10 / 53
第一章
10.ルイとアーサー
しおりを挟む「魔の、森……!!?」
まるで骨のような手で口を覆い、震えだした子供に、出来るだけ優しく声を掛ける。
「大丈夫。“魔の森”の中だけど、結界が張ってあって魔物は入ってこれないから」
子供は、栄養失調で窪んでしまった大きな目を見開き私を注意深く観察しているようだ。
その瞳には、恐怖と不安の色が浮かんでいた。
「それより、お腹が空いてるでしょう。ご飯作ってきたから、食べない?」
「ご、はん……、ぼくが、たべてもいい、ですか?」
食べさせて貰えてなかったのだろう、おずおずと伺ってくる、その子供が育った環境に、沸々と怒りが込み上げてきた。
「勿論だよ。もう一人の子の分もあるから、遠慮せず食べてね」
「!! アーサーっ アーサーは無事なんですか!?」
アーサーっていうのがもう一人の子供の名前だろうか。
隣に寝ているのに気付いてなかったのか、慌てだした子供に、隣に寝ていると伝えれば、ベッドを見て泣き出した。
「よか、よかった……っ」
「あぁっ あまり泣いたら脱水症状を起こしちゃうから、泣き止んで」
慌てて子供の涙を拭き、一緒に持ってきていたスポーツ飲料水を渡す。
これは最近ウチの冷蔵庫の中に現れたもので、草取りの後、汗をかいた時に飲むと最高に美味しいのだ。
とても重宝しているものの一つである。
「まずはこれを飲んでね」
「ぇ、は、はい……」
半ば無理矢理それを飲ませると、次の瞬間、カサカサだった肌が、元の子供らしいハリのある肌に戻ったのだ! 黒ずんでいた色まで白く変わっているではないか!
えぇェェ!!?
「おいしい……っ 体が、楽になりました……ぁ、よく見たら傷も無くなってる!? も、もしかしてこれ、すごく高いポーションなんじゃ……っ」
傷が治ってるのは、リッチモンドさんが治療魔法をかけてくれからなんだけどね! ってそれよりも、ただのスポーツ飲料水が、ポーション!?
ポーションってアレだよね。あの、体力を回復させたり、魔力を回復させたりする薬……、
ただのスポーツ飲料水ですけど!?
「いや、ポーションっていうか、体から出ていった水分を補給するものでね、そんな大したものじゃない……はずなんだけど?? あ、傷は私の家族が治療魔法で治したんだよ」
「治療魔法!!? そ、そんなすごい魔法が使える人がいるんですか!? やっぱりいただいたポーションも、すごいものなんだ……、す、すいませんっ ぼく、お金を持ってないんです!!」
「お金なんていらないよ!? とにかく今は、何も気にせず元気になることだけ考えて! はい、次はこの重湯を食べてねっ」
そう言ってスプーンと重湯の入った器を渡している時、隣のベッドから「うぅ……」と声が聞こえてきた。
「アーサーっ」
「ん……ルイ……?」
どうやらアーサー君が目を覚ましたらしい。
「アーサー君? 起きられそう?」
「!? だ、だれ!?」
ビクッとして、でも起き上がる体力が無いのか、起き上がろうとしてボスッと布団に沈む。
骨のような腕が、力なくベッドの上に落ちた。
「初めまして。藤井……、カナデ・フジイと言います。あ、そっちの子も自己紹介が遅くなってごめんね」
「ぁ、ぼくこそすいません。あの、ルイって言います……。そっちは双子の弟のアーサーです」
「え、双子!?」
私が驚いたのは、ルイ君がとても小柄だったからだ。
アーサー君は6歳くらいに見えるが、ルイ君は4歳くらいにしか見えない。
確かに髪の色は同じプラチナブロンドだけど……。
「ぁ、ごめんなさい。失礼な事言ってしまって」
「いえ、ぼくはアーサーに比べて小さいので、無理もありません」
4歳にしてはしっかりしてるなぁって思ってたけど、6歳くらいなのかぁ……。いや、6歳にしてもしっかりしてる。
「今までご飯もあまり食べさせて貰えてなかったんでしょう。仕方ない事だよ。これからはしっかり食べて、大きくなろうね!」
ルイ君にそう話しかけながら、アーサー君の背中にクッションを入れて身体を起こす。
「アーサー君は、まずこれを飲もうね」
「?? こ、ここは……、オレ、魔物に襲われそうになって、ドラゴンに……っ」
「うん。詳しい説明は後でするから、まずはこれを飲もう?」
ルイ君と同じように、アーサー君にも強引にスポーツ飲料水を飲ませると、やはり肌にハリが出て、白くなったのだ。
そういえば、この家の食料には、健康維持と体力、魔力を回復させる効果があるって、家召喚の説明書に書いてあったような……。
という事は、この重湯も……?
