【完結】剣と魔法と魔力銃でモンスターを狩って楽しく暮らしていた「が」

まみ夜

文字の大きさ
上 下
8 / 28
のろいのりゅう

ジャイアント・アント

しおりを挟む
 命の種は、倉庫に送られていたし、ユウゾウの村でレベルアップできたおかげで、来るときには苦労したモンスターにも恐れずにすみ、温泉で余分に一泊したりしてノンビリ、と帰った俺たちを出迎えたのは、呪いが解けたはずの「呪いの龍鱗」が起こしているトラブルだった。
「あっつっ!」
 ギルドの転送石に戻ってきたら、暑かった。
 尋常な暑さじゃなくて、サウナの中のようだ。
 グッタリしていたギルド職員が、俺たちに向かって、すっ飛んできた。
 そして、説明もなく、引っ張っていかれる。
 どうでもいいが、向かう先の方が、暑くないか?
 ギルド倉庫の前は、灼熱だった。
 冗談ではなく、体験学習でガラス工房の溶鉱炉の前にいたときみたいだ。
「早く中へ!」
 いやいやいや、無理だろう、これ。
 汗だくで、後退ろう、としたら、焦れた職員に強く押された。
 よろめいて、一歩前へ出たら、熱気が唐突に消えた。
 おおー、というどよめきが聞こえる。
 ランドウが開いた倉庫のドアの先には、呪いが解けたはずの「龍鱗」があった。

 灼熱地獄は落ち着いたけど汗だくなので、とりあえずシャワーを浴びて再集合した俺たちは、ようやく事の顛末を聞けた。
 命の種で、呪いが解けた龍鱗は、発熱しだした。
 鑑定でわかったのは、「持ち主から離れると発熱する」性質があることだ。
 この「持ち主」というのは、腐りアーマー・ドラゴンを倒した俺たちのことらしい。
 そのとき、パーティーに入っていたオカダで宥めよう、と試したが、ダメだったそうで、理由はよくわからない。
 呪いを説くのに関係していなかったからではないか、と推測されてはいたが。
 逆に、「お前じゃない」的に、オカダが近づいた後、熱の範囲が広がりだしたらしい。
 呪いのときといい範囲、広げるの好きだな、龍鱗。
 氷の魔法を使ったりするも、効果がなく、ギルドがサウナ状態になって三日、ようやく俺たちがノンビリ帰ってきたわけだ。
 幸い、発火するほどの温度にならなかったが最悪、俺たちがノンビリしたせいで、この街くらいは滅んでいたかもしれない。
 世界を救ったはずの俺たちは、歓迎されるどころか、「世界救ったら、とっとと帰ってこい。戻るまでが世界救済です!」と叱責される始末だった。
 お説教を聞き流しながら、シャワー後に水は飲んだがそれでも、ものすごい量の汗をかいたので、ひたすら冷たいビールを呑みたい、とばかり考えていた。

 大人しくなった龍鱗は、厚みの薄い、六十センチくらいの涙滴形をしていた。
 加工すれば、槍の穂先などの武器になる、とのことだった。
 残念ながら、加工で小さくなるので、ロング・ソードには長さが足りず、俺用のショート・ソードにすることになった。
 「持ち主から離れると発熱する」性質があるので、加工に付き添わないといけないか、と思ったが、問題なかった。
 どうやら、「持ち主(俺)」が、「離れた」と思うと発熱するようだ。
 これで、外して倉庫に転送もできるし、なにより投げて使える可能性が出てきた。
 もっとも、投げた後、素手にならないように、今まで使っていた剣は、予備として装備しておくつもりだ。
 二刀流にするのも、いいかもしれない。
 「龍鱗の剣」ができあがったとき、ギルドから、発熱する武器の可能性を研究したい、と言われ、練習もしてみたかった俺は、素直に呼び出しに従った。

 転送された先に、ジャイアント・アントの名と、わずかに赤が残ったバーが現れた。
 その脇にたたずむ、オカダに似た黒い鎧の青年。
「やあ、待ってたよ」
 彼がギルド職員なのだろう。
「じゃあ、さっそく、投げてみて」
 瀕死の巨大な蟻を示す。
 ちょっと待て、嬲れっていうのか?
「やりにくいかい?いつもやっていることだろう?」
 なぜか、サクラとユウゾウの顔が、チラついた。
 そして、ユウゾウの村の村人たち。
 深呼吸をして、俺はユックリ、と龍鱗の剣を逆手で抜き、投げた。
 突き刺さったことで、わずかにバーが削れる。
 俺は、剣に向かって念じた。
「燃えろ」
 一瞬にして、バーが黒くなり、激痛が俺を襲った。

「ねえ、ケイ、ケイったら!」
 俺は、急に耳元で響いた大声で、我に返った。
「うわ、何だ?」
「もう、ケイったら、聞いてなかったんでしょ?」
 ミチルが、俺の隣に座り、頬を膨らませていた。
 サクラの、ユウゾウの、ジャイアント・アントの黒くなったバーの残影がチラつく。
「もう、ケイったら!」
 俺は少しボーっ、としていたらしい。
「まあまあ、ミチル。ケイも初めての実験で、疲れたんだよ」
 向かいに座ったランドウが、ミチルへ執成すように言う、とその隣のカムイも同意するように無言で、何度も頷いていた。
 今日は、龍鱗の剣の実験で、残りわずかだったとはいえ、一撃でジャイアント・アントを倒した。
 そして、俺のバーも真っ赤になり、そのまま昏倒した。
 回復アイテムのおかげで助かったが、かなり危ない状況だったらしい。
 結果、剣を発熱させるには、俺のヒットポイントが必要、とわかった。
 メイジの魔法と同じだ。
 ただ違うのは、ファイターは、矢面に立つ分、攻撃を受ける可能性が高いことだ。
 ヒットポイントを消費して大ダメージを与えた後、その集めたヘイトで攻撃を受けたら、あっさり死ぬ。
 必殺技の必殺が、自分が必ず死ぬ方の意味になってしまう。
 幸い、雑にではあるが、威力の調節もできるし、剣を手に持ったままの発熱も可能だった。
 しかし、この事実は、俺に命の選択を迫るもの、となった。
 つまり、この必殺技で、自分が死ぬかもしれないのに助けるか、助けずに見殺しにするかだ。
 それが、パーティーの誰かであれば、俺は躊躇いなく使うだろう。
 ただ、それが助っ人だったら?
 ヒュドラやアーマー・ドラゴンに突っ込むサクラへは?
 ユウゾウのためには?
 自分の命をかけて、必殺技を使えるだろうか?
 三人には、俺が昏倒したことや、そこまでの高出力を出せることは話していないので、ちょっとヒットポイントを使って飛び道具になる便利な武器くらいにしか思ってない。
 真実を話すべきなのだろうか?
「あ、ああ、ちょっと疲れたみたいで、悪い」
 俺が、悩みながらも言う、とランドウが頷き、
「わかるよ。ここのところ連戦続きだったんだから」
 俺は、「実験で疲れた」を理由に、立ち上がった。
 とにかく、一人になりたかった。
 その背に、ミチルが声をかけてきた。
「ケイ、お疲れ様」
 俺は、振り返れずに、手を挙げるだけで応えた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~

そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」 「何てことなの……」 「全く期待はずれだ」 私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。 このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。 そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。 だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。 そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。 そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど? 私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。 私は最高の仲間と最強を目指すから。

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第三章フェレスト王国エルフ編

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

高校生とUFO

廣瀬純一
SF
UFOと遭遇した高校生の男女の体が入れ替わる話

処理中です...