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第一章
1. プロローグ
しおりを挟む「───……なので、この治療をすると妊娠できなくなります。その為卵子の冷凍保存という手段もありますが、ご希望されますか?」
「……いえ。今後結婚の予定もないですし、もう40なので……」
「そうですか。では他に何か不安な事はありますか?」
「……特には」
乳ガンを宣告されてからすぐ、治療方法の説明があった。
昔から結婚願望は無かったし、もう40間近で一生独身だろうと思っていた。
だけど、看護師さんから言われて初めて、少しだけ自分の人生を後悔した。
治療が始まり暫くして、生理がこなくなった。
癖毛が酷くて、3ヶ月に一度美容院に行ってた髪の毛は全て抜けて無くなった。
色白もち肌が唯一の自慢だった。だからできるだけ紫外線を浴びないように頑張ったけど浅黒く変わってガサガサになった。
磨いていた爪はガタガタになって黄ばんでいった。
ストレッチやジョギングで学生時代から保っていたスタイルはむくみからくる体重増加で見る影もない。
あれだけ興味のあった化粧品もアクセサリーも服も、何も欲しくなくなった。
「このしんどささえ乗り越えたら次の抗がん剤は少し楽なやつだから!」
医者が言ってた楽な抗がん剤は、私にとっては吐き気がずっと続くものだった。
「命にはかかわってこないって言ってたでしょう。だから大丈夫よ」
死なないからって何が大丈夫なのだろう。
「治療が終わったら全て元に戻るよ」
仕事はクビになったよ。手術後の胸は乳輪も乳頭も無くなるし、抗がん剤治療中に悪化した帯状疱疹の傷痕は一生消えないって。
もうおばちゃんだからいいだろう? そうだね。おばちゃんでも女としての心は持ってるんだよ。
「ガンがまだ残っています。大丈夫。前より随分楽な抗がん剤を使うから。頑張って治しましょう」
楽な抗がん剤なんてないだろ。
「転移してます」
もう、勘弁してください。
治療を初めて2年が経っていた。
もう、身も心もボロボロで……、その半年後に、私は病死した───
はずだった。
「……なに、ここ…………突然の森……?」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
自分の最後は覚えている。
実家の和室に医療用のベッドが置かれ、その上に起き上がれなくなった私が転がり、窓の外の庭を眺めながら思っていたのだ。
窓と網戸きたねぇなぁ。外が見えん。
と。そしたら急に息がしづらくなって、そのまま意識が無くなった。
多分それが私、藤井 かなで(41)の最後だった。
なのに目が覚めたら、森に一人放置されている!?
このパターン、アレだ。ネット小説とかである転生とか転移とか、そういうのだ。
だって明晰夢とか見たことないし。匂いも感触も本物だもの。そして聖なる森って感じの明るい森じゃなく、この湿ったような土と鬱蒼とした感じがまたリアルなのだ。
魔物じゃなくても熊とか出てきたらどうしよう、と怖くなる。
「こういう時、ネット小説だとどうしてたっけ……あっ、自分のステータス確認するのがお決まりだった!」
長年隠れオタクをやっているが、ステータスとか口に出すの恥ずかしいな。
大体、この状況で「ステータスオープン」とか呟いて出なかったら、誰にも見られてないとしても死にたくなるだろ。
などと一人悶えていると、突然目の前に出た。
ステータスが。
名前: 藤井 かなで
年齢: 15才
レベル: 1
HP: 99/100
MP: 1000000/1000000
健康状態: 良好
魔法: 才能なし。たとえレベルを上げても使用できません。
スキル: 家召喚、言語翻訳(文字の読み書き)
平均がどのくらいか分からないから何とも言えないけど、MPが異常に多いのはわかる。
魔法は一切使えないみたいだけど………………、
って何でだよ!! 普通こんだけMPあれば使えんだろ!! 才能なしって何だ!! ご丁寧に、「例えレベルを上げても使用できません」っている!? その一文いるぅぅ!?
「……落ち着け私。ビークール。良い事もある。若返ってるのと健康って所が良い。この視界に見える自分の髪の毛。髪があるって所も最高だ。そしてスキルがあるだけマシだと思おう」
そのスキルだが……、『家召喚』?
召喚って普通、魔物とか悪魔とか、生き物を呼ぶ魔法(?)だよね?
……まぁ、何にしろ、家に困らないのは良い事だ。
そんな風に頷いていると、またもや突然、目の前に文字が浮かび上がった。
“家を召喚しますか?”
ここで? 森だよ? 開けた場所じゃないよ!?
「とはいえ、森を歩き回るのは得策じゃないよね。そんなわけで家、召喚します!!」
“整地します”
「は?」
整地の文字に驚いていると、周囲が突如パァァ! と光り出し、眩しくて咄嗟に目を閉じる。
暫くすると瞼の裏で感じる光が徐々に弱くなっていったので
、恐る恐ると目を開けた。
「は……?」
さっきまで木々が繁っていた場所には何も生えておらず、綺麗に一定の区間が整地されていたのだ。
“家を召喚します”
またもや目の前に文字が浮かぶ。
と、先程のように光だし、そして───
木で出来た小さな小屋と畑、そしてりんごの木が一本、そこにあった。
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