「何だこれ……!? 体が軽くなった……っ」
うん。体力が回復したんだね。健康維持の効果もあるから、もしかしたら栄養失調も無くなってるかも?
「アーサー君、お腹はへこんでる?」
「え、お腹……ほ、本当だ……っ お腹が空いてるのに、なんでかふくらんでたお腹が、へこんでる!!」
よし! 思った通り。
“健康維持”って事は、健康じゃないと維持が出来ないもんね。やっぱり病気も治るんだ!
「二人とも、この重湯も食べてみて。お腹空いてるでしょう」
もう重湯じゃなくて、普通のご飯を食べさせてもいいかもしれないけど、胃がびっくりして吐いてもいけないから、一応今日はこれで我慢してもらおう。
「“おもゆ”……?」
「お米を粒が無くなるまで炊いたものだよ。薄く塩味が付いてるから、食べやすいとは思うんだけど」
そう説明しても、二人は首を傾げていたのでお米が無いのかもと思い至り、「とにかく食べてみて」とすすめる。
二人は恐る恐るスプーンで掬って口に運ぶと、ゴクリと飲み込み、
「「!? お、美味しいっ!!!!」」
と、ふたりで顔を見合わせたのだ。
342
お気に入りに追加
3,529
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
聖女の私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。
重田いの
ファンタジー
聖女である私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。
あのお、私はともかくお父さんがいなくなるのは国としてマズイと思うのですが……。
よくある聖女追放ものです。
若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!
古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。
そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は?
*カクヨム様で先行掲載しております
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】結婚して12年一度も会った事ありませんけど? それでも旦那様は全てが欲しいそうです
との
恋愛
結婚して12年目のシエナは白い結婚継続中。
白い結婚を理由に離婚したら、全てを失うシエナは漸く離婚に向けて動けるチャンスを見つけ・・
沈黙を続けていたルカが、
「新しく商会を作って、その先は?」
ーーーーーー
題名 少し改変しました
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
妹を溺愛したい旦那様は婚約者の私に出ていってほしそうなので、本当に出ていってあげます
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族令嬢であったアリアに幸せにすると声をかけ、婚約関係を結んだグレゴリー第一王子。しかしその後、グレゴリーはアリアの妹との関係を深めていく…。ある日、彼はアリアに出ていってほしいと独り言をつぶやいてしまう。それを耳にしたアリアは、その言葉の通りに家出することを決意するのだった…。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
夫の隠し子を見付けたので、溺愛してみた。
辺野夏子
恋愛
セファイア王国王女アリエノールは八歳の時、王命を受けエメレット伯爵家に嫁いだ。それから十年、ずっと仮面夫婦のままだ。アリエノールは先天性の病のため、残りの寿命はあとわずか。日々を穏やかに過ごしているけれど、このままでは生きた証がないまま短い命を散らしてしまう。そんなある日、アリエノールの元に一人の子供が現れた。夫であるカシウスに生き写しな見た目の子供は「この家の子供になりにきた」と宣言する。これは夫の隠し子に間違いないと、アリエノールは継母としてその子を育てることにするのだが……堅物で不器用な夫と、余命わずかで卑屈になっていた妻がお互いの真実に気が付くまでの話。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。
くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」
「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」
いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。
「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と……
私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。
「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」
「はい、お父様、お母様」
「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」
「……はい」
「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」
「はい、わかりました」
パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、
兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。
誰も私の言葉を聞いてくれない。
誰も私を見てくれない。
そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。
ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。
「……なんか、馬鹿みたいだわ!」
もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる!
ふるゆわ設定です。
※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい!
※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ!
追加文
番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。
愛されない皇妃~最強の母になります!~
椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』
やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。
夫も子どもも――そして、皇妃の地位。
最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。
けれど、そこからが問題だ。
皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。
そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど……
皇帝一家を倒した大魔女。
大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!?
※表紙は作成者様からお借りしてます。
※他サイト様に掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる