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おんすいのたま
ダツ
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今日も、無事にモンスター退治を終え、俺たちは夕食を囲んでいた。
俺は、ヤキトリをビールで、ミチルはシーフードパエリアで白ワイン、カムイはオムライスにウーロン茶だ。
俺たちの食卓は、一見すれば不自然ではない。
だが実は、俺たちは、コカトリスと戦ってから、鶏肉が食べにくくなっていたのだ。
それは、ヤツにファイアー・アローが中った時の匂いが原因だった。
とてもいい、焼肉の匂いがしたのだ。
カムイのオムライスは、ご飯が塩胡椒で味付けされた海老ピラフに変更されていた。
しかし、このままでは、食べるものがなくなる、と俺は逆にヤキトリを注文した。
ちなみに、焼き鳥は鶏肉だけだが、ヤキトリは他の肉も含む。
豚バラの間に玉葱を挟んだり、牛モモ串など、しばらくの期間、躊躇していた分、肉成分を堪能する。
始めは、ヤキトリが放つ強烈な匂いに、嫌な顔をしていた二人も、俺の食べっぷりにカムイが「一口ほしい」と言ったので、串からバラして、分けてやった。
ミチルは、まだ悩んでいるようで、スプーンを咥えて、肉を睨んでいた。
俺には、串から抜いたらヤキトリではない、という拘りはない。
だが、無断で全体に七味をかけるのは、却下だ。
唐揚げにレモンも、自分の分だけにしてくれクラスタだ。
カリカリの鶏皮でビールを飲み干してしまったので、空のジョッキを示して、お代わりを頼む。
そういえば、頼み損だったビールは当然、処分されていた。
正確には、スタッフが美味しくいただきました、だ。
魔法やIHコンロみたいなのがあるのに、ビールの泡を保ったり、コーヒーを冷めずにすることは不可能なようだ。
昔、読んだSFで、科学が発達して宇宙船に乗っているのに「コーヒーを煮詰めずに保温する方法は、まだ発明されていない」ことへの嘆きが書いてあって、過去に書かれた小説だが未来でも「人はどこまでいっても人なんだな」と感じたことを思い出した。
実際に、宇宙へ進出したら、食事やトイレ、寝具での悩みは尽きないのだろう。
超絶トレーニングを受けた超エリート宇宙飛行士が、「枕が代わって眠れない」とかあったら笑える。
なんてことを考えていたら、見覚えのあるギルド職員が、カムイに歩み寄ってきて、カードを渡した。
彼女は、それを開いて読み、
「明日、朝に伺います」
と答え、職員は帰っていった。
また、大至急の案件かと思ったので、肩から力が抜けた。
「指名でクエストを依頼したいから朝、来てほしいって」
カードを見せてもらったが、クエストの内容に関しては書いてない。
気にはなるな。
まあ、指名でクエスト依頼がくるとは、少しは信用が回復したか。
大至急じゃないから、ダンジョン関係ではないのだろう。
どんなクエストかの予想を話していたら、俺の中ジョッキが運ばれてくるのが見えた。
「え?なんで?」
それが、特殊装備を見た第一声だった。
ギルドで聞かされたのは、「あるアイテムの内部が、別空間になっていて、その中を探索してほしい」だ。
なんでも、その別空間での活動に必要な特殊装備の数が揃わないので、少数精鋭の俺たちに頼みたい、との依頼だ。
てっきり、「別空間」「特殊装備」で、例えば超高熱とか真空に耐えられる宇宙服みたいなものを想像していた。
が、差し出されたのは、水着だった。
もっと正確には、肘膝までのウェットスーツだ。
これって、アンダーとあんまり違わないんじゃないか?
「特殊装備の講習を担当するサクラです」
見覚えがある、と思ったら、ジャイアントワームのときに野良パーティーを組まされた、ツインテールの少女だった。
ミチルは、名前から「銭ゲバ」の方を連想したのか、ちょっと眉を顰め、カムイは組んだころの「死神」のアダナを知られていることで、ちょっと表情を硬くした。
ここは、ギルドの一室。
内部を探索するアイテムが保管してある部屋だ。
外見は、単なる水晶球に見えるが、触れることで、内部へ転送される。
必ず決まった、頂上付近の外壁の側へ転送され、外壁に触れることで、「外」へ戻ってこられるのだ。
出入りは比較的簡単だったが、その内部は、特殊な環境だった。
謎の液体で満たされているのだ。
水とは違い、呼吸ができる。
抵抗は、ほとんどないが、浮力はある。
つまり、手から離したものは落ちずに留まり、身動きにあまり制限はないが、逆に泳ぐことは、ほとんどできない。
まるで、無重力状態のようだ。
その中での動きを練習するために、俺たちはギルドに渡された水着姿で、酸素ボンベのような筒を背負い、手首足首にも、それの小型版をつけている。
そこに、講師と称して現れたのが、サクラだ。
俺たちと同じ装備をしている。
三者三様な表情に、
「あー、いろいろ気にしないで、こっちもクエストとして受けてるから。そちらはお客様」
営業スマイルで言われて一応、納得する。
「じゃあ、さくさく始めるわよ。この装備は海に潜るのと基本同じ」
海?
潜る?
ちょっとまった!
「え?なに?」
「海ってあるのか?」
「え、あるよ。あたし海辺の出身だし」
サクラが答え、ミチルが呆れたように、
「魚とか、どこで捕ってる、と思ってるのー?お店で売ってるだけじゃないのよ?」
カムイも頷いていて、海は常識だったらしい。
「・・・すまん、続けてくれ」
背中と手足の筒は、「水」を吸って吐き出すタイプの推進装置。
スクリュータイプは「水」の抵抗がないのでダメだったが、こちらは使えたようだ。
これで移動と姿勢制御、方向転換などを行う。
海では、背中に酸素ボンベを背負い、推進器は腹に抱えるそうだ。
実際に、水晶球に「潜って」みる、とサラっと、した水の中のようで、仄かに暖かかった。
目的方向へ進んだり、止まったりは簡単だったが、剣を振るうのが大変だった。
足で床を踏んでいるわけでないので、足の推進器をつかって下半身を固定して、腕の推進器でカウンターをあてて身体が回転しないように止める。
正直、面倒なので、実践になったら、龍鱗の剣を投げることが多いだろう。
納得いかないことに、魔力銃も魔法も普通に使えた。
なんでもありだな、魔法。
火球の熱が、残ったり伝わったりもしないようなので、龍鱗の剣の「燃やす」も火傷の心配なく、海のトリトンのように使えそうだ。
この「水」断熱材として、すごいんじゃないか、これでコーヒーもビールも保温できるのでは、と思ったが、「外」へ持ち出すことは、残念ながらできなかった。
「外」へ戻ったら、髪も身体もサラサラに乾いている。
というか、身体を激しく動かす必要がある俺だけ劣等生扱いで補習なのは、納得いかないんだけど?
俺たち四人はユックリ、と水晶球の中心に向かって「潜って」いた。
俺たちが指名でクエストを依頼されたのは、ギルドが用意できた潜水装備の数の関係だ。
サクラは、海辺出身のため自前の装備を持っていた上、講師をするくらい、慣れている。
わざわざ外す必要はなかった。
詳しく聞けば元々、水晶球は、俺が野良をやっていた街で、サクラが参加した野良パーティーで入手したアイテムだったそうだ。
あちらでは、ドロップアイテムはギルドが所有権を持つクエストが多い。
ギルドは、内部を探索しよう、とクエストを発行したが、向こうの街では、野良パーティーが主流なので、高価な潜水装備の持ち逃げ事件が発生して、手に負えなくなったため、サクラがこちらへ持ってくる依頼を受けたらしい。
ちなみに、水晶球は素手で触る、と中へ転送されてしまうが、手袋や布で包めば持てる。
「水」の透明度は高いが、中心までは見通せない。
ガイドカーソルも、討伐対象モンスターしか示さないので、何がいるかわからない今回は表示されず、油断できない。
マッピング機能も使えてはいるが、今のところは、進路を妨害するものはなく、白地図と変わらない。
前方に、点が見えた。
近づいてくるにつれて、魚っぽい、とわかり、ダツの名前とバーが出た。
まだ、距離がある、とノンビリ構えていたら、十字の盾に、衝撃を受けた。
なにかが、猛スピードで盾に衝突し、表面で滑って、後方へ抜けていく。
慌てて、そちらを向く、とダツがピタっ、と止まった。
方向転換は苦手なようでユックリ、と風見鶏のように回り、全体像が見えて、尖った口元が鈍く光っている。
あれが、あの勢いで身体に突き刺さったら、ヤバそうだ。
その横腹に、銃弾が叩き込まれ、バーが黒くなった。
あまり、ヒットポイントは多くないようだ。
ホッ、として中心に向き直ったら、大量のダツが迫っていた。
俺は、十字の盾を大型化し、三人を後ろに庇った。
ガッツンガッツン音を立てて、加速したダツが盾を貫こう、と中り、滑っていく。
それを、方向転換に手間取っているうちに、カムイの銃弾とミチルのファイアー・アローが撃墜していった。
十字の盾は、その十字部分以外はバリアーなので、視界を遮らないのが利点のひとつだ。
が、この状況では、透明なのが怖い。
ダツの目が無表情なのも怖い。
サクラは、ファイターなので、手の出しようがなく、膝を抱えるようにして、なるべく小さくなっていた。
ようやく、ダツの雨霰が終わり、魔法を使ったミチルのヒットポイントの消費が激しいので、その場に留まり、回復アイテムを使えるようになるまで十五分、待つことにした。
周りを警戒はしているが、暇だ。
俺はストローのついたペットボトルから「水」の中で水を飲んだ。
その指先が、薄く霞んでいるのに気がつく。
「なあ、透明度が下がってないか?」
ダツが動いて、泥のようなものが、中心から舞い上がったのだろうか?
霧が広がるように、視界が淡く白く染まっていく。
障害物ではないからか、マップにも表示はされない。
周囲を見渡し、サクラが、自分の腕の見え具合を確かめるように見つめ、意を決したように、話かけてきた。
「聞いて欲しい話があるんだけど」
なんだ?
「この世界は実は」
世界?
ナニを言い出そうとしている?
床が透明な塔、カプセルの群れ、星海の残影がチラつく。
思わず見た、サクラの口元に、赤黒いものが散った。
「ふ、え?」
その腹に、白く太い杭のようなものが、突き刺さっていた。
バーが、みるみる赤く減っていく。
刺さった杭ごと、サクラの身体が中心部に向かって、物凄い勢いで、引っ張られていき、見えなくなった。
距離が離れすぎてパーティーから自動的に離脱させられたのか、バーが消えた。
「サクラ!」
叫んだ腕に、衝撃が走る。
大型化したままだった十字の盾を白い杭が、霞めていた。
一瞬、止まり、同じスピードで、それが戻っていった白い「水」の中から、白い巨体が現れた。
俺は、ヤキトリをビールで、ミチルはシーフードパエリアで白ワイン、カムイはオムライスにウーロン茶だ。
俺たちの食卓は、一見すれば不自然ではない。
だが実は、俺たちは、コカトリスと戦ってから、鶏肉が食べにくくなっていたのだ。
それは、ヤツにファイアー・アローが中った時の匂いが原因だった。
とてもいい、焼肉の匂いがしたのだ。
カムイのオムライスは、ご飯が塩胡椒で味付けされた海老ピラフに変更されていた。
しかし、このままでは、食べるものがなくなる、と俺は逆にヤキトリを注文した。
ちなみに、焼き鳥は鶏肉だけだが、ヤキトリは他の肉も含む。
豚バラの間に玉葱を挟んだり、牛モモ串など、しばらくの期間、躊躇していた分、肉成分を堪能する。
始めは、ヤキトリが放つ強烈な匂いに、嫌な顔をしていた二人も、俺の食べっぷりにカムイが「一口ほしい」と言ったので、串からバラして、分けてやった。
ミチルは、まだ悩んでいるようで、スプーンを咥えて、肉を睨んでいた。
俺には、串から抜いたらヤキトリではない、という拘りはない。
だが、無断で全体に七味をかけるのは、却下だ。
唐揚げにレモンも、自分の分だけにしてくれクラスタだ。
カリカリの鶏皮でビールを飲み干してしまったので、空のジョッキを示して、お代わりを頼む。
そういえば、頼み損だったビールは当然、処分されていた。
正確には、スタッフが美味しくいただきました、だ。
魔法やIHコンロみたいなのがあるのに、ビールの泡を保ったり、コーヒーを冷めずにすることは不可能なようだ。
昔、読んだSFで、科学が発達して宇宙船に乗っているのに「コーヒーを煮詰めずに保温する方法は、まだ発明されていない」ことへの嘆きが書いてあって、過去に書かれた小説だが未来でも「人はどこまでいっても人なんだな」と感じたことを思い出した。
実際に、宇宙へ進出したら、食事やトイレ、寝具での悩みは尽きないのだろう。
超絶トレーニングを受けた超エリート宇宙飛行士が、「枕が代わって眠れない」とかあったら笑える。
なんてことを考えていたら、見覚えのあるギルド職員が、カムイに歩み寄ってきて、カードを渡した。
彼女は、それを開いて読み、
「明日、朝に伺います」
と答え、職員は帰っていった。
また、大至急の案件かと思ったので、肩から力が抜けた。
「指名でクエストを依頼したいから朝、来てほしいって」
カードを見せてもらったが、クエストの内容に関しては書いてない。
気にはなるな。
まあ、指名でクエスト依頼がくるとは、少しは信用が回復したか。
大至急じゃないから、ダンジョン関係ではないのだろう。
どんなクエストかの予想を話していたら、俺の中ジョッキが運ばれてくるのが見えた。
「え?なんで?」
それが、特殊装備を見た第一声だった。
ギルドで聞かされたのは、「あるアイテムの内部が、別空間になっていて、その中を探索してほしい」だ。
なんでも、その別空間での活動に必要な特殊装備の数が揃わないので、少数精鋭の俺たちに頼みたい、との依頼だ。
てっきり、「別空間」「特殊装備」で、例えば超高熱とか真空に耐えられる宇宙服みたいなものを想像していた。
が、差し出されたのは、水着だった。
もっと正確には、肘膝までのウェットスーツだ。
これって、アンダーとあんまり違わないんじゃないか?
「特殊装備の講習を担当するサクラです」
見覚えがある、と思ったら、ジャイアントワームのときに野良パーティーを組まされた、ツインテールの少女だった。
ミチルは、名前から「銭ゲバ」の方を連想したのか、ちょっと眉を顰め、カムイは組んだころの「死神」のアダナを知られていることで、ちょっと表情を硬くした。
ここは、ギルドの一室。
内部を探索するアイテムが保管してある部屋だ。
外見は、単なる水晶球に見えるが、触れることで、内部へ転送される。
必ず決まった、頂上付近の外壁の側へ転送され、外壁に触れることで、「外」へ戻ってこられるのだ。
出入りは比較的簡単だったが、その内部は、特殊な環境だった。
謎の液体で満たされているのだ。
水とは違い、呼吸ができる。
抵抗は、ほとんどないが、浮力はある。
つまり、手から離したものは落ちずに留まり、身動きにあまり制限はないが、逆に泳ぐことは、ほとんどできない。
まるで、無重力状態のようだ。
その中での動きを練習するために、俺たちはギルドに渡された水着姿で、酸素ボンベのような筒を背負い、手首足首にも、それの小型版をつけている。
そこに、講師と称して現れたのが、サクラだ。
俺たちと同じ装備をしている。
三者三様な表情に、
「あー、いろいろ気にしないで、こっちもクエストとして受けてるから。そちらはお客様」
営業スマイルで言われて一応、納得する。
「じゃあ、さくさく始めるわよ。この装備は海に潜るのと基本同じ」
海?
潜る?
ちょっとまった!
「え?なに?」
「海ってあるのか?」
「え、あるよ。あたし海辺の出身だし」
サクラが答え、ミチルが呆れたように、
「魚とか、どこで捕ってる、と思ってるのー?お店で売ってるだけじゃないのよ?」
カムイも頷いていて、海は常識だったらしい。
「・・・すまん、続けてくれ」
背中と手足の筒は、「水」を吸って吐き出すタイプの推進装置。
スクリュータイプは「水」の抵抗がないのでダメだったが、こちらは使えたようだ。
これで移動と姿勢制御、方向転換などを行う。
海では、背中に酸素ボンベを背負い、推進器は腹に抱えるそうだ。
実際に、水晶球に「潜って」みる、とサラっと、した水の中のようで、仄かに暖かかった。
目的方向へ進んだり、止まったりは簡単だったが、剣を振るうのが大変だった。
足で床を踏んでいるわけでないので、足の推進器をつかって下半身を固定して、腕の推進器でカウンターをあてて身体が回転しないように止める。
正直、面倒なので、実践になったら、龍鱗の剣を投げることが多いだろう。
納得いかないことに、魔力銃も魔法も普通に使えた。
なんでもありだな、魔法。
火球の熱が、残ったり伝わったりもしないようなので、龍鱗の剣の「燃やす」も火傷の心配なく、海のトリトンのように使えそうだ。
この「水」断熱材として、すごいんじゃないか、これでコーヒーもビールも保温できるのでは、と思ったが、「外」へ持ち出すことは、残念ながらできなかった。
「外」へ戻ったら、髪も身体もサラサラに乾いている。
というか、身体を激しく動かす必要がある俺だけ劣等生扱いで補習なのは、納得いかないんだけど?
俺たち四人はユックリ、と水晶球の中心に向かって「潜って」いた。
俺たちが指名でクエストを依頼されたのは、ギルドが用意できた潜水装備の数の関係だ。
サクラは、海辺出身のため自前の装備を持っていた上、講師をするくらい、慣れている。
わざわざ外す必要はなかった。
詳しく聞けば元々、水晶球は、俺が野良をやっていた街で、サクラが参加した野良パーティーで入手したアイテムだったそうだ。
あちらでは、ドロップアイテムはギルドが所有権を持つクエストが多い。
ギルドは、内部を探索しよう、とクエストを発行したが、向こうの街では、野良パーティーが主流なので、高価な潜水装備の持ち逃げ事件が発生して、手に負えなくなったため、サクラがこちらへ持ってくる依頼を受けたらしい。
ちなみに、水晶球は素手で触る、と中へ転送されてしまうが、手袋や布で包めば持てる。
「水」の透明度は高いが、中心までは見通せない。
ガイドカーソルも、討伐対象モンスターしか示さないので、何がいるかわからない今回は表示されず、油断できない。
マッピング機能も使えてはいるが、今のところは、進路を妨害するものはなく、白地図と変わらない。
前方に、点が見えた。
近づいてくるにつれて、魚っぽい、とわかり、ダツの名前とバーが出た。
まだ、距離がある、とノンビリ構えていたら、十字の盾に、衝撃を受けた。
なにかが、猛スピードで盾に衝突し、表面で滑って、後方へ抜けていく。
慌てて、そちらを向く、とダツがピタっ、と止まった。
方向転換は苦手なようでユックリ、と風見鶏のように回り、全体像が見えて、尖った口元が鈍く光っている。
あれが、あの勢いで身体に突き刺さったら、ヤバそうだ。
その横腹に、銃弾が叩き込まれ、バーが黒くなった。
あまり、ヒットポイントは多くないようだ。
ホッ、として中心に向き直ったら、大量のダツが迫っていた。
俺は、十字の盾を大型化し、三人を後ろに庇った。
ガッツンガッツン音を立てて、加速したダツが盾を貫こう、と中り、滑っていく。
それを、方向転換に手間取っているうちに、カムイの銃弾とミチルのファイアー・アローが撃墜していった。
十字の盾は、その十字部分以外はバリアーなので、視界を遮らないのが利点のひとつだ。
が、この状況では、透明なのが怖い。
ダツの目が無表情なのも怖い。
サクラは、ファイターなので、手の出しようがなく、膝を抱えるようにして、なるべく小さくなっていた。
ようやく、ダツの雨霰が終わり、魔法を使ったミチルのヒットポイントの消費が激しいので、その場に留まり、回復アイテムを使えるようになるまで十五分、待つことにした。
周りを警戒はしているが、暇だ。
俺はストローのついたペットボトルから「水」の中で水を飲んだ。
その指先が、薄く霞んでいるのに気がつく。
「なあ、透明度が下がってないか?」
ダツが動いて、泥のようなものが、中心から舞い上がったのだろうか?
霧が広がるように、視界が淡く白く染まっていく。
障害物ではないからか、マップにも表示はされない。
周囲を見渡し、サクラが、自分の腕の見え具合を確かめるように見つめ、意を決したように、話かけてきた。
「聞いて欲しい話があるんだけど」
なんだ?
「この世界は実は」
世界?
ナニを言い出そうとしている?
床が透明な塔、カプセルの群れ、星海の残影がチラつく。
思わず見た、サクラの口元に、赤黒いものが散った。
「ふ、え?」
その腹に、白く太い杭のようなものが、突き刺さっていた。
バーが、みるみる赤く減っていく。
刺さった杭ごと、サクラの身体が中心部に向かって、物凄い勢いで、引っ張られていき、見えなくなった。
距離が離れすぎてパーティーから自動的に離脱させられたのか、バーが消えた。
「サクラ!」
叫んだ腕に、衝撃が走る。
大型化したままだった十字の盾を白い杭が、霞めていた。
一瞬、止まり、同じスピードで、それが戻っていった白い「水」の中から、白い巨体が現れた。
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