40 / 120
親離、まで
里子
しおりを挟む
「・・・カレンダー、五百円になります」
譲渡会の日がきた。
僕は、カスミちゃん(アニキ付)と手伝いに来ていた。
猫オバチャンは、遅れてくると事前に聞いていたので、彼女の旦那さんと待ち合わせた。
会場は公園の一角を借りた、野外だ。
そこに、キャンプ用のテーブルなどを並べ、ケージを上に置く。
ケージは、毛布などで包まれ、目隠し兼、防寒になっている。
ケージの中には、お湯を入れたペットボトルを入れ、小まめに温度が管理されていた。
この会場での譲渡会は、毎月のことなので、誰の指示がなくても団体の人が、作業をしていくので、とりあえず力仕事を率先してやった。
カスミちゃん(とアニキ)は、ケージに中の猫の写真と特長を書いたカードを取り付けていく。
里親希望者は、自由にケージを見て歩き、カードを読み、気になる猫がいたら、団体の人を呼び、譲渡条件など、細かい説明を聞く。
僕は、そういう説明はできないので、ペットボトルに入れるお湯を沸かすための、水を運んだりした。
カスミちゃん(とアニキ)は、物販コーナーで、カレンダーなどを売っている。
この収益は、そのまま団体で活用されるので、僕も買っていた。
ちなみに、カレンダーは、様々な人の協力で、ほぼ原材料費くらいの納入価らしい。
協力と言えば、雪さんを連れて行った病院の中年坊主頭の獣医師が、ボランティアに来ていた。
近隣の獣医師が持ち回りで、猫の健康管理に来ているらしく、今回たまたま彼の番だったようだ。
病院、(もちろん病気の動物がいないに越したことはないけど)混むといいね。
「勉強しにきました」
「わざわざ、ありがとうございます」
ジムのコーチ、百田さんがいっしょに住んでいる妹さんを連れて、見学にきた。
妹さんは、カスミちゃんに似た雰囲気で、大学生だ。
そして兄に、「猫飼いたい」と繰り返し訴えていた。
これを聞きつけ、カスミちゃんもアニキに再び「猫飼いたい」と哀願しだす。
二人は、団体の人に、「飼いたい」ではなく、「飼えるのか」を本当に考えてあげてほしい、と諭されていた。
諦めた女子二人は意気投合し仲良くなり、保護者二人は疲れきった笑みを交わしていた。
「おつかれさまー」
お昼近くになり、猫オバチャンが現れた。
今回は、店の関係で、早くからこられない分、昼食係を買って出たらしい。
猫たちも疲れるので、あと一時間くらいで、終了だ。
黒ブチ子の一匹は、譲渡会の前に、サトミさんの家に引き取られていた。
もう一匹は、先ほど、三匹目を探しにきた、というベテラン(この団体の知り合いでもある)に引き取られることが、決まった。
残りの一匹は、問い合わせはあるものの、里親の条件を満たした家族には、まだ出会えていなかった。
「・・・のこっちゃうのかな」
「でもまあ、来週もあるしねー」
カスミちゃんの呟きに、自分で差し入れたオニギリを囓りながら、猫オバチャンが答えた。
え?
来週?
ここでの譲渡会は、月一回では?
「ここでは、ねー。別の場所ー、全部で四会場で、毎週やってるのよー」
それは、初耳だ。
それならば、もう一匹の行き先が決まるまで、お手伝いをしよう。
「ほらー、言うと、そういう顔するでしょー?」
僕に、カスミちゃんの方を見ろ、と顔を向ける。
そこではカスミちゃんが、来週も手伝いたい、とアニキに訴えていた。
「何のために、今日手伝ったのー? 義務感ー?」
それもあるけど、それだけではない。
「三匹とも里親が決まったら、もう終了ー?」
それは・・・
「ごめんねー。責めてるんじゃないのー。感謝してるのよー」
でも、と続ける。
「猫に幸せになってほしいのかー、自分が納得したいだけなのか、よーく考えてみてー」
今日、最後の子猫は、里親が決まらなかった。
条件を満たさない家では、猫が不幸になるのは、わかっているが、複雑な気持ちだ。
これでは、自分が納得したいだけ、と言われても仕方ない。
カスミちゃんは、猫オバチャンを始め、団体の人らと話し合い、来週の会場がアニキの家に近いこともあって、手伝うことに決まった。
後片付けも終わったので、カスミちゃん(とアニキ)を部屋に誘ったが、断られた。
「・・・勉強する」
今日、そして来週も譲渡会を手伝う分、やることをやるために、帰るという。
そうか、やること、やらないと、だよね。
「おつかれさまー」
帰り際、猫オバチャンに、来週どうする、と聞かれた僕は、来週は仕事をする、と答えた。
一人寂しく帰った僕は、学習していなかった。
確かに、猫には触れていない。
しかし、ケージを持ったり、たくさんの猫の側にいたのだ。
雪さんは、僕を汚いもののように、側で砂をかく仕草を止めなかった。
僕は、ポスターに四会場の場所、第何週に行うかを追記して四枚、印刷した。
二枚は店の表と裏、一枚はビルの塀、もう一枚は、ジムに持参して、厚かましくも百田さんにお願いした。
塀のポスターを見た保育士の菊池さんが、保育園に。
ジムのポスターを見た、ジムが入っている商業ビルの偉い人が、半年間限定で掲示板に貼ってくれることとなった。
前回に比べて、二枚だけどポスターが増えた。
店で仕込みをしている、とスマホにアニキから着信。
いつもなら、メールで通話可能かのやりとりがあってから電話なので、意外に思いながら出た。
「もしもし?」
「・・・もしもし、こんにちは」
アニキのスマホから、カスミちゃんだ。
アニキにトラブルか?
何があった?
「どうしたの!?」
「・・・茶トラの子猫、里親決まりました」
ああ、決まったんだ。
なんとなく、今日は無理だろう、と思いこんでいたのだ。
「よかった。お疲れ様」
「・・・お父さんに代わります」
え?
もう僕との会話終了?
アニキ報告によると、会場近くの老夫婦が引き取ってくれるらしい。
高齢なのが問題になったが、同居の息子兄弟が呼び出されて同意したことで、話がほぼ決まった。
カスミちゃんは、(今日の譲渡会会場が)家の近所のこともあって、老夫婦と仲良くなり、遊びに来てもいいと言われているそうだ。
「あの引っ込み思案の子が・・・。なんだか子育てが一段落した気分です」
鼻声のアニキに礼を言って、僕は電話を切った。.
譲渡会の日がきた。
僕は、カスミちゃん(アニキ付)と手伝いに来ていた。
猫オバチャンは、遅れてくると事前に聞いていたので、彼女の旦那さんと待ち合わせた。
会場は公園の一角を借りた、野外だ。
そこに、キャンプ用のテーブルなどを並べ、ケージを上に置く。
ケージは、毛布などで包まれ、目隠し兼、防寒になっている。
ケージの中には、お湯を入れたペットボトルを入れ、小まめに温度が管理されていた。
この会場での譲渡会は、毎月のことなので、誰の指示がなくても団体の人が、作業をしていくので、とりあえず力仕事を率先してやった。
カスミちゃん(とアニキ)は、ケージに中の猫の写真と特長を書いたカードを取り付けていく。
里親希望者は、自由にケージを見て歩き、カードを読み、気になる猫がいたら、団体の人を呼び、譲渡条件など、細かい説明を聞く。
僕は、そういう説明はできないので、ペットボトルに入れるお湯を沸かすための、水を運んだりした。
カスミちゃん(とアニキ)は、物販コーナーで、カレンダーなどを売っている。
この収益は、そのまま団体で活用されるので、僕も買っていた。
ちなみに、カレンダーは、様々な人の協力で、ほぼ原材料費くらいの納入価らしい。
協力と言えば、雪さんを連れて行った病院の中年坊主頭の獣医師が、ボランティアに来ていた。
近隣の獣医師が持ち回りで、猫の健康管理に来ているらしく、今回たまたま彼の番だったようだ。
病院、(もちろん病気の動物がいないに越したことはないけど)混むといいね。
「勉強しにきました」
「わざわざ、ありがとうございます」
ジムのコーチ、百田さんがいっしょに住んでいる妹さんを連れて、見学にきた。
妹さんは、カスミちゃんに似た雰囲気で、大学生だ。
そして兄に、「猫飼いたい」と繰り返し訴えていた。
これを聞きつけ、カスミちゃんもアニキに再び「猫飼いたい」と哀願しだす。
二人は、団体の人に、「飼いたい」ではなく、「飼えるのか」を本当に考えてあげてほしい、と諭されていた。
諦めた女子二人は意気投合し仲良くなり、保護者二人は疲れきった笑みを交わしていた。
「おつかれさまー」
お昼近くになり、猫オバチャンが現れた。
今回は、店の関係で、早くからこられない分、昼食係を買って出たらしい。
猫たちも疲れるので、あと一時間くらいで、終了だ。
黒ブチ子の一匹は、譲渡会の前に、サトミさんの家に引き取られていた。
もう一匹は、先ほど、三匹目を探しにきた、というベテラン(この団体の知り合いでもある)に引き取られることが、決まった。
残りの一匹は、問い合わせはあるものの、里親の条件を満たした家族には、まだ出会えていなかった。
「・・・のこっちゃうのかな」
「でもまあ、来週もあるしねー」
カスミちゃんの呟きに、自分で差し入れたオニギリを囓りながら、猫オバチャンが答えた。
え?
