36 / 59
08:ドリンク、どうする?
Bパート
しおりを挟む
「はい、お尻を上げたまま、キープ」
マットに仰向けに寝て、膝を骨盤の幅に広げて立て、お尻を上げるヒップブリッジをやらされていた。
「お尻を絞るように。腹筋も力抜かないー、背中反らさないー」
一分間とか、有り得ない。
「呼吸をしてー」
山崎さんは、茶トラ猫耳っぽいカチューシャをつけて、私の隣でヒップブリッジのまま、片足を伸ばして横に開いて戻す、とかやっているのが、鏡でチラっと見えた。
両足でもキツいのに、片足上がる?
「はい、あと三十秒。お尻下がってきましたから、もう一度あげて。肋骨を開かずにキープ」
ぎゃー、きついー!
お尻を下げたり、身体をノケ反らして楽になる、と注意された。
「吸ってー、吐いてー、呼吸を止めないー」
休むとこないんですけど?
「はい、残り十五秒。横の鏡みて、フォームの確認ー」
ぎゃー、横を向く、と汗だくでグチャグチャ顔な自分と目が合ってしまった。
「はい、終了です。お尻をゆっくり、下げてください」
言われてもドスン、とお尻を落とした。
筋肉を動かさずに力を入れるアイソメトリックスという方法らしい。
スクワットなどの動かすトレーニングに比べて、消費は少なくなるが、呼吸はコントロールしやすいらしい。
でも、十分苦しいぞ。
また、体力がなくても、いくつか組み合わせてトレーニングできるのもメリットらしい。
でももう十分、疲れた。
「水分を摂ったなら次、ホバー行きます」
ええええー!?
「はい、お腹に力入れて、キープ」
マットに肩の下になるように肘を曲げてついて、背中を真っ直ぐにして、膝をつき、お腹で姿勢を保つホバーをやらされていた。
「お腹に力を入れて、お尻落さないー」
一分間とか、有り得ない。
「呼吸をしてー」
山崎さんは、キジトラ猫耳っぽいカチューシャをつけて、私の隣でホバーのまま、膝を上げて、片手で敬礼して戻す、とかやっているのが、鏡でチラっと見えた。
膝つきでもキツいのに、片手まで上がる?
「はい、あと三十秒。お尻下がってきましたから、もう一度あげて。背中丸めずにキープ」
ぎゃー、きついー!
お尻を下げたり、重心を膝の方にして楽になる、と注意された。
「吸ってー、吐いてー、呼吸を止めないー」
休むとこないんですけど?
「はい、残り十五秒。横の鏡みて、フォームの確認ー」
ぎゃー、横を向く、と汗だくでグチャグチャ顔な自分と目が合ってしまった。
「はい、終了です。お腹をゆっくり、下げてください」
言われてもドスン、と身体を落とした。
「ナイストレーニングですよ、ショジーさん!初日から一分なんて!」
百目鬼君が、満面の笑みで、褒めてくれた。
「すごい!香恋さん!」
マットに倒れ伏した私に、山崎さんが蛍光色のドリンクを差し出した。
私は受け取らなかった。
だって、せっかくダイエットしてるのに、カロリーゼロだけどゼロじゃないドリンクを飲むのは嫌だ。
それに、筋肉分解された方が、細くなって、体重減るんじゃない?
そう思って、頑なに二人が用意してくれたBCAAを断り、水を飲んでいたのだ。
「筋肉分解されたら、体脂肪率が上がるだけなのに」
え?
「筋肉分解されたら、同じ運動しても消費が減るから、痩せにくいのに」
それは、そうなんだけど。
「はい、香恋さん」
私は、顔を俯けながら、必死に口を開かないように抵抗していた。
「こんな、濃そうなの嫌」
「大丈夫、味わってみてください」
「やっぱりダメ、飲むなんて無理ー!」
私は、突起を口に突っ込まれながら、悲鳴を上げた。
そして、飲み口から、口に入った分を飲んでしまった。
美味しい!
甘い!甘い!甘い!
「飲みすぎ」
山崎さんに、取り上げられた。
ダイエットで甘い物を控えているから、この甘さが、溜まらなく美味しい!
