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第一章
7.人族の街に行こう
しおりを挟むドラゴンの元王様であるリッチモンドさんを村の小屋に住まわすわけにもいかず、私の住む大手ハウスメーカー擬きの家に一緒に住むようになってひと月が経った。
そろそろレベル的にも家が成長するんじゃないかと考えていた朝、リッチモンドさんが森に狩りに出掛けた後にそれは起こった。
“村長の館が変化します”
突如目の前に文字が浮かんだのだ。
村長の館って何!? 村を作ったからその名称になったの!?
大分慣れてきた家の成長だったが、村長という名称に動揺している内に光に包まれ…………、
おウチ様は、それは立派な“洋館”に変わっていた。
旧古河邸、大谷美術館のようなレトロな外観と内装の洋館は牧歌的なこの村にも世界にも違和感なく、まるで昔から存在していたかのような堂々とした佇まいであった。
「邸の姿が変わったか」
「ぎゃあ!!!!」
狩りに行ったはずのリッチモンドさんの声がすぐそばで聞こえ、驚いて叫び声を上げてしまう。
「なんだ。その色気のない叫び声は」
「叫び声に色気を乗せる女は計算高いですよー!! って、リッチモンドさん狩りに行ったんじゃなかったんですか!?」
「大きな魔力を感じて戻ってきたのだ」
いつの間にか後ろに居たリッチモンドさんは、変化した家を見て上機嫌に頷いた。
「うむ。なかなか趣の良い邸になったではないか」
「そうですか? 私としては大きくなりすぎててちょっと……」
庶民には住みづらそうな家から目をそらす。
「貴族街にある邸に比べれば小さいと思うがな」
「貴族が住むような家と比べないでくださいよ」
「貴族よりも良い暮らしをしておいて何を言う」
こちとら生粋の庶民ですよ。
「さて、家の変化ならば問題はないな。もう一度狩りに行ってこよう」
あ、リッチモンドさん心配して戻ってきてくれたんだ。
「ありがとうございます」
「ん? なに、気にするでない。私達は家族なのだろう」
リッチモンドさん!!
◇◇◇
「お酒が欲しいです!!」
街に行く必要ないかなぁ。なんて思い始めていた私ですが、ハンバーグのソースを作っている時にワインが無い事に気付いたのだ。
無くても作れなくはないが、気付いてしまうと欲しくなるのが人間である。なんならワインを飲みたくなる。
「酒は……森には無いな」
どうやらリッチモンドさんもお酒を飲みたくなったのか、重い腰を上げると頷いた。
街に行こう!!
『良いか、わしのやったそのローブは絶対脱ぐでないぞ』
「はいはい」
何度も言われて耳タコだよ。リッチモンドさんは心配症だなぁ。
にしても、ドラゴン姿のリッチモンドさんも格好良い。
真っ白い鱗に覆われた背に跨り、空を飛ぶのを今か今かと待つ。
これから彼に連れられて、人間の街へ向かうのだ。
勿論飛んでいる時は、リッチモンドさんの姿も私の姿もステルス魔法によって見えなくなるらしい。
魔法ってつくづく便利である。
『カナデはポヤっとしているからな……心配だ』
「失礼なっ でも、何かあればリッチモンドさんが助けてくれるでしょう? だから何の心配もしてないよ!」
『まったくおぬしは……』
呆れたように笑うと(ドラゴンだから牙が剥き出しになって怖い)、リッチモンドさんは『ゆくぞ!』と言って羽ばたき、あっという間に上昇したのだ。
「ひゃあ!!」
『安心しろ。わしの背から落ちぬよう、固定魔法と風の抵抗を受けぬよう、結界を張っておいた』
至れり尽くせりありがとうございます。
眼下に見える森は、空を飛んでいても暫く続き、魔の森の広大さをまざまざと見せつけられた。
私はこんな気の遠くなるような森を、家召喚で抜け出そうとしてたのか……。
こんなの、何十年どころか、何百年あっても抜け出せないかもしれない。
目の前に続く森は果てなく、後ろを向けば崖そしてまた森と続いている。
最奥の森だって本には書いてあったけど、本当に最奥なのかも私には判断出来ない。
勿論左右も森だ。
まるでこの世界が森で出来てるみたい。
どのくらい飛んだのか、空と森しかない景色が続き、ある時急に、森がプツリと途切れた。
舗装されていないが、道らしきものと、その先に草原が広がっているのが見える。
私はとうとう、あの魔の森を抜け出せたのだ───。
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