来週?
ここでの譲渡会は、月一回では?
「ここでは、ねー。別の場所ー、全部で四会場で、毎週やってるのよー」
それは、初耳だ。
それならば、もう一匹の行き先が決まるまで、お手伝いをしよう。
「ほらー、言うと、そういう顔するでしょー?」
僕に、カスミちゃんの方を見ろ、と顔を向ける。
そこではカスミちゃんが、来週も手伝いたい、とアニキに訴えていた。
「何のために、今日手伝ったのー? 義務感ー?」
それもあるけど、それだけではない。
「三匹とも里親が決まったら、もう終了ー?」
それは・・・
「ごめんねー。責めてるんじゃないのー。感謝してるのよー」
でも、と続ける。
「猫に幸せになってほしいのかー、自分が納得したいだけなのか、よーく考えてみてー」
今日、最後の子猫は、里親が決まらなかった。
条件を満たさない家では、猫が不幸になるのは、わかっているが、複雑な気持ちだ。
これでは、自分が納得したいだけ、と言われても仕方ない。
カスミちゃんは、猫オバチャンを始め、団体の人らと話し合い、来週の会場がアニキの家に近いこともあって、手伝うことに決まった。
後片付けも終わったので、カスミちゃん(とアニキ)を部屋に誘ったが、断られた。
「・・・勉強する」
今日、そして来週も譲渡会を手伝う分、やることをやるために、帰るという。
そうか、やること、やらないと、だよね。
「おつかれさまー」
帰り際、猫オバチャンに、来週どうする、と聞かれた僕は、来週は仕事をする、と答えた。
一人寂しく帰った僕は、学習していなかった。
確かに、猫には触れていない。
しかし、ケージを持ったり、たくさんの猫の側にいたのだ。
雪さんは、僕を汚いもののように、側で砂をかく仕草を止めなかった。
僕は、ポスターに四会場の場所、第何週に行うかを追記して四枚、印刷した。
二枚は店の表と裏、一枚はビルの塀、もう一枚は、ジムに持参して、厚かましくも百田さんにお願いした。
塀のポスターを見た保育士の菊池さんが、保育園に。
ジムのポスターを見た、ジムが入っている商業ビルの偉い人が、半年間限定で掲示板に貼ってくれることとなった。
前回に比べて、二枚だけどポスターが増えた。
店で仕込みをしている、とスマホにアニキから着信。
いつもなら、メールで通話可能かのやりとりがあってから電話なので、意外に思いながら出た。
「もしもし?」
「・・・もしもし、こんにちは」
アニキのスマホから、カスミちゃんだ。
アニキにトラブルか?
何があった?
「どうしたの!?」
「・・・茶トラの子猫、里親決まりました」
ああ、決まったんだ。
なんとなく、今日は無理だろう、と思いこんでいたのだ。
「よかった。お疲れ様」
「・・・お父さんに代わります」
え?
もう僕との会話終了?
アニキ報告によると、会場近くの老夫婦が引き取ってくれるらしい。
高齢なのが問題になったが、同居の息子兄弟が呼び出されて同意したことで、話がほぼ決まった。
カスミちゃんは、(今日の譲渡会会場が)家の近所のこともあって、老夫婦と仲良くなり、遊びに来てもいいと言われているそうだ。
「あの引っ込み思案の子が・・・。なんだか子育てが一段落した気分です」
鼻声のアニキに礼を言って、僕は電話を切った。.
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
46
1 / 4
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる