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贈物、まで

串物

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 よくある定番のつまみで好きなのは、焼き鳥だ。
 本当に美味しい焼き鳥に出会う、と本当に嬉しい。
 焼き鳥もやきとりも、やきとんも好きだ。
 子供のころは、焼き鳥屋に連れていってもらい、注文のたびに、「これ内臓のドコ?」と聞く、迷惑で嫌なガキだったが。
 ただ、自分の店で出すとなる、と問題なのは、焼く時間だ。
 ビール、他のつまみの注文などが入ったら、対応できるか。
 更に、たくさんの注文があったら、提供に時間がかかりすぎる。
 無理かなあ。
 でも、串から引き抜きながら食べて、ビールって、格別だからなあ。
 串揚げなら、まだ可能?
 揚げ時間に差があると難しいから、串カツのみ?
 うーん。

 なんてことを、オヤジに話したところ。
「串煮込みなら、提供の問題は少ないな」
 串煮込み?
「知らないのか?」
 「やれやれ」と首を振る。
(本当に、この仕草は、ムカつく)
 簡単に説明してしまえば、串に刺したモツでのモツ煮。
 その味は、簡単には説明できず、味噌仕立てで、モツの部位ごとに串の種類があり、奥深いらしい。
 これは、一度食べてみなければ。

 店に入る前から、ぷーんと味噌のいい匂いがした。
 店に入る、と「らっしゃい!」と景気いい声がした。
 日曜日は、少し早めに店が始まるので、やってきたら、もう常連らしき方々で、ほぼ満席状態だった。
 何名様? の声に、指を一本出す、とカウンターに案内された。
 失礼します、と隣席のお姉様に挨拶して座る。
 飲み物を聞かれて、なんとなく瓶ビールの気分だったので、お願いしたら、赤星だった。
 珍しいなあ。
 串煮込みのお任せ五本セットと、煮豆腐をお願いした。
 隣のお姉様が、僕の脇腹を突く。
「アキレス腱、絶対、アキレス腱!」
 ウェイトレスを見る、と苦笑しながらも頷いたので、追加した。
 お姉様が、グラスにビールを注いでくれたので、ありがたく頂戴した。
『乾杯!』
 お姉様のジョッキは、どピンクだ。
「これは、バイスサワー」
 僕の目線に気づいて、答えてくれて、
「梅の酢と書いて、バイスサワーなの」
 僕の顏が? になったので、更に教えてくれた。
「お待たせしました、串煮込みお任せ五本、煮豆腐、アキレス腱です」
 もう、料理がきた。
 待ってないです。
 早い!
 適温に近い状態でキープされているのだから、提供は早い。
 その分、どれだけ仕込みに、手間と時間がかかっているのだろう。
「食べて、熱いうちに食べて」
 お姉様が急かすが、猫舌の僕としては、慎重にいきたい。
「いただきます」
 手を合わせて、まず串を一本。
 これは、テッポウかな。
 肉厚で、肉の味が強い。
 味付けの味噌味が、濃厚で複雑だ。
 何種類、使っているのか、想像もつかない。
 次は、シロかな。
 脂が、にじみ出てくる。
 ビールが、グビグビ進む。
 ここで、煮豆腐。
 味が染みている。
 しかも、染みているのは、大量のモツと煮られている汁なのだ。
 更には、アキレス腱。
 このネットリした感触は、煮溶ける寸前の、絶妙さだ。
 すでに、ビールは、一本目ではない。
「お腹、空いてるの?」
 ガツガツと呑み食いしている僕に、お姉様が、聞いてきた。
 腹ペコって、わけではないけど、空いてはいるので、頷く。
「大将、焼きオニギリ茶漬け頂戴。裏の方ね」
「あいよ!」
 裏の方?
 大将が、炭火でオニギリを焼き始めた。
 しかし、タレとか味噌とかをつける様子はない。
 焼きあがったそれを器に入れ、串煮込みの汁を注ぐ。
 揉み海苔に、ワサビを添えて、
「裏メニューの方の焼きオニギリ茶漬け、お待ち!」
 これ、絶対、美味しいヤツだ。
 裏の方って、裏メニューのことか。
 常連なんだな。
 お姉様の前に置かれたそれが、横スライドで僕の前に置かれた。
「食べて、食べて」
 いやいや。
「おごり、おごり」
 それは、申し訳ないし、お出かけ三つの誓いの一つを破ることになる。
 しかし、
「オンナに恥かかせないでね」
 と、まで言われた。
 しかも、この料理は、賞味期限が短いだろうから、口をつけないのは、逆に失礼だ。
 この料理のためなのだ、致し方ない。
 焼きオニギリの端を箸で切り、口に入れる。
 カリッとした食感がいい。
 器に残った、切り取った白い断面に、茶色い汁が染みていく。
 ちょっと潤びたオニギリを箸で崩して、汁ごとかき込む。
 海苔の風味と、甘い汁に、ワサビが合う。
 肉成分を追加したくて、串を取る。
 これは、ハチノスかな。
 肉を噛み締めながら飯、ちょっとワサビ多め。
 ビールを呑み干した。
 はふうぅぅぅぅ、っと息をつく。
 まだ、串もつまみも、オニギリ茶漬けも残ってる。
 顏を上げる、とお姉様が、ニヤニヤしていた。
「瓶ビール、もう一本ください」
 さて、どれから食べるのが正解ルートか、攻略法を考えなければ。
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