【完結】cat typing ～猫と麦酒～第10回ドリーム小説大賞奨励賞

葉書、まで

三缶

　雪さんのご飯は、基本的にドライ・フードだ。
　初めは、量を計って朝晩あげていたが、食べる量を自分でコントロールしているみたいなので、朝にまとめてあげている。
　彼女は、猫分けをして、食べたいときに食べている。
　夕方、あまりに減っていたら、足すこともあるけど、まずそんなことはない。
　僕の休日などには、缶詰もあげている。
　その缶詰を買いにきて、気がついた。
　総合食と一般食がある！？
　どうやら、総合食は、猫にとっての必要な栄養素がすべて入っている栄養バランス弁当。
　一般食は、一部の栄養素が足りない、惣菜セットのようなモノらしい。
　よく買っている缶詰を見ると、総合食だった。
　ドライ・フードがメインなので、たまの一食くらい、惣菜でもいいのだけど、知ってて与えているのと、知らないのでは、大違いだ。
　ぜひ、売り場に大きく掲示していただきたい。
　缶詰オンリーで、一般食とか、目も当てられない。
　って、僕が無知なだけなのだろうか？
　でも、そういう目で見る、と値段の違いがよくわかった。
　一般食には、安いモノもある。
　雪さんにも、たまには弁当缶詰でなく、惣菜缶詰でもいいかもしれない。
　一度、試しに安いのを買ってみよう。
　つまみを選んでいて思うけど、惣菜ってチープでジャンクなのが、欲しくなることあるよね？
　この三缶パックのなんて、どうだろう。
　三缶パック、で何かが脳裏をかすめたが、気にせずに買った。

　結論から言おう。
　雪さんは、一口だけ食べて、食べ残しの上に、吐いた。
　缶詰を開けたときから、ちょっと嫌な予感はしたのだ。
　開けた音で、走ってきた後、雪さんはあまり騒がなかった。
　中身も、今までのは、具材の形がわかって、醤油かけたら美味しいんじゃないの、と思えたのに、どピンク色のペーストだった。
　器に移す、とベタついた感じが微妙だった。
　ぐるぐるぐる、と器の周りを警戒して回る雪さん。
　しばらく、臭いを嗅ぎ、臭いを嗅ぎ、臭いを嗅ぎして、一口食べた。
　動きが止まり、吐いた。
　「こんなん喰えるかー！」とばかりに、器の中に豪快に吐く。
　ぎろり、とこちらを向く。
　僕は、土下座した。

　まだ残っていた、いつもの缶詰を出し、戸棚に安い缶詰の残りを、とりあえずしまった。
　その隣に、ツナ缶三缶パックセットの残り二つがあったが、見ないふりをして、閉めた。