば、服や下着、タオルなどの生活用品を集めている所だった。
「カナデ様。これは、リッチモンド様とレオさんが子供達を連れ帰った時、すぐ着替えられるように準備しているのですよ」
「成る程! 確かに必要かもっ さすがイヴリンさん! 気が利きますね!」
「ありがとうございます。夫も他の空き家の衣類品等を手に取りやすい場所にセットしているのですよ。お風呂も沸かしてますし、スポーツドリンクやコップ類も用意しております」
「ローガンさんもすごい。皆考えてるんですね。あ、私も料理を作っておこうかな! 」
イヴリンさん達が動いているのに、私だけ働かないわけにはいかないだろう。
「さすがカナデ様ですね! 助かります」
「ありがとう。でも、さすがなのはイヴリンさん達ですよ!」
「まぁ。カナデ様ったら。フフッ ありがとうございます」
イヴリンさんはよく私達褒めてくれる。
というか、ここに住む人皆、それぞれの良いところを見つけるのがとても上手で、それを素直に口にしてくれるのだ。
何故ならそれは、私がここに住むにあたって皆に出した条件だったからだ。
皆は最初に来たとき、自分に自信のない、遠慮ばかりする性格だった。
「私なんかが」とか、「畏れ多い」とか、そんな言葉ばかり使っていて、それはアーサーやルイも同じだった。
不用品のように森に捨てられたのだ。自信を失うのは無理もない事だろう。
だから私は皆に、一日一回は誰かの良い所を褒めて、褒められた人はそれを素直に受け止めること。絶対に自分を乏しめないことを約束してもらった。
自分を肯定してくれる存在が周りに居るというのは、自信に繋がるから。
だから私も、皆のどんな所が素敵なのか、口に出すようにしている。
辛い経験は、幸せな気持ちで塗り替えてもらいたいと思っている。
「私はさ、皆のお陰で今、とっても幸せな毎日が送れているから、ここに来た人達にも楽しく過ごして欲しいんだぁ」
「はい。私も、ここに来てカナデ様や皆と過ごせて、毎日が楽しくて幸せです」
イヴリンさんは「私達を家族だと言って下さり、ここへ迎えて下さって、本当にありがとうございます」と言って幸せそうに笑った。
私は何だか心がムズムズするような、ぽかぽかするような、そんな複雑で照れくさい気持ちに、何とも言えなくなって、へへっと笑って誤魔化したのだ。
邸へ戻り、大きめの鍋を引っ張りだしてきて、野菜たっぷりポトフを作る事にした。
スポーツドリンクを飲めば、どんなに衰弱していても元気になる事はもう分かったから、固形物も食べられるだろうと思っての事だ。
「とはいえ、気分的にガッツリ肉ってわけにはいかないだろうから、先ずはスープ系だよね」
豚汁と迷ったけど、未知の食事よりは、受け入れやすい方が良いだろうし。
「後は何にしようかなぁ……」
「カナデお母さん、何か作るんですか?」
いつの間にキッチンに来ていたのか、ルイが入口でぴょこっと顔を出してこちらを見ていた。
「ルイ、勉強は終わったの?」
「はい! 今日はテストの日だったんです。だから、終わり次第自由行動なんですよ!」
ルイはどうやらテストをあっという間に終えて、キッチンを覗きに来たようだ。
「ルイはテストが得意なんだね!」
「ぁ、はい。覚える事は得意ですから、テストは今迄習った事の復習ですし、覚えた事を書き出すだけなので」
「記憶力が良いって、とってもすごい能力だよっ だから、存分に誇っていいよ!」
よしよしと頭を撫で、照れるルイを見て可愛いなぁと癒やされる。
ルイは頭が良い子だから、将来学者さんになるのかなぁとぼんやり思っていたが、どうやら違うようだ。
最近気付いたのだけど、料理に興味があるみたいで、料理人になりたいのかもしれない。
「これからポトフを作ろうと思うのだけど、ルイも一緒に作ってみる?」
「はい!」
嬉しそうに手を洗うルイに、料理人になるなら、素人の私だと役に立たないなぁと若干残念に思いつつ、ポトフの作り方を教えてあげたのだ。
暫くして、アーサーやミミリィちゃんもやって来て、キッチンはより賑やかになった。
その時は、リッチモンドさん達の苦労を知らず、私達は楽しく料理を作っていたのだ。
290
お気に入りに追加
3,529
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
聖女の私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。
重田いの
ファンタジー
聖女である私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。
あのお、私はともかくお父さんがいなくなるのは国としてマズイと思うのですが……。
よくある聖女追放ものです。
若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!
古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。
そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は?
*カクヨム様で先行掲載しております
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】結婚して12年一度も会った事ありませんけど? それでも旦那様は全てが欲しいそうです
との
恋愛
結婚して12年目のシエナは白い結婚継続中。
白い結婚を理由に離婚したら、全てを失うシエナは漸く離婚に向けて動けるチャンスを見つけ・・
沈黙を続けていたルカが、
「新しく商会を作って、その先は?」
ーーーーーー
題名 少し改変しました
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
妹を溺愛したい旦那様は婚約者の私に出ていってほしそうなので、本当に出ていってあげます
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族令嬢であったアリアに幸せにすると声をかけ、婚約関係を結んだグレゴリー第一王子。しかしその後、グレゴリーはアリアの妹との関係を深めていく…。ある日、彼はアリアに出ていってほしいと独り言をつぶやいてしまう。それを耳にしたアリアは、その言葉の通りに家出することを決意するのだった…。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
夫の隠し子を見付けたので、溺愛してみた。
辺野夏子
恋愛
セファイア王国王女アリエノールは八歳の時、王命を受けエメレット伯爵家に嫁いだ。それから十年、ずっと仮面夫婦のままだ。アリエノールは先天性の病のため、残りの寿命はあとわずか。日々を穏やかに過ごしているけれど、このままでは生きた証がないまま短い命を散らしてしまう。そんなある日、アリエノールの元に一人の子供が現れた。夫であるカシウスに生き写しな見た目の子供は「この家の子供になりにきた」と宣言する。これは夫の隠し子に間違いないと、アリエノールは継母としてその子を育てることにするのだが……堅物で不器用な夫と、余命わずかで卑屈になっていた妻がお互いの真実に気が付くまでの話。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。
くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」
「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」
いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。
「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と……
私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。
「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」
「はい、お父様、お母様」
「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」
「……はい」
「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」
「はい、わかりました」
パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、
兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。
誰も私の言葉を聞いてくれない。
誰も私を見てくれない。
そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。
ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。
「……なんか、馬鹿みたいだわ!」
もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる!
ふるゆわ設定です。
※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい!
※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ!
追加文
番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。
愛されない皇妃~最強の母になります!~
椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』
やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。
夫も子どもも――そして、皇妃の地位。
最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。
けれど、そこからが問題だ。
皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。
そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど……
皇帝一家を倒した大魔女。
大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!?
※表紙は作成者様からお借りしてます。
※他サイト様に掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる