21 / 53
第一章
21.魚を獲ろう
しおりを挟む「カナデお母さん、これってどうやって獲るんですか?」
「池に入って、獲る?」
草むしりが終わり池を覗き込む子供達に、私もどうするかと考える。
「そういえば、虫取り網にしては大きな網が出てきたから、物置に入れておいたんだけど。あれって魚を獲る網なんじゃ……っ」
何に使うんだというような物が現れたら、一旦物置に放り込んでいるのだが、成る程。そういう事だったのかと一人納得する。
「二人とも、ミミリィちゃんと皆で魚獲ろっか!」
「「はい(うん)っ」」
双子にはミミリィちゃんを呼びに行ってもらい、私は物置へ網を取りに行く。
この物置の中には、赤ちゃん用オムツとか、ベビー用品も入ってるんだよね……。
今世こそは、これを使用する事があるといいんだけど、今のところその兆しはないよなぁ。
「お、あった! 魚用の網っ」
さて、鮭を穫って焼き鮭にするぞ!!
「あっ カナデお姉ちゃん!!」
「ミミリィちゃん」
「お魚穫るって本当!?」
池に向かっている途中ばったり出くわしたミミリィちゃんに、本当だと頷けば、ミミリィちゃんは完全にリッチモンドさんの獲ってくる巨大魚の事だと思っているようで、
「カナデお姉ちゃん、あんな大きなお魚穫るんだぁ! すごーい!!」
と目を輝かせていた。
違うからね!?
私があんな巨大魚に出会ったら、その瞬間死んでるよ。
「ミミリィちゃん、あんな巨大魚村の外にしかいないんだよ。今日穫るのは、裏の畑の奥に出来た、池にいる魚なの」
「池? 池があるの?」
「そうだよ。今日出来たの」
「すごーい!!」
このひと月で慣れたのか、ミミリィちゃんもそう簡単には驚かなくなってきた。
やっぱり子供は順応力が高いなぁ。
「───……でね、ルイとアーサーってば、呼びに来たと思ったらすぐ駆けて行っちゃうんだよ。女の子置いて行くなんて酷いよね!」
裏の畑に向かっている最中、ルイ達の行動に唇を尖らせているミミリィちゃんは、お父さん似の垂れた犬耳が可愛すぎて、怒っていてもまったく迫力がない。
「あ、もしかしたらヒューゴさんの所に行ったのかもよ」
「先生の所に?」
「魚を穫るから、ヒューゴさんにも見せたいんじゃないかなぁ。ほら、ヒューゴさんも色んな事に興味津々だし」
「そっか~! だからあんなに急いでたんだぁ。ミミリィ何も知らずに怒っちゃった……二人に謝らなきゃっ」
ミミリィちゃん良い子だねぇ。犬耳もぷるぷるして可愛いし。
「ミミリィちゃんはそのまま素直に育ってね」
「??」
そんな話をしながら池に戻ってくれば、やはり双子はヒューゴさんと一緒に待っていた。
「ルイ、アーサー、ヒューゴ先生っ」
ミミリィちゃんが3人に駆けていき、ルイとアーサーにさっき自分が怒っていた事を謝っている。
双子はミミリィちゃんが怒っていた事すら知らなかったので、自分たちこそごめんと謝り合っていてほっこりとした。
「はい。謝罪合戦はそこまで! さぁ皆、魚を穫るの手伝ってね」
「「「はーい!」」」
良いお返事です。
「女神さ……カナデ様、これが今日現れた池ですか」
「そうです。本来は川にいる魚が泳いでるみたいなんですよね」
「なるほど。とても透明度の高い池ですね……ふむ。もしかしたら地下から水が湧いているのでしょうか」
「確かに、綺麗な水ですもんね」
ヒューゴさんが池に顔を近付けまじまじと観察している。その横で、私は持ってきた網を子供達に見せ、これで魚を掬うんだよと説明する。
まずは私がやってみるね! と網を手に池を覗き込んだ。
これだけ魚がいるんだから、一匹ぐらいは穫れるはず!
「せいっ」
結構大きくて重い網だから、気合いを入れて網の先をドボンッと水の中に突っ込む。
当たり前だが、その瞬間魚が散り散りに逃げていった。
「あ……」
「魚、いなくなった」
「逃げちゃったねぇ」
「カナデお母さん、えっと……あの、そ、そんな事もありますよね」
ルイ、慰める言葉が見つからないなら何も言わなくていいからね。
「今度は、オレ、やる」
アーサーがそう言って私から網を取り上げ、自分の情けなさに肩を落とす。
私には、魔法の才能なしだけでなく、魚を穫る才能もないみたいだ。
アーサーはというと、重い網を軽々操り、先ずは鮎を掬ってみせた。
「アーサーすごいね!」
ミミリィちゃんが拍手をし、ルイは「次は僕にやらせて下さい」とワクワクしているような顔で手を差し出していた。網を渡せという事だろう。
「カナデお母さん、これ、なんて名前?」
ルイに網を渡したアーサーは、ビチビチと尾びれを動かしている鮎を手掴みで持って来ると私に見せてくれた。
「この魚は鮎っていうの。そのまま串に刺して、焼いて食べると美味しいんだよ。あ、その鮎はこのバケツに入れてね」
さっき池の水をすこし掬っておいたバケツを、アーサーの前に出すと、頷いて鮎を離す。
アーサーの手から抜け出した鮎はチャプンと音をたててバケツの中にダイブした。
「アーサーすぐに穫れたね。上手だったよ!」
「カナデお母さん、下手なだけ」
「う゛……そうだよね」
「大丈夫。オレ、カナデお母さんの分も、穫る」
アーサー、なんて頼もしい!