「じゃあ、BCAAを補給しながら、バイク漕ぎましょう」
私は、あの甘いBCAAが飲めるなら、と喜んでエアロバイクへ向かった。
荒い息の中、少しだけ思った。
ちょっといいかもしれない。
サッキーが、ショージさんから顔を背けて、「チョロ、、、」と呟いたが、僕は聞こえなかったふりをした。
翌日、私は筋肉痛でギクシャク、と出社した。
ところが、いつもよりは、筋肉痛が弱い気がする。
BCAAの効果だろうか。
昨日は、久しぶりに甘い物を口にできて、「ちょっといいかもしれない」と思った上に、筋肉痛が弱い。
でも辛いものは、辛いのだ。
仕事もミスしちゃったし、運動なんて余裕はなかったのだ。
絶対に、辞めよう。
綺麗になるには、もっと他の楽な方法もある、はずだ。
「東海林さん、おはよう」
「あ、おはようございます。佐伯さん」
今朝も佐伯さんは、素敵だ。
仕事のミスがなければ、もっと素敵に思えたはずなのに。
「昨日ウェブで先行公開になったケーキバイキングの記事広告、取材もあって、ダイエット中には辛かったんじゃない?」
実際、辛かった。
ついつい、甘い香りで唇も拳にも力が入ってしまったし、実際に食べている人を見て、血の涙が流れそうになった。
ダイエット辞めたいとか、カロリーのあるBCAAを飲みたくないとか、葛藤の原因は、この取材の気はしていた。
記事広告というのは、そのお店そのものや食材、機械などを販売したところがスポンサーになって、お店などのPRポイントを取材して載せる有料紹介記事のことだ。
佐伯さんが、申し訳なさそうな顔をして、笑顔になった。
今朝の笑顔も素敵だ。
でも、ミスしてなければ。
「あの記事広告、東海林さんが書いたケーキを食べたいって大好評みたいで、問い合わせやアクセスが凄いらしいよ」
褒められた!
確かに、ケーキ食べたい怨念の篭った文章ではあったから、読者の食欲を刺激したのかもしれない。
「だから、ダイエットに成功したら、あのお店に行こう」
佐伯さんと?
それって、デート?
「あのお店に(みんなで)行こう」、なのかもしれないけど、気にしたら負けだ。
ダイエットに成功したら?
もう、ゴールが見えたような気すらする。
「どう、仕事も、部活も、続けられそう?」
心配そうに問う佐伯さんに、私は即答した。
「はい、もちろん!」
うん、もうだけ少し続けてみよう。
百目鬼先輩が、香恋さんから顔を背けて、「チョロ、、、」と呟いたが、あたしは聞こえなかったふりをした。
マットに仰向けに寝て、膝を骨盤の幅に広げて立て、お尻を上げるヒップブリッジをやらされていた。
「お尻を絞るように。腹筋も力抜かないー、背中反らさないー」
一分間とか、有り得ない。
「呼吸をしてー」
山崎さんは、茶トラ猫耳っぽいカチューシャをつけて、私の隣でヒップブリッジのまま、片足を伸ばして横に開いて戻す、とかやっているのが、鏡でチラっと見えた。
両足でもキツいのに、片足上がる?
「はい、あと三十秒。お尻下がってきましたから、もう一度あげて。肋骨を開かずにキープ」
ぎゃー、きついー!
お尻を下げたり、身体をノケ反らして楽になる、と注意された。
「吸ってー、吐いてー、呼吸を止めないー」
休むとこないんですけど?
「はい、残り十五秒。横の鏡みて、フォームの確認ー」
ぎゃー、横を向く、と汗だくでグチャグチャ顔な自分と目が合ってしまった。
「はい、終了です。お尻をゆっくり、下げてください」
言われてもドスン、とお尻を落とした。
筋肉を動かさずに力を入れるアイソメトリックスという方法らしい。
スクワットなどの動かすトレーニングに比べて、消費は少なくなるが、呼吸はコントロールしやすいらしい。
でも、十分苦しいぞ。
また、体力がなくても、いくつか組み合わせてトレーニングできるのもメリットらしい。
でももう十分、疲れた。
「水分を摂ったなら次、ホバー行きます」
ええええー!?
「はい、お腹に力入れて、キープ」
マットに肩の下になるように肘を曲げてついて、背中を真っ直ぐにして、膝をつき、お腹で姿勢を保つホバーをやらされていた。
「お腹に力を入れて、お尻落さないー」
一分間とか、有り得ない。
「呼吸をしてー」
山崎さんは、キジトラ猫耳っぽいカチューシャをつけて、私の隣でホバーのまま、膝を上げて、片手で敬礼して戻す、とかやっているのが、鏡でチラっと見えた。
膝つきでもキツいのに、片手まで上がる?
「はい、あと三十秒。お尻下がってきましたから、もう一度あげて。背中丸めずにキープ」
ぎゃー、きついー!
