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葉書、まで
遠征
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南部市場は、駅から車で五分ちょっと、と果物屋の店主からの情報で、歩いてみることにした。
こっちだろう、と思われる方向へ歩きながら、スマホのアプリに道案内を頼む、と予想外の距離が表示された。
これを車で五分で走るって、どれだけ暴走特急なの、果物屋店主のお婆さん!?
この時間から、この距離を歩く、と開場時間は終わってしまうだろうが、まあいい。
お天気もいいので、ぷらぷらと歩く。
こういうのも久しぶりだな、と思いながら、市役所を探して、雪さんに出会った譲渡会の時以来かも。
譲渡会といえば、雪さんの時の会にも、挨拶に行かないとだなあ。
あちらの会場の方が、距離的には近いのだけど、いつも利用しない駅で降りないとなので、機会がない。
予想以上に、ゆっくり歩いたらしく、予想通りに、物販の営業は終了していた。
でも、まだ門から入れるので覗いてみる、と食堂は営業中のようだ。
せっかく来たのだから、食事して行こう。
寿司屋、定食屋、ラーメン屋と、いろいろとある。
市場だけあって、生モノが、ウリの店が多いようだ。
その中で、つまみのヒントがあれば、と思って敢えてイタリアンの店を選んだ。
頼んだメニューは、本日のお勧めガレットで、生地はソバ粉で、具がサバ。
イタリアで一番古いビールであるモレッティがあったので、これも頼む。
結構、歩いたので、先にビールが来るとすぐ飲んだ上、何杯もお代わりする自信があり、そうすると同じ距離を帰られる自信がないので、料理と同じタイミングでお願いする。
運ばれてきたのは、丸く茶色に焼いたガレットの端を畳んで四角くし、ルッコラ、水菜、トマトなどが山盛りになっている。
メインの具であろうサバは見えない。
思っていた以上の盛りに、まずモレッティを一口、でも、どうやって食べたらいいんだろう?
今まで食べたことのあるガレットは、ナイフとフォークでだったけど、そういう雰囲気ではない。
ウェイトレスに、救いの目を向けると、
「豪快に、手で掴んでいっちゃってください」
では、お言葉通りに、
「いただきます」
合わせた後の手で、半分に畳んで、口にねじ込む。
まず感じたのは、レモンの酸味と爽やかさ。
野菜を和えたドレッシングだろうか。
そして、ガレットのカリカリ感を上回るサバ。
ムニエルよりは、揚げ焼きに近い香ばしさとバジルのソース。
あっという間に、半分くらいがビールと共に消えた。
これでは、すぐ食べ終わってしまう、と皿に添えてあったポテサラで、一息つこうとして、止まる。
予想外に、燻製の強い香りのする固い食感が混じっていた。
燻りガッコよりも、チップの甘さを感じる薫香。
「このポテサラって、追加注文できるんですか?」
聞く、とウェイトレスは、ニヤリと笑って、メニューの一品料理の場所を指した。
結局、ペロー二、メッシーナまで、飲んでしまった。
昼食を終えたばかり、だというのに、今度あの店に次行ったら何食べようかが、楽しみだった。
とても参考になる店だった。
ガレットは、仕込みで生地を少量作っておけば、定番のつまみにもできそうだ。
でも、印象深い具を考えるのは、難しい。
いっそ、生地のカリカリ感とソースだけとか。
うーん。
いい気持ちで、フラフラと歩く。
でも、平日昼間だ。
酔って歩いていては、職質案件もしくは人生の先達に説教されてしまう。
ちょっと気分を落ち着けよう、と目に入った小さな古本屋に入った。
最近増えた、チェーンの古本屋とは違う、いい意味での澱んだ空気。
古本は、作者に著作権料が入らないので、基本的に買わない。
でも、既に絶版となり書店で手に入らないモノならば、迷わず買う。
「・・・都立高校独立国って、実在してたんだ」
ウィキペディアの著作リストでしか見たことのない本があった。
また、なぜか市立図書館に収蔵されていて読めはしたけど、入手が難しい本が・・・
いくらだ、これ?
本に印刷された定価とは別に、販売価格の表示がない。
怖い怖い。
「すみません」
僕が、店に入ってから一瞬も手元の本から目を上げなかった店主らしい老人に、声をかけたが、返事がない。
声が小さかったかな?
「あのー?」
「聞こえてる」
視線は本のまま。
「このお店の本の値段って、どうなってるんですか?」
「書いてあるだろ。本買ったことないのか?」
表紙裏表紙表紙の裏裏表紙の裏(表一から四)、更にその向かいのページ、ついでに表紙カバーを剥いでみたが、値札は見つからなかった。
「定価しか書いてないんですけど?」
「不満なら買うな」
もしかして、古本を定価で販売している?
「安すぎないですか?」
その生涯で、読めなかったかもしれない本を、定価で読めるなんて。
初めて、本から目を上げて、
「高かろうが、安かろうが、読みたい奴のトコに、本は来るんだよ」
なんだか、怖い言葉だ。
「これ、買います」
昔、小遣いが足りなくて買えなかった本も合わせて、何冊か買う。
とりあえず、一刻も早く読みたいので、むき出しのまま、紙袋にも入れずに渡されたのは、時間がかからなくて、逆によかった。
出口に向かって、入ったときには気づかなかった、ドアの内側に貼られた紙。
それには、人気がありすぎて予約もできず、数日前に並んでも購入が難しいという、「明日」新発売のゲーム機の名と、定価が書かれていた。
僕は三回、紙を読み直して、店主を振り返る、と聞いた。
「これ今、買えるんですか?」
「あるよ」
もし、「ネクロノミコンの原書ある?」と聞いても同じ答えが返ってきそうで、
「・・・修行して出直します」
と、明るい世界に逃げ出した。
こっちだろう、と思われる方向へ歩きながら、スマホのアプリに道案内を頼む、と予想外の距離が表示された。
これを車で五分で走るって、どれだけ暴走特急なの、果物屋店主のお婆さん!?
