【完結】cat typing ~猫と麦酒~第10回ドリーム小説大賞奨励賞

まみ夜

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番外編:秋

秋のスポーツ

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※トレーニングの描写などは意図的な演出であり、実際とは異なりますのでご注意ください。

 月曜日の午前中に、ジムにやってきた。
 ここのところ、月曜は祝日なことが多く、ようやくデザートメニューも落ち着いてきたこともあって、祝日も喫茶タイムを始めた。
 となれば、ありがたいことにランチの要望も出て、以前は祝日前夜は盛況だけど、当日の売り上げはサッパリだったのが、それなりの数字が出せている。
 なので、平日の月曜日にジムに来るのは、久しぶりなのだ。
 正直に言う、とジムに来るのが、久しぶりだ。
 夏の暑さにやられて、外に出るのが億劫になり一度、足が遠のく、と通う習慣がなくなってしまったのだ。
 たしか、初心者向けのバーベルをつかった筋トレのレッスンがあったので、己をそこに叩き込もう、と固い決意でやって来ていたのだ。
 のだけど、四半期ごとに変わるレッスンプログラムは、九十九コーチによる格闘技系のエクササイズに代わってしまっていた。
 まあ、久しぶりだから、マシンで筋トレの慣らし運転でいいか、と即日和って、そちらに足を向けたら、肩を掴まれた。
 振り返ったら、菊池さんがいた。
 いや、修羅になりかけ、がいた。
 もちろん、服装はTシャツ短パン、スパッツ、と普通のウェアなのだけど、なんとなく袖を引きちぎったボロボロの柔道着の雰囲気なのだ。
「今日は、お仕事では?」
「土曜日がお遊戯会だったから、今日は代休」
 運動会のように、ビデオに映らない暗黒舞踏ダンスを披露していなければいいのだけど。
「それはお疲れ様でした。最近、土曜日は来られないので、存じあげませんでした」
 彼女の雰囲気に、なんとなく敬語になってしまう。
「お師さんに、鍛えてもらっているから」
 お師さん?
「やあ、来たね」
 どーれー、といった感じで、九十九コーチが現れた。
「じゃあ、僕はマシンで」
 素早く逃げよう、としたが、肩が掴まれたままで、動けない。
 なんて、握力だ。
 今度、パウンドケーキに入れるクルミの殻を割ってもらおう、じゃなくて。
 現実逃避している隙に、逆の肩を九十九コーチに掴まれた。
「レッスン、出るんでしょ?」
「いやいや、初心者マークついてないんで、無理ですって」
 それを聞きつけたご常連方が、
「コーチ優しいから、大丈夫」
「ストレス解消になるよ」
「とりあえずマネして動けばいいから」
「孫に相手ができなくてねえ」
 違う部品が混ざっているけど、取り囲まれて、レッスンスタジオに連行された。
「いざ歩まん、修羅の道を!」
 元菊池さんが、何か叫んでいるが絶対、違う。

「それでは、コンバット・エクササイズのレッスンを始めます。初めての方?」
 視線が集まる中、僕一人が渋々、手を挙げた。
「ようこそ!コンバットへ!」
 盛大な拍手が起こる。
 もう、嫌な予感しかしない。
「格闘技の動きを使って行うサーキット・トレーニングです。動きを指示していきますので、繰り返してください」
 ふむふむ。
「格闘技ですので、自分が敵のどこを狙っているのか、敵のどんな攻撃を避けているのか、意識して行ってください」
 同じパンチでも、ただ打つのでなく、相手を想像するのか。
 ちょっと楽しそうだ。
 そのとき、周囲の呟きが耳に入った。
「鬼嫁が」
「クレーマーのくせに」
「くそババアめ」
 え?
 そういう具体的な仮想敵?
「アップから始めます。まずは、左足を前にしたコンバット・ポジション」
 九十九コーチのマネをして、足を前後に開いて、上半身が軽く右を向いたボクシングのような構え。
「体重は前後に均等に。脇を締め、背中を軽く丸めて、拳で顎、肘で脇腹をガード。腹筋を締めて上体を起こす」
 これだけで結構、慣れない身にはキツい。
 音楽がかかる。
 テンポが早い。
 映画とかで視た、少林寺の広場での集団練習ぐらいか、と思っていたけど、それより早そう。
 ついていけるか?
「レディー?」
『サーイエッサー!』
 そこには、一個の兵団があった。

「ジャブ、ジャブ、フック、ストレート。イメージは、ジャブで追い詰めてフックで動けなくなったところへ、体重を乗せたフィニッシュブロー!」
『サーイエッサー!』
「ガードが下がっていませんか?カウンターされないように!」
『サーイエッサー!』

「バックキック、フロントキック、ジャンプキック、バックブロー。後ろの敵をキックで牽制して、前の敵にキックで止め。後ろから近づいてきた顎を狙って裏拳!」
『サーイエッサー!』
「裏拳の前にちゃんとガードできてますか?後ろに打てるように、ベタ足ならない!」
『サーイエッサー!』

「バックエスケープ、ローキック、ニーキック、エルボー。片足を引いて足への蹴りを避けて逆にその足を蹴り折りながら前へ出て腹に膝。接近戦で肘で顎にアッパー!」
『サーイエッサー!』
「敵に密着してますよ?上体、起こす!」
『サーイエッサー!』

「ジャンプ、ジャンプ、パワーキック、サイドステップ。足払いをジャンプで避けながら半身は捻って敵の方を向く。背中側は壁だから下がれないので、正面の敵の腹に吹き飛ばすキック。その隙に敵の横に半円を描くように移動!」
『サーイエッサー!』
「足払い避けられてますか?太腿を高く、視線は敵へ!」
『サーイエッサー!』

「ストレート連打、レベルツー。引くのを意識して、パンチをあと三センチ前へ!」
『サーイエッサー!』
「あと三十秒、ターゲットは顎!」
『サーイエッサー!』
「四、三。右手を挙げて、フィニッシュ!」
『ヤー!』

「どうだった?」
 憑き物が落ちたような菊池さんに聞かれたが、新兵見習い以下の僕は、へとへとで、碌に返事ができなかった。
 物凄い汗で、シャワーの最中に、我慢できずにガブガブ水を飲んだ。
 月曜日に来るなら、午後にしよう。

 ダイエットが順調のご褒美、とのことで九十九さんと菊池さんが、お店に来た。
 もちろん菊池さんが、九十九さんがジムに来ない曜日を狙って来ていたことは、内緒にできるくらい僕は、大人だ。
 一応、控えめにしていたしね。
 そして、昼間にちょっと話題になった、保育園のお遊戯会の動画をスマホで視せてもらった。
 それは、劇で園児が誰もやりたがらなくて仕方なくやった、菊池さん演ずる山姥が出た瞬間に会場が阿鼻叫喚となり、画面が斜めになって途切れていた。
 たまにテレビでやっている、映ってしまった系の画像のようだった。
 僕は、画面を通して、初めて殺気、というヤツを感じ、猫たちも寝室へ向かって逃げていっていた。
 最近、保育園で乱暴だった子が大人しくなった、と聞いても、それが良いことか、わからなかった。
 ただし、画像のせいかはわからないが、本日の売り上げが、とても少なかったことは確かだった。


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番外編の解説(作者の気まぐれ自己満足と忘備録的な)

「秋の」とあったら(以下略)

はい、スポーツの秋です。
(開き直った)

前回ランチのオチをダイエットにしたため、伏線回収のお話です。
(自分が減量期だから、ストレスぶつけてるだけだろ?)
(いやいや、伏線の回収は大事ですよ?)

前回、お腹が減るように書いたので、今回は運動したくなるように書こう、との発想ではございません。
逆に、トレーニングに、特に集団で取り組んでいる姿って、客観的に見たら、若干引くよね、という発想です。
(ヨガのコーチが、カーディオ系レッスン見て、楽しそうだったけどな?)
(15秒の休憩時間に外見たら、笑顔のヨガコーチ見えて、早くこれ終わってヨガになってほしい、って願望からの幻視かとビビりましたよ?)
(いろいろ見えてもおかしくないよな、あのレッスン?)
(まあ、あれ外から見て、やろう、と思うのも大概だよな?)
(それに自分から参加しているのが言っても説得力がねえ?)

というか、食べ物ネタかジムばっかりで大丈夫か、って気もしますが。
まあ、そもそも続くかどうかがわからないのが、番外編の醍醐味ですよね?

また、機会がありましたら、このお店にお付き合いくださいませ。
(辛うじて、店出たな)
(しばらくお店ばっかりだったから、意図的)
(最近好きだな、意図的)
(意図的に書いてるんだけどね)
(恋愛小説とカブらなかったな、ダイエットネタ)
(向うも人気ないから、どうオチつけるかって感じだしね)
(壮大にリバウンドか停滞して、俺たちの戦いは続く、とか?)
(あ、それは考えた)
(考えたのかよ。それってバトル漫画で恋愛小説じゃないし)
(もともと恋愛小説になってないし)
(え?)
(え?)


まみ夜
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