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連合、まで

挽肉

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 よくある定番のつまみで好きなのは、ツクネだ。
 本当に美味しいツクネに出会う、と本当に嬉しい。
 焼いても揚げて餡かけも、鍋物も、肉も魚も好きだ。
 子供のころは、居酒屋に連れていってもらい、ツクネを分解して何が入っているか調べてから食べる、迷惑で嫌なガキだったが。
 ただ、自分の店で出す、となると問題なのは、どのタイプを選べばいいのかだ。
 柔らかい物もあれば、歯ごたえがある物、好みに対応できるか。
 更に、たくさんの注文があったら、提供に時間がかかりすぎる。
 無理かなあ。
 でも、熱々に噛り付いて食べて、ビールって、格別だからなあ。
 ツクネ一種類だけにすれば、まだ可能?
 調理時間がかからないように、汁物だけ?
 うーん。
 
 なんてことを、オヤジに話したところ。
「一度、専門店に行ってみたらどうだ」
 専門店?
「知らないのか?」
 「やれやれ」と首を振る。
(本当に、この仕草は、ムカつく)
 簡単に説明してしまえば、挽肉料理の専門店。
 その味は、簡単には説明できず、様々な料理があり、奥深いらしい。
 これは、一度食べてみなければ。
 
 店に入る前から、香ばしい匂いがしていた。
 店に入ると、「いらっしゃいませ」と品良く迎えられた。
 洋食レストランのような、落ち着いた雰囲気だ。
 火曜日定休の前日は、他の日より早くからやっているので、やってきたのだ。
「お料理は、最後がカレーライスの五品のコース一種類ですけど、それでよろしいですか?」
「はい、お願いします。あと生ビールも」
「かしこまりました。少々お待ちください」
 昼食と夕食の間の時間なのだが、結構混んでいた。
 この時間でコース料理が食べられる、というのがいいのだろう。
 そして、コースだと、提供も早い、と思っていたら、
「お待たせしました。生ビールと一品目の合い挽肉のミートボールです」
「いただきます」
 まずは、ビールを一口、ハイネケンかな。
 どうしても瓶だと、色が緑色なので日光臭がしてしまうのだけど、ケグ(樽)だと陽が通らないから安心だ。
 三つあるミートボールの一つを一口で、って何だこれ?
 ふわっふわなのに、中にカリカリしたものが。
 松の実なんかより、もっと強いカリカリ。
 ジャガリコ?
 砕いて入れても、調理中にシナシナになってしまわないか?
「お出しする直前に、裏から刺してるんですよ」
 僕が、呆然とした顔で、もぐもぐしていたせいか、教えてくれる。
 裏を見てみる、とシュークリームの裏に穴が開いているみたいに、確かに刺さっていた。
 こういう手もあるのか。
 肉がふわっふわで口の中ですぐ無くなりそうなのに、ジャガリコの歯ごたえで噛み締められるので、美味しさ長持ちだ。
 ビールが、グビグビ進む。
「二品目の豚挽肉のレタス包みです。できましたら、一口でどうぞ」
 よくあるレタス包みに比べる、と小ぶりで肉も少ない感じだろうか。
 噛み千切ると美しくないので、一口で食べるのは、望むところだ。
 肉部分の色から、ちょっと辛いのかな。
 三つあるレタス包みの一つを一口で、レタスの割合が多めなので、シャシャキ感がいい。
 具はチリ味で、大豆が混ざっているからチリビーンズになのか。
 ちょっと味が濃いのが、レタスの量に負けていない。
 ビールが、グビグビ進む。
 二つ目は、中の食感がった。
 豆が、違う?
 レンズ豆かな。
 ちょっとした違いなのだけど、変化があって飽きない。
 ビールが、グビグビ進む。
 三つ目は、辛味がチリではなく、麻婆だった。
 すでに、ビールは、一杯目ではない。
「三品目の鶏ひき肉のツクネ串です。タレと塩になります」
 では、まずは塩から。
 ミートボールとは違って、焼いた香ばしさがいい。
 少し固めで、噛み応えがある。
 一本目、二つ目のツクネを口に入れて、驚いた。
 柔らかさが違う。
 焼き鳥の先と根元で味つけの濃さが違うのは経験があるが、一串でツクネの柔らかさが違うのは、初めてだ。
 実はそんなに違っていないのかもしれないが、一つ目に比べて、とても柔らかく感じる。
 ふわ、っと消えたのを惜しんで、三つ目。
 もっと柔らかいのか、と思っていたら逆だった。
 最後が柔らかい、と物足りなさがあったかもしれないが、これだと満足感がある。
 ビールが、グビグビ進む。
「四品目の牛挽肉のオープンキャベツです。熱いので、お気をつけください」
 聞きなれない料理名だ。
 どうやら、キャベツと挽肉の重ね焼きのようだ。
 ロールしていないので、オープンなのだろう。
 ロールキャベツは美味しいけど、キャベツの旨味がスープに出てしまうのと、食べている最中の姿が美しくないのが、残念な料理だ。
 オープンキャベツは、四角く切られて、スープには浸かっていないから、美しくに食べられそうだ。
 一口食べて驚いた。
 どうにも頭がロールキャベツのイメージに捕らわれていたので、優しい味を想像していたのだが、凶暴なのだ。
 焼かれて水分が抜けたキャベツの味が濃い、それに負けない牛挽肉。
 あえての百パーセント牛だ。
 シンプルなのに、シンプルだからこそ、口で暴れまわる。
「ホースラディッシュも使ってみてください」
 ローストビーフによくついているが、強い調味料だから負けてしまわないだろうか。
 はい、牛百パーセントなので、ぜんぜん料理がホースラディッシュの辛味に勝ってるし、とても合います。
 ビールが、グビグビ進む。
「五品目、最後のキーマカレーになります」
 ちょっと小ぶりだが、食べ足りない場合は、無料でお代わりもできるそうだ。
 でも、これだけのコースの最後なので、十分な量だ。
 途中でカレー味が出てきてしまう、とすべてがカレーに駆逐されてしまって、後が台無しだが、シメなら満足感も強い。
 そういえば、店内はカレーの匂いがしない。
 どうやってるんだろうか?
 ただ、ハイネケンだと、カレーに負けてしまうけど、まあいっか。
 キーマカレーは、トロミのあるカレーソースと、挽肉がメインのドライカレー風の二種類が白い飯の上に乗っていた。
 トロミの方は、バターの風味がする甘口。
 ドライの方は、ちょっと辛口。
 別々に食べるのも、混ぜて食べるのも美味しい。
 すべてを駆逐するだけあって、カレーは単調になりがちなのに、変化できる。
 飯に合う、というかカレーソースに比べて足りないんじゃないか飯?
 ビールを呑み干した。
 はふうぅぅぅぅ、っと息をつく。
 顏を上げる、と店主が、ニコニコしていた。
「一種類のカレーだけでも、お代わり、できますよ?」
「生ビール、もう一杯ください」
 さて、飯を足してもらうのは確定にしても、どちらのカレーをどのくらいもらうのが正解ルートか、攻略法を考えなければ。
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