この日は結局、鮎が5匹と鮭が2匹という子供達に感謝の大収穫であった。
323
お気に入りに追加
3,530
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
聖女の私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。
重田いの
ファンタジー
聖女である私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。
あのお、私はともかくお父さんがいなくなるのは国としてマズイと思うのですが……。
よくある聖女追放ものです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】結婚して12年一度も会った事ありませんけど? それでも旦那様は全てが欲しいそうです
との
恋愛
結婚して12年目のシエナは白い結婚継続中。
白い結婚を理由に離婚したら、全てを失うシエナは漸く離婚に向けて動けるチャンスを見つけ・・
沈黙を続けていたルカが、
「新しく商会を作って、その先は?」
ーーーーーー
題名 少し改変しました
若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!
古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。
そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は?
*カクヨム様で先行掲載しております
お前など家族ではない!と叩き出されましたが、家族になってくれという奇特な騎士に拾われました
蒼衣翼
恋愛
アイメリアは今年十五歳になる少女だ。
家族に虐げられて召使いのように働かされて育ったアイメリアは、ある日突然、父親であった存在に「お前など家族ではない!」と追い出されてしまう。
アイメリアは養子であり、家族とは血の繋がりはなかったのだ。
閉じ込められたまま外を知らずに育ったアイメリアは窮地に陥るが、救ってくれた騎士の身の回りの世話をする仕事を得る。
養父母と義姉が自らの企みによって窮地に陥り、落ちぶれていく一方で、アイメリアはその秘められた才能を開花させ、救い主の騎士と心を通わせ、自らの居場所を作っていくのだった。
※小説家になろうさま・カクヨムさまにも掲載しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】初恋の人も婚約者も妹に奪われました
紫崎 藍華
恋愛
ジュリアナは婚約者のマーキースから妹のマリアンことが好きだと打ち明けられた。
幼い頃、初恋の相手を妹に奪われ、そして今、婚約者まで奪われたのだ。
ジュリアナはマーキースからの婚約破棄を受け入れた。
奪うほうも奪われるほうも幸せになれるはずがないと考えれば未練なんてあるはずもなかった。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
前世を思い出しました。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。
棚から現ナマ
恋愛
前世を思い出したフィオナは、今までの自分の所業に、恥ずかしすぎて身もだえてしまう。自分は痛い女だったのだ。いままでの黒歴史から目を背けたい。黒歴史を思い出したくない。黒歴史関係の人々と接触したくない。
これからは、まっとうに地味に生きていきたいの。
それなのに、王子様や公爵令嬢、王子の側近と今まで迷惑をかけてきた人たちが向こうからやって来る。何でぇ?ほっといて下さい。お願いします。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】婚約者は私を大切にしてくれるけれど、好きでは無かったみたい。
まりぃべる
恋愛
伯爵家の娘、クラーラ。彼女の婚約者は、いつも優しくエスコートしてくれる。そして蕩けるような甘い言葉をくれる。
少しだけ疑問に思う部分もあるけれど、彼が不器用なだけなのだと思っていた。
そんな甘い言葉に騙されて、きっと幸せな結婚生活が送れると思ったのに、それは偽りだった……。
そんな人と結婚生活を送りたくないと両親に相談すると、それに向けて動いてくれる。
人生を変える人にも出会い、学院生活を送りながら新しい一歩を踏み出していくお話。
☆※感想頂いたからからのご指摘により、この一文を追加します。
王道(?)の、世間にありふれたお話とは多分一味違います。
王道のお話がいい方は、引っ掛かるご様子ですので、申し訳ありませんが引き返して下さいませ。
☆現実にも似たような名前、言い回し、言葉、表現などがあると思いますが、作者の世界観の為、現実世界とは少し異なります。
作者の、緩い世界観だと思って頂けると幸いです。
☆以前投稿した作品の中に出てくる子がチラッと出てきます。分かる人は少ないと思いますが、万が一分かって下さった方がいましたら嬉しいです。(全く物語には響きませんので、読んでいなくても全く問題ありません。)
☆完結してますので、随時更新していきます。番外編も含めて全35話です。
★感想いただきまして、さすがにちょっと可哀想かなと最後の35話、文を少し付けたしました。私めの表現の力不足でした…それでも読んで下さいまして嬉しいです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる