11 / 53
第一章
11.優しいお姉さん
しおりを挟むカナデ視点
「慌てなくて大丈夫だよ。まだ沢山あるから」
美味しい、美味しいと慌てて食べている子供達にゆっくり食べるよう言うが、空腹だったのだろう。途中で咳き込みながらもあっという間に食べきってしまった。
二人は、空になった器を悲しそうに見つめるので、リッチモンドさんが初めてウチに来た時を思い出し、噴き出しそうになった。
「おかわりあるけど、まだ食べられそう?」
「「おねがいします!」」
さすが双子だけあり、声が揃っている。
おかしくなって笑いながら二人の器を回収し、「すぐにおかわりを持ってくるから待っててね」と伝え、二人の部屋を出て、階段を降りキッチンへと向かう。
家が広くなったので、キッチンまでの距離が遠い。
リッチモンドさんは元々お城に住んでたから、何とも思ってないどころか、小さい邸だと思ってるみたいだけどね。
キッチンへ入ると、リッチモンドさんがソワソワしながらコンロの上にある、鉄鍋に入ったすき焼きを見ていた。
夕飯にはまだ早い時間だから、食卓に出していなかったんだけど……この様子だと、もうご飯にしたほうがいいかな。
「リッチモンドさん」
「おっ カナデ。ぁ、いや、わしはつまみ食いなどしてないぞ!?」
あー……つまみ食い、しようとしたんだね。
「子供達におかわりを持っていったら、すぐ夕飯にするから、もう少しだけ待っててね」
「おおっ 分かった。わしは待てるぞ!」
食いしん坊のおじいちゃん竜は、ご機嫌に食堂へと向かって行った。
私はおかわりの重湯を器に注ぎ、また子供達の所へ戻ったのだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ルイ視点
ぼくたちは産まれた時から皆に嫌われていた。
双子は“忌み子”だから、王族の恥になるんだって言われて、ずっとアーサーと二人、塔の中にある部屋に閉じ込められていたんだ。
鍵のかかった扉の外にはいつも見張りがいて、部屋の外に出る事もできなかった。
偶に、大人が入ってきて、鬱憤を晴らすかのようにぼくたちを殴ったり蹴ったり、鞭で叩いたりした。
そんな地獄のような中でも、ぼくたちの唯一の楽しみは本を読むことだった。
部屋の中には色んな本が沢山あったから、ぼくたちはいつの間にか文字が読めるようになっていたし、外の見張り達の会話を聞いて、言葉を話せるようになっていた。
見張り達は、ぼくたちがこの“十年”生きてこれたのは、次がなかなか生まれなかったからだって話してた。
だけどある日を堺に、今まであった僅かな食べ物の差し入れも貰えなくなった。
壁から滲み出す雨水を二人で舐めてしのいでいた日々。空腹なのにお腹が膨らんでくる恐怖、そして、動く事もままならなくなった日、部屋の扉が開けられて、鎧を着た数人の大人がぼくたちを荷物のように運び出し、何かに乗せて、それが動き出したと思ったら……森の中に捨てられていた。
アーサーよりも体の小さかったぼくは、体力も底を尽きていた為に、捨てられた時にはもう意識を失っていた。
そして気付いたら、この綺麗な部屋のふかふかなベッドに寝かされていたんだ。
見たこともない豪華な部屋に戸惑っていた時、お姉さんが入って来た。
お姉さんは優しい声で話しかけてきて、アーサーが隣に寝かされている事を教えてくれた。
アーサーが生きてた事にほっとして泣いてたら、柔らかい綺麗な布で涙を拭いてくれて、そんな綺麗な布をぼくなんかに使うのはもったいないって言おうとしたら、“だっすいしょーじょー”になるからって、白く濁った飲み物をくれたんだ。
汚水、だろうか……。でも、喉が乾いているし、例えどんな水でもありがたい。
そう思って飲んだら、
何これ……すっごく甘い。おいしいっ!!
夢中で飲んでいて、気付いたらコップの中は空だった。
無くなってしまって、少し残念な気持ちだったけど、だるかった体が軽くなって、傷も無くなってる事に気付き、血の気が引いた。
お姉さんがくれた飲み物は、本に書いてあった“ポーション”なんだ!
“ポーション”は、めったに手に入れる事の出来ない幻の薬で、どんなに大金を積んでも買えないって書いてあった。そんな貴重なものを、ぼくは飲んでしまったんだ……。
するとお姉さんが、傷はお姉さんの家族が治癒魔法で治したと言い出した。
ますます血の気が引く。
治癒魔法なんて、使える人族はいないって本に書いてあった。亜人だって、そんな事が出来るのはドラゴンだけだって……。
きっとお姉さんはとても尊い身分の方なんだ……っ
そんな方に助けていただき、さらに“ポーション”までいただいたと理解し、どうお返しをしたら良いかも分からなくなった。
だから、お金を持っていないんだと謝ったんだ。
けど、姉さんはお金なんていらないから、元気になれって、優しい言葉をかけてくれた。
今までそんな優しい事を言ってくれる人なんていなかったから、また涙が出そうになったけど、“だっすいしょーじょー”っていうのになって、またポーションが出てきたら怖いから、ぐっと我慢した。
その後、アーサーの目が覚めてから貰った食事で、ぼくたちは衝撃を受けるのだけど、それ以上の衝撃がまだぼくたちを待っているなんて、想像も出来なかったんだ。
348
お気に入りに追加
3,530
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
聖女の私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。
重田いの
ファンタジー
聖女である私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。
あのお、私はともかくお父さんがいなくなるのは国としてマズイと思うのですが……。
よくある聖女追放ものです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】結婚して12年一度も会った事ありませんけど? それでも旦那様は全てが欲しいそうです
との
恋愛
結婚して12年目のシエナは白い結婚継続中。
白い結婚を理由に離婚したら、全てを失うシエナは漸く離婚に向けて動けるチャンスを見つけ・・
沈黙を続けていたルカが、
「新しく商会を作って、その先は?」
ーーーーーー
題名 少し改変しました
お前など家族ではない!と叩き出されましたが、家族になってくれという奇特な騎士に拾われました
蒼衣翼
恋愛
アイメリアは今年十五歳になる少女だ。
家族に虐げられて召使いのように働かされて育ったアイメリアは、ある日突然、父親であった存在に「お前など家族ではない!」と追い出されてしまう。
アイメリアは養子であり、家族とは血の繋がりはなかったのだ。
閉じ込められたまま外を知らずに育ったアイメリアは窮地に陥るが、救ってくれた騎士の身の回りの世話をする仕事を得る。
養父母と義姉が自らの企みによって窮地に陥り、落ちぶれていく一方で、アイメリアはその秘められた才能を開花させ、救い主の騎士と心を通わせ、自らの居場所を作っていくのだった。
※小説家になろうさま・カクヨムさまにも掲載しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
過保護の王は息子の運命を見誤る
基本二度寝
恋愛
王は自身によく似ている息子を今日も微笑ましく見ていた。
妃は子を甘やかせるなときびしく接する。
まだ六つなのに。
王は親に愛された記憶はない。
その反動なのか、我が子には愛情を注ぎたい。
息子の為になる婚約者を選ぶ。
有力なのは公爵家の同じ年の令嬢。
後ろ盾にもなれ、息子の地盤を固めるにも良い。
しかし…
王は己の妃を思う。
両親の意向のまま結ばれた妃を妻に持った己は、幸せなのだろうか。
王は未来視で有名な卜者を呼び、息子の未来を見てもらうことにした。
※一旦完結とします。蛇足はまた後日。
消えた未来の王太子と卜者と公爵あたりかな?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
筆頭婚約者候補は「一抜け」を叫んでさっさと逃げ出した
基本二度寝
恋愛
王太子には婚約者候補が二十名ほどいた。
その中でも筆頭にいたのは、顔よし頭良し、すべての条件を持っていた公爵家の令嬢。
王太子を立てることも忘れない彼女に、ひとつだけ不満があった。
若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!
古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。
そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は?
*カクヨム様で先行掲載しております
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】婚約者は私を大切にしてくれるけれど、好きでは無かったみたい。
まりぃべる
恋愛
伯爵家の娘、クラーラ。彼女の婚約者は、いつも優しくエスコートしてくれる。そして蕩けるような甘い言葉をくれる。
少しだけ疑問に思う部分もあるけれど、彼が不器用なだけなのだと思っていた。
そんな甘い言葉に騙されて、きっと幸せな結婚生活が送れると思ったのに、それは偽りだった……。
そんな人と結婚生活を送りたくないと両親に相談すると、それに向けて動いてくれる。
人生を変える人にも出会い、学院生活を送りながら新しい一歩を踏み出していくお話。
☆※感想頂いたからからのご指摘により、この一文を追加します。
王道(?)の、世間にありふれたお話とは多分一味違います。
王道のお話がいい方は、引っ掛かるご様子ですので、申し訳ありませんが引き返して下さいませ。
☆現実にも似たような名前、言い回し、言葉、表現などがあると思いますが、作者の世界観の為、現実世界とは少し異なります。
作者の、緩い世界観だと思って頂けると幸いです。
☆以前投稿した作品の中に出てくる子がチラッと出てきます。分かる人は少ないと思いますが、万が一分かって下さった方がいましたら嬉しいです。(全く物語には響きませんので、読んでいなくても全く問題ありません。)
☆完結してますので、随時更新していきます。番外編も含めて全35話です。
★感想いただきまして、さすがにちょっと可哀想かなと最後の35話、文を少し付けたしました。私めの表現の力不足でした…それでも読んで下さいまして嬉しいです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
追放された悪役令嬢はシングルマザー
ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。
断罪回避に奮闘するも失敗。
国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。
この子は私の子よ!守ってみせるわ。
1人、子を育てる決心をする。
そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。
さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥
ーーーー
完結確約 9話完結です。
短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる