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07:雨降らし

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「びしょ濡れになって、記憶がないなんて、病気はないの?」
「えーと、通風に糖尿に高血圧、太ってて、なとなんだっけ」
「生活習慣病の塊だねえ。大丈夫なの、それ?」
 比奈子は、ちょっと考えて、
「健康のためにタバコ止めて、ってお願いしても、平気だから、って煙吹きかけるタイプだって。それでお母さんが怒って、下駄箱上にタバコを置かないと、家に入れなくなったみたいだけどね」
「床に、水は垂れていなかったの?」
「ある時もあるけど、しょっちゅう外で、びしょ濡れになって帰ってくるってこと?」
 それも変だけど、寝室ででも、おかしいでしょ。
「まあ、父親は嫌いだけど、祟りとかだったら、心配だし、怖いって」
 それ、父親が心配じゃなくて、自分らへ被害が広がるのが怖いんじゃ?
「友達はガーデニング部長って、家の庭も立派なの?」
 立派な庭に祟りそうな、祠とか、古い樹が、とか?
「ううん、隣のお宅はすごいけど、彼女の家は、ガレージだけ。隣のお婆さんの庭には、憧れてるみたいだけど」
「お待たせしました。パスタオムレツです」
 ローテーブルに、スパニッシュオムレツに似た形のオムレツが置かれた。
 一晩おいて一度冷やしたミートソースのパスタを大量の卵と焼いている。
 卵がふんわりで、中のパスタがモチモチなのだ。
 元々は、日替わりご飯物のパスタが残った翌日の裏メニューだったのだけど、あまりに美味しくて、「明日も来よう」とパスタを注文しなかったり、逆に「食べつくしてやる」なんて争いが起きたため、一時パスタが日替わりメニューから消えた、曰くつきの一品だ。
「どうぞ、ごゆっくり」
 立ち上がったパパに、比奈子が、声をかけた。
「この話、どう思います? バーテンダーさん」
 ちょ、おま、ナニしてくれてるの!?
 慌てる私に気づかないように、パパは、小首を傾げて、少し考えた後、
「思うに、人の仕業ではないでしょうか」
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