この時間から、この距離を歩く、と開場時間は終わってしまうだろうが、まあいい。
お天気もいいので、ぷらぷらと歩く。
こういうのも久しぶりだな、と思いながら、市役所を探して、雪さんに出会った譲渡会の時以来かも。
譲渡会といえば、雪さんの時の会にも、挨拶に行かないとだなあ。
あちらの会場の方が、距離的には近いのだけど、いつも利用しない駅で降りないとなので、機会がない。
予想以上に、ゆっくり歩いたらしく、予想通りに、物販の営業は終了していた。
でも、まだ門から入れるので覗いてみる、と食堂は営業中のようだ。
せっかく来たのだから、食事して行こう。
寿司屋、定食屋、ラーメン屋と、いろいろとある。
市場だけあって、生モノが、ウリの店が多いようだ。
その中で、つまみのヒントがあれば、と思って敢えてイタリアンの店を選んだ。
頼んだメニューは、本日のお勧めガレットで、生地はソバ粉で、具がサバ。
イタリアで一番古いビールであるモレッティがあったので、これも頼む。
結構、歩いたので、先にビールが来るとすぐ飲んだ上、何杯もお代わりする自信があり、そうすると同じ距離を帰られる自信がないので、料理と同じタイミングでお願いする。
運ばれてきたのは、丸く茶色に焼いたガレットの端を畳んで四角くし、ルッコラ、水菜、トマトなどが山盛りになっている。
メインの具であろうサバは見えない。
思っていた以上の盛りに、まずモレッティを一口、でも、どうやって食べたらいいんだろう?
今まで食べたことのあるガレットは、ナイフとフォークでだったけど、そういう雰囲気ではない。
ウェイトレスに、救いの目を向けると、
「豪快に、手で掴んでいっちゃってください」
では、お言葉通りに、
「いただきます」
合わせた後の手で、半分に畳んで、口にねじ込む。
まず感じたのは、レモンの酸味と爽やかさ。
野菜を和えたドレッシングだろうか。
そして、ガレットのカリカリ感を上回るサバ。
ムニエルよりは、揚げ焼きに近い香ばしさとバジルのソース。
あっという間に、半分くらいがビールと共に消えた。
これでは、すぐ食べ終わってしまう、と皿に添えてあったポテサラで、一息つこうとして、止まる。
予想外に、燻製の強い香りのする固い食感が混じっていた。
燻りガッコよりも、チップの甘さを感じる薫香。
「このポテサラって、追加注文できるんですか?」
聞く、とウェイトレスは、ニヤリと笑って、メニューの一品料理の場所を指した。
結局、ペロー二、メッシーナまで、飲んでしまった。
昼食を終えたばかり、だというのに、今度あの店に次行ったら何食べようかが、楽しみだった。
とても参考になる店だった。
ガレットは、仕込みで生地を少量作っておけば、定番のつまみにもできそうだ。
でも、印象深い具を考えるのは、難しい。
いっそ、生地のカリカリ感とソースだけとか。
うーん。
いい気持ちで、フラフラと歩く。
でも、平日昼間だ。
酔って歩いていては、職質案件もしくは人生の先達に説教されてしまう。
ちょっと気分を落ち着けよう、と目に入った小さな古本屋に入った。
最近増えた、チェーンの古本屋とは違う、いい意味での澱んだ空気。
古本は、作者に著作権料が入らないので、基本的に買わない。
でも、既に絶版となり書店で手に入らないモノならば、迷わず買う。
「・・・都立高校独立国って、実在してたんだ」
ウィキペディアの著作リストでしか見たことのない本があった。
また、なぜか市立図書館に収蔵されていて読めはしたけど、入手が難しい本が・・・
いくらだ、これ?
本に印刷された定価とは別に、販売価格の表示がない。
怖い怖い。
「すみません」
僕が、店に入ってから一瞬も手元の本から目を上げなかった店主らしい老人に、声をかけたが、返事がない。
声が小さかったかな?
「あのー?」
「聞こえてる」
視線は本のまま。
「このお店の本の値段って、どうなってるんですか?」
「書いてあるだろ。本買ったことないのか?」
表紙裏表紙表紙の裏裏表紙の裏(表一から四)、更にその向かいのページ、ついでに表紙カバーを剥いでみたが、値札は見つからなかった。
「定価しか書いてないんですけど?」
「不満なら買うな」
もしかして、古本を定価で販売している?
「安すぎないですか?」
その生涯で、読めなかったかもしれない本を、定価で読めるなんて。
初めて、本から目を上げて、
「高かろうが、安かろうが、読みたい奴のトコに、本は来るんだよ」
なんだか、怖い言葉だ。
「これ、買います」
昔、小遣いが足りなくて買えなかった本も合わせて、何冊か買う。
とりあえず、一刻も早く読みたいので、むき出しのまま、紙袋にも入れずに渡されたのは、時間がかからなくて、逆によかった。
出口に向かって、入ったときには気づかなかった、ドアの内側に貼られた紙。
それには、人気がありすぎて予約もできず、数日前に並んでも購入が難しいという、「明日」新発売のゲーム機の名と、定価が書かれていた。
僕は三回、紙を読み直して、店主を振り返る、と聞いた。
「これ今、買えるんですか?」
「あるよ」
もし、「ネクロノミコンの原書ある?」と聞いても同じ答えが返ってきそうで、
「・・・修行して出直します」
と、明るい世界に逃げ出した。
応援ありがとうございます!
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