お尻を下げたり、重心を膝の方にして楽になる、と注意された。
「吸ってー、吐いてー、呼吸を止めないー」
休むとこないんですけど?
「はい、残り十五秒。横の鏡みて、フォームの確認ー」
ぎゃー、横を向く、と汗だくでグチャグチャ顔な自分と目が合ってしまった。
「はい、終了です。お腹をゆっくり、下げてください」
言われてもドスン、と身体を落とした。
「ナイストレーニングですよ、ショジーさん!初日から一分なんて!」
百目鬼君が、満面の笑みで、褒めてくれた。
「すごい!香恋さん!」
マットに倒れ伏した私に、山崎さんが蛍光色のドリンクを差し出した。
私は受け取らなかった。
だって、せっかくダイエットしてるのに、カロリーゼロだけどゼロじゃないドリンクを飲むのは嫌だ。
それに、筋肉分解された方が、細くなって、体重減るんじゃない?
そう思って、頑なに二人が用意してくれたBCAAを断り、水を飲んでいたのだ。
「筋肉分解されたら、体脂肪率が上がるだけなのに」
え?
「筋肉分解されたら、同じ運動しても消費が減るから、痩せにくいのに」
それは、そうなんだけど。
「はい、香恋さん」
私は、顔を俯けながら、必死に口を開かないように抵抗していた。
「こんな、濃そうなの嫌」
「大丈夫、味わってみてください」
「やっぱりダメ、飲むなんて無理ー!」
私は、突起を口に突っ込まれながら、悲鳴を上げた。
そして、飲み口から、口に入った分を飲んでしまった。
美味しい!
甘い!甘い!甘い!
「飲みすぎ」
山崎さんに、取り上げられた。
ダイエットで甘い物を控えているから、この甘さが、溜まらなく美味しい!
「じゃあ、BCAAを補給しながら、バイク漕ぎましょう」
私は、あの甘いBCAAが飲めるなら、と喜んでエアロバイクへ向かった。
荒い息の中、少しだけ思った。
ちょっといいかもしれない。
サッキーが、ショージさんから顔を背けて、「チョロ、、、」と呟いたが、僕は聞こえなかったふりをした。
翌日、私は筋肉痛でギクシャク、と出社した。
ところが、いつもよりは、筋肉痛が弱い気がする。
BCAAの効果だろうか。
昨日は、久しぶりに甘い物を口にできて、「ちょっといいかもしれない」と思った上に、筋肉痛が弱い。
でも辛いものは、辛いのだ。
仕事もミスしちゃったし、運動なんて余裕はなかったのだ。
絶対に、辞めよう。
綺麗になるには、もっと他の楽な方法もある、はずだ。
「東海林さん、おはよう」
「あ、おはようございます。佐伯さん」
今朝も佐伯さんは、素敵だ。
仕事のミスがなければ、もっと素敵に思えたはずなのに。
「昨日ウェブで先行公開になったケーキバイキングの記事広告、取材もあって、ダイエット中には辛かったんじゃない?」
実際、辛かった。
ついつい、甘い香りで唇も拳にも力が入ってしまったし、実際に食べている人を見て、血の涙が流れそうになった。
ダイエット辞めたいとか、カロリーのあるBCAAを飲みたくないとか、葛藤の原因は、この取材の気はしていた。
記事広告というのは、そのお店そのものや食材、機械などを販売したところがスポンサーになって、お店などのPRポイントを取材して載せる有料紹介記事のことだ。
佐伯さんが、申し訳なさそうな顔をして、笑顔になった。
今朝の笑顔も素敵だ。
でも、ミスしてなければ。
「あの記事広告、東海林さんが書いたケーキを食べたいって大好評みたいで、問い合わせやアクセスが凄いらしいよ」
褒められた!
確かに、ケーキ食べたい怨念の篭った文章ではあったから、読者の食欲を刺激したのかもしれない。
「だから、ダイエットに成功したら、あのお店に行こう」
佐伯さんと?
それって、デート?
「あのお店に(みんなで)行こう」、なのかもしれないけど、気にしたら負けだ。
ダイエットに成功したら?
もう、ゴールが見えたような気すらする。
「どう、仕事も、部活も、続けられそう?」
心配そうに問う佐伯さんに、私は即答した。
「はい、もちろん!」
うん、もうだけ少し続けてみよう。
百目鬼先輩が、香恋さんから顔を背けて、「チョロ、、、」と呟いたが、あたしは聞こえなかったふりをした。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
9
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる