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開店、まで
開店
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「開店おめでとう! 乾杯!」
『乾杯!』
今日は、一年前に、雪さんに出会った日だ。
今思えば、冷やかそう、と不謹慎だったが、それでも、この出会いに感謝だ。
それよりも、逆に一年しか経っていないのに、驚きだ。
寧ろ、この部屋に引っ越す以前の僕は、どうだったのか、あまり思い出せない。
それもこれも、オジサンに感謝だ。
老弁護士が来たときには大迷惑、この部屋を見に来たときには絶対に断ろう、と思っていたのが、遥かな昔のようだ。
そうそう、老弁護士は、ようやく、ようやく体調が回復して、オジサン会の一員として、開店を祝いに来てくれていた。
今の時間は、開店の三十分前。
どうしても開店を祝いたい、とのオジサン会の申し出を受けることにした。
花もたくんさんもらっていた。
ただ、店に置く、と雪さんが食べるのではないか、と置く場所に困って、ビルのロビーに置かせてもらっていた。
花はロビーだが、こちらへの階段の前に、ライト付きのボードを置いて、メニューなどを貼っているから、迷わないとは思う。
オジサン会の人たちも、開店初日の席を独占する気はないようで、開店時間前に退散する、と言っていた。
まあ、アニキは胃が痛い顔をしているが。
それでも、その数、十六人(老弁護士含む)。
これでも、全員ではない、というのが、オジサンの人望の凄さなのだろう。
他にも、オヤジと忍さん、猫オバチャン夫妻、アニキ一家、タカチさんの総勢二十四人が、来てくれていたので、結構ぎっしりだ。
雪さんは、尻尾もほぼ治り、あまり舐めることもない。
早く、カスミちゃんに遊んで欲しそうだったが、カスミちゃんに嗜められる、と元ドーム型ベッドの上で、箱になっていた。
「それじゃあ、挨拶だろ」
まだ、挨拶が続くのか、ともう一杯ビール注いじゃおうかな、と思っていたら、注目が集まっていることに気がついた。
「挨拶しろ」
え?
僕が?
驚いた顔をする、と一斉に溜息をつかれた。
「お前の店だろうが」
「せめて抱負とか」
「先代に似ているのでは?」
「馬鹿なんじゃないの?」
え?
オジサンに、似ているの僕?
まあ、置いておいて、とりあえず挨拶だ。
二杯目のビールを呑むためには、仕方が無い。
「ビールも温まってしまうし、二杯目も呑みたいでしょうから、短めに、」
よくある挨拶の枕なのに結構、睨まれた。
「えーと、この部屋のことを聞かされたとき、見に来たとき正直、断ろうと思ってました。あまりに広くて、」
老弁護士が、また寝込みそうな顔をしている。
アニキも、気絶しそうな顔色だ。
「でも、この部屋の意味、広さの意味を知って、譲り受けました」
老弁護士とアニキに、魂が戻ってきた。
「まあ、部屋が広かったのは、家具が無くなっていたからなんですが、」
ごほごほ、とオジサン会が、咳き込む。
お前ら、全員が、家具泥棒か。
「でも、引っ越してきても、食事会をする気は、さらさらありませんでした」
顔色が悪くなる、オジサン会とアニキ。
「でも、アニキと食事会をして、なんとなくですが、オジサンの気持ちがわかりました」
「食事会だとお?」という視線に晒されて、萎れるアニキ。
「それも、雪さんと出会ったからかもしれません」
皆の視線を集めた雪さんだが、「かもしれない」のせいか、不機嫌そうだった。
「祖父母も、両親も早くに亡くなりましたし、家族に縁がない、人にも縁がない、と思ってました」
でも、人に縁がないなら、「お出かけ三つの誓い」なんて、なかったはずだ。
そもそも、オヤジたちにも、出会ってたじゃないか。
「この部屋のお陰で、また家族に会えました。皆さんも、家族ですよね?」
うわ、僕、泣いてるのか?
「・・・オジサンに、一度会ってみたかったなあ」
オジサン会の人たちの目にも、涙が浮かぶ。
「お祝いに来てくれて、ありがとうございました。乾杯!」
『乾杯!』
あ、乾杯二回目だった。
「そういえば、お店の名前は?」
忍さんに聞かれた。
あれ?
一応、ボードとかにも書いてあったんだけど。
「MOONlight Nightです」
「それって、ウチといっしょでしょ!?」
「オヤジの許可は、もらいました」
どんなに寂しい夜でも、この店までの道が、月に照らされたように来られる店。
ある意味、暖簾分けだ。
オヤジを怒鳴りに行く、忍さん。
それをいなしながら、帰り支度を始めるオヤジ。
猫オバチャン夫婦も、これから戻って、店を開くのだ。
本当に、ありがたかった。
オジサン会も、名残惜しそうだが、約束通り、開店時間前に帰るようだ。
ただ、壱が居座りたそうにして、それを弐が嗜めていた。
あ!
「みなさーん、すみませーん! 帰る前に、写真撮らせてくださーい!」
開店して、初の写真を最近、増えてないボードに、プリントアウトして貼るのだ。
ぶつくさと言いながらも嬉しそうな壱、心底面倒くさそうなオヤジと忍さん。
それでもカウンター前に並んでもらって、カスミちゃんが雪さんを抱いてくれて、集合写真を撮った。
残ったのは、アニキ一家とタカチさんだけで、ようやくカスミちゃんに遊んでもらえて、雪さんが、飛び跳ねている。
そろそろ、開店時間だ。
とはいえ、お客様は、来るのだろうか?
『ぴんぽーん』
インターホンが鳴った。
「いらっしゃいませ。少々お待ちください」
猫と目が合ったので、猫がいるビア・バーを始めた。
『乾杯!』
今日は、一年前に、雪さんに出会った日だ。
今思えば、冷やかそう、と不謹慎だったが、それでも、この出会いに感謝だ。
それよりも、逆に一年しか経っていないのに、驚きだ。
寧ろ、この部屋に引っ越す以前の僕は、どうだったのか、あまり思い出せない。
それもこれも、オジサンに感謝だ。
老弁護士が来たときには大迷惑、この部屋を見に来たときには絶対に断ろう、と思っていたのが、遥かな昔のようだ。
そうそう、老弁護士は、ようやく、ようやく体調が回復して、オジサン会の一員として、開店を祝いに来てくれていた。
今の時間は、開店の三十分前。
どうしても開店を祝いたい、とのオジサン会の申し出を受けることにした。
花もたくんさんもらっていた。
ただ、店に置く、と雪さんが食べるのではないか、と置く場所に困って、ビルのロビーに置かせてもらっていた。
花はロビーだが、こちらへの階段の前に、ライト付きのボードを置いて、メニューなどを貼っているから、迷わないとは思う。
オジサン会の人たちも、開店初日の席を独占する気はないようで、開店時間前に退散する、と言っていた。
まあ、アニキは胃が痛い顔をしているが。
それでも、その数、十六人(老弁護士含む)。
これでも、全員ではない、というのが、オジサンの人望の凄さなのだろう。
他にも、オヤジと忍さん、猫オバチャン夫妻、アニキ一家、タカチさんの総勢二十四人が、来てくれていたので、結構ぎっしりだ。
雪さんは、尻尾もほぼ治り、あまり舐めることもない。
早く、カスミちゃんに遊んで欲しそうだったが、カスミちゃんに嗜められる、と元ドーム型ベッドの上で、箱になっていた。
「それじゃあ、挨拶だろ」
まだ、挨拶が続くのか、ともう一杯ビール注いじゃおうかな、と思っていたら、注目が集まっていることに気がついた。
「挨拶しろ」
え?
僕が?
驚いた顔をする、と一斉に溜息をつかれた。
「お前の店だろうが」
「せめて抱負とか」
「先代に似ているのでは?」
「馬鹿なんじゃないの?」
え?
オジサンに、似ているの僕?
まあ、置いておいて、とりあえず挨拶だ。
二杯目のビールを呑むためには、仕方が無い。
「ビールも温まってしまうし、二杯目も呑みたいでしょうから、短めに、」
よくある挨拶の枕なのに結構、睨まれた。
「えーと、この部屋のことを聞かされたとき、見に来たとき正直、断ろうと思ってました。あまりに広くて、」
老弁護士が、また寝込みそうな顔をしている。
アニキも、気絶しそうな顔色だ。
「でも、この部屋の意味、広さの意味を知って、譲り受けました」
老弁護士とアニキに、魂が戻ってきた。
「まあ、部屋が広かったのは、家具が無くなっていたからなんですが、」
ごほごほ、とオジサン会が、咳き込む。
お前ら、全員が、家具泥棒か。
「でも、引っ越してきても、食事会をする気は、さらさらありませんでした」
顔色が悪くなる、オジサン会とアニキ。
「でも、アニキと食事会をして、なんとなくですが、オジサンの気持ちがわかりました」
「食事会だとお?」という視線に晒されて、萎れるアニキ。
「それも、雪さんと出会ったからかもしれません」
皆の視線を集めた雪さんだが、「かもしれない」のせいか、不機嫌そうだった。
「祖父母も、両親も早くに亡くなりましたし、家族に縁がない、人にも縁がない、と思ってました」
でも、人に縁がないなら、「お出かけ三つの誓い」なんて、なかったはずだ。
そもそも、オヤジたちにも、出会ってたじゃないか。
「この部屋のお陰で、また家族に会えました。皆さんも、家族ですよね?」
うわ、僕、泣いてるのか?
「・・・オジサンに、一度会ってみたかったなあ」
オジサン会の人たちの目にも、涙が浮かぶ。
「お祝いに来てくれて、ありがとうございました。乾杯!」
『乾杯!』
あ、乾杯二回目だった。
「そういえば、お店の名前は?」
忍さんに聞かれた。
あれ?
一応、ボードとかにも書いてあったんだけど。
「MOONlight Nightです」
「それって、ウチといっしょでしょ!?」
「オヤジの許可は、もらいました」
どんなに寂しい夜でも、この店までの道が、月に照らされたように来られる店。
ある意味、暖簾分けだ。
オヤジを怒鳴りに行く、忍さん。
それをいなしながら、帰り支度を始めるオヤジ。
猫オバチャン夫婦も、これから戻って、店を開くのだ。
本当に、ありがたかった。
オジサン会も、名残惜しそうだが、約束通り、開店時間前に帰るようだ。
ただ、壱が居座りたそうにして、それを弐が嗜めていた。
あ!
「みなさーん、すみませーん! 帰る前に、写真撮らせてくださーい!」
開店して、初の写真を最近、増えてないボードに、プリントアウトして貼るのだ。
ぶつくさと言いながらも嬉しそうな壱、心底面倒くさそうなオヤジと忍さん。
それでもカウンター前に並んでもらって、カスミちゃんが雪さんを抱いてくれて、集合写真を撮った。
残ったのは、アニキ一家とタカチさんだけで、ようやくカスミちゃんに遊んでもらえて、雪さんが、飛び跳ねている。
そろそろ、開店時間だ。
とはいえ、お客様は、来るのだろうか?
『ぴんぽーん』
インターホンが鳴った。
「いらっしゃいませ。少々お待ちください」
猫と目が合ったので、猫がいるビア・バーを始